薔薇の学舎へ

波羅蜜多実業高等学校

校長室

葦原明倫館へ

THE RPG ~導かれちまった者たち~

リアクション公開中!

THE RPG ~導かれちまった者たち~

リアクション

 一方、後から来た勇者たちは。
 魔王との対決なのですが……。
「あ、こんにちわ。勇者さんですね。魔王城へようこそ」
 花に水をやりながら出迎えてくれたのは、魔王の手下Cの罔象女 命(みづはのめの・みこと)です。
「魔王様ですか? 奥にいますよ」
 あっさりと案内してくれる彼女に勇者たちは拍子抜けです。
「いいのでしょうか、これで……」
「……」
 もう誰も突っ込みません。疲れたからです。早く魔王を倒して帰りたいです。
 モンスターとも出会わずにフリーパスで奥までやってきた勇者たちは、ついに魔王と対面です。
「ところがそうはいかん。魔王様がでるまでもない。ここで葬り去ってくれよう」
 部屋へ入って行くと、魔王の副将が立ちはだかりました。
 セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)なのですが、なぜか彼女レオタード姿です。いや、これはこれで悪の女幹部にはふさわしい格好じゃないでしょうか。
「くくく……、私は魔王たちほど甘くはないぞ。すべての攻撃を食らって死ね!」
 
「……あれ?」
 気がついたらセレアナは地面で寝ていました。
「あ、動かないほうがいいぞ、かなり強く全身を打っているから」
 あっさりと教えてくれたのは、セフィーだったりします。
 セレアナは特に描写もなく敗れた様子。
 勇者は十数人パーティーなんですから仕方がありません。おまけに以前とは段違いでLVが上がっています。
「ふははははっ! 少しはやるようだな、勇者よ。だが副将を倒した程度でいい気にならないことだ」
 闇の向こうから人影が浮かび上がります。
 魔王セレンティフィは王座から立ち上がりました。
「我は全てを滅ぼすために地の底から蘇った! 貴様らの苦しみは我が喜び! 呪いこそが祝福! 滅び行く者たちにかける言葉などない! さあ、惨めに朽ち果てるがいい!」
 グオオオオッッ! と全身から禍々しいオーラを放ってセレンティフィは襲い掛かってきます。

「……あれ?」
 気がついたらセレンティフィは壁にめり込んでいました。
「あ、動かないほうがいいよ。死んじゃったら大変でしょ」
 透乃はニッコリと微笑みます。勇者の慈愛の笑みです。
 セレンティフィは描写もなく敗れた様子。
 ビキニの着替えに時間をとりすぎて、準備を怠っていたようです。こういうお話です、仕方がありません。
「ふん、そんな低レベルな戦いをして楽しいか? 魔軍の恐ろしさがわかっていないようだな」
 次に勇者たちを抹殺すべく出現したのは、魔王の手下Bの天照 大神(あまてらす・おおみかみ)です。名前はすごいけど役柄が台無しです。もう負けフラグ立ちまくりです。
「くくく……。本物の恐怖を教えてやろう。煉獄の炎に焼かれてのた打ち回って死ぬ……え? 城で炎を使っちゃ駄目って……あ、ちょっと待……そんな、本気で剣で斬られたら……」
 魔王の手下Bは倒れました。
「よくぞ私を倒した。だが勘違いするな。魔王城でなければ、貴様らなど私の炎で一瞬で丸焼きにできたのだ! これで勝ったと思うなよ!」
 捨て台詞をはいてよろよろと退散していきます。
「……」
 さらに奥に行くと、緑の少女が花を栽培していました。
「あ、こんにちわ。お花、見ていきますか?」
 魔王幽那は笑顔で招き入れてくれました。
 勇者たちもうかつでした。これまでの展開と彼女のほんわかした雰囲気にだまされたのです。
「……お花、好きなんですか? これ何ですか?」
 聞いてしまったが運の尽き。
 幽那はとても嬉しそうに植物の魅力を語ってくれます。それはもう、とうとうと。
「ごめんなさい。もう勘弁してください」
 夜が明ける頃、勇者たちはとうとう降参しました。植物魔王の前にあえなく敗れ去ったのです。
「帰ったら、お花を植えるのよ。これ、苗あげるから」
「あ、ありがとう」
「植物ってね、意思疎通できるのよ。愛情こめて育てたらきっと返ってくるから。わかった……?」
「わかりました」
 幽那にこんこんと諭されて、勇者たちは部屋を後にします。
「……もう、とにかく疲れた」
 魔王との連戦は勇者たちにとっても堪えるようです。
 最後の部屋には、魔王アスカがいます。入って行くと、丁寧に出迎えられました。
「ふふふ〜……あーはっはっはぁ! ゲホッ! ごほっ! ごほっ!」
 笑い損なって咳き込んでいます。もう初対面から駄目そうです。
「……ふう、よくぞここまで来たな……勇ちゃ達っ! ……あ、噛んじゃった。えっと〜……次は何だっけぇ?」
 彼女、ポケットからカンニングペーパーを取り出しています。
 さて、次へ行きましょうか。ラスボスは、と……。
「ちょ、無視しないでよぅ! あ、そうだ。ここから先にある宝物庫の秘宝は絶対に渡さないわよぉ!」
「……宝物庫の秘宝は、ここにはないでしょう」
「え……っ、何でばれたの……!?」
 答えてから、しまったという表情のアスカ。
「……ふふふっ……この私をここまで追い詰めるとはさすが勇者ね。だが、封印をといた秘術の前に耐えられるかな……!」
 アスカは何か必殺技を出そうと飛び上がって。
 ずでん、とその場にひっくり返ります。
「……うぅ……ぐす。……ひっく」
 そのまま泣き始めてしまいました。
「もういいもん。帰って寝るもん……ぐすっ」
「あ〜泣くな泣くな……。お前が頑張ってるのは俺がよく分かってるから、な?」
 そっとハンカチを差し出したのは、アスカのサポート役の蒼灯 鴉(そうひ・からす)です。
「今度は失敗しなきゃいいんだ、大丈夫。アスカはやればできるだろ……。玉座の掃除、俺も手伝うから元気出せ」
「そっか、王座の掃除しないといけないんだった」
 アスカが立ち直りかけたときでした。
「あんたら、なにをおかしな遊びしてんの!?」
 向こうからずんずんと足音を立ててやってくる人影がいました。
「ひ、ひいいいっっ、おかん。かんにんや〜」
 アスカはその姿を見てうずくまりぶるぶる震え始めます。
「人が一生懸命切り盛りしてる城で、なにをめちゃくちゃにしてくれてんの!」
 ものすごい迫力と共に現れたのは、魔王のおっかさんという役柄らしい、宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)です。
 どれくらいおっかさんかというと、頭頂部と頭の側部が三つ盛り上がった髪型をしているくらいですから本物です。
 彼女はひとしきり城内の惨状を見回した上、勇者たちをギロリとにらみます。
「あんたら、勇者かなんか知らんけど、他人の家荒らして宝物もって行くのはドロボーちゃうんけ!? 家入るときは御免ください言わなあかんし、奥へ入るときは靴脱がなあかへんのとちゃうか!? マナー守れんでなにがクリスタルじゃ!」
 ぶんっ! と手に持っていたハタキを凪ぎます。
「……!」
 それだけで爆風が沸き起こり、城の壁がビリビリと震えます。
「きっちり掃除の仕方教えたるから覚悟しなさい!」
「……!」
 どうやら、彼女が本当の魔王の城の真の主のようです。
 これまでのどの敵よりも強大な魔力。本気の戦いが始まります。
 ズゴゴゴゴゴゴ……! 
 おっかさんが腕を振り上げただけで、床がめくれ上がり瓦礫となって宙に浮きます。竜巻が襲い掛かり、勇者たちを巻き込みます。
「うわああああっっ!?」
 もちろん、勇者たちも負けてはいません。
「どうしても、帰らなきゃならないの! 通してもらうから」
 透乃が言います。
「まあ、待たれよ」
 せっかくの貴重な戦闘を、空気を読まずに止めに入ってくる者がいます。
「魔王と勇者との戦いはもう決着がついているだろう。後は私に預けて欲しいのだが」
 やってきたのは、魔界の大公、真の魔族リブロ・グランチェスター(りぶろ・ぐらんちぇすたー)です。
「勇者よ。生き残った魔王国諸侯筆頭として停戦条約について交渉したい。席に着け」
「停戦ですって?」
「おっと、自己紹介が遅れたな。私は魔王国クラウディア=アルケイディア領大公リブロ・グランチェスター。見ての通り、おまえ達が嫌う魔族だ。……が、まあ今は詮無きこと。戦っても無益なだけだ」
「どういうつもりなの?」
「どうもこうも、言ったとおりだ。魔王が……う〜む、まあなんというか敗れた後は、我々は統率を欠くだろう。早急に引き上げる。だから貴様ららもここまでにしておけということだな」
「はしごをはずされた気分……」
「なんなら、お前たちがあちらの世界へ帰れるまで秘宝を守護してもいいし、クリスタルの元へと導いてもいい。悪くない話だろう」
 付け加えたのは、忠実なる魔界の親衛隊長レノア・レヴィスペンサー(れのあ・れう゛ぃすぺんさー)でした。
「真の敵は何者かをよく考えよ。貴様らの戦うべきは全魔軍か? それとも別の何かか?」
「確かに、クリスタルを破壊するのが最終目的のはず……」
「ならば話は早い。戦いは貴様らの勝ちだ。おめでとう。我々は魔界へ帰る。以上だ」
「……」
 これはもう、文句のつけようがありません。
「あの、真面目に戦えなくてごめんね。みんな、一生懸命だったんだけど、手が回らなくて……」
 魔王たちを助け起こしながら、お詫びの言葉を述べているのは、ミスティ・シューティス(みすてぃ・しゅーてぃす)です。その対応に、魔王たちももう何も言いませんでした。
「やれやれ、仕方がないね、この子たちは。……ほら、シャンとしなさいあんたたち! 暴れたところは直してもらうからね!」
 ぷんすか怒りながら、おっかさんは魔王たちを引っ張っていきました。
 こうして。
 リブロの仲裁で魔王との戦いは幕を閉じたのでした……。