波羅蜜多実業高等学校

リアクション

　　　エピローグ

「やあやあやあ、無事で何よりだったよ！」
「……置いていった当人が、言うことか？」
　于禁　文則はフィーア・四条を睨み付けた。
「置いてきたくて置いてったわけじゃないよ？　気が付いたら、君が哨戒仕様脚部装着型飛行ユニットに乗っていなかっただけだよ？」
「……俺はそんなに影が薄いのか」
「まあ、無事でよかったよ！」
　フィーアはからからと笑った。


　レイカ・スオウは、一人、遺跡に佇んでいた。彼女は後悔していた。悩むあまり、結局、何もしなかったことに。
「古の大魔法」が彼女の望みを叶えてくれるかどうか、分からない。しかしレイカは、それを手に入れるために手を伸ばさなかった。
　カガミ・ツヅリはそれでいいと言ってくれたが、レイカは後悔していた。そうして、これからどうするべきかを考えていた。


　大岡　永谷は、調査結果をまとめ、スタニスタスに口頭で報告をした。
　結局、内通者はメイザース自身であったため、防諜もへったくれもなかったわけだが、それでもマニュアルは役に立つだろうと、スタニスタスの指示で永谷が作成に乗り出すことになった。
　変な野心は身を滅ぼすことになる――と永谷は思っていたが、正にその通りになった。いや、それはこれからの話なのかもしれない。


　スタニスタスは結局、遺跡へは行かなかった。街に潜んでいた饗団の魔術師を見つけて撃退、クラウンから魔石を受け取ったのだ。その中にエレインがいることを、彼はすぐさま理解し、大事に懐へ入れて持ち帰った。
　涼介の前で魔石が割られ、無事に救い出されると、まずスタニスタスの怒号が響いた。彼の説教は延々続きそうで、遂に治療があるのでと高峰　結和（たかみね・ゆうわ）に追い出された。
　結和は、全てを見届けていた。
　彼女は――既に昨日になるわけだが――イブリスに眠らされた後、【人の心、草の心】で彼らの後を追った。
　遺跡にいるということまでは分かったが、駆け付けたとき、戦いは既に始まっていた。
　だから結和は決めた。結果がどうあれ、全てを見届けようと。
　話を聞き終えたエレインは、ベッドの上でぽつりと言った。
「メイは――私を恨む気持ちに付け込まれたのでしょうね」
「何に、ですか？」
「『大いなるもの』です」
　結和は驚いてエレインを見つめた。
　エレインの外見は二十代後半、三十までもう少し、というところだろう。肩までのウェーブがかった白髪と鼻の頭にうっすら残ったそばかすが、印象的だ。メイザースと違って美人というタイプではないが、可愛らしい顔立ちと言える。
　その彼女が実は七十歳と聞いて、結和は目を丸くした。イブリスも同じ年らしいが、全く魔術師には驚かされる。
「……では、イブリス、さんも」
「そうでしょうね……。彼は、会長になれなかったことを恨んでいましたから」
　その心に、「大いなるもの」が入り込んだ。
　メイザースに刺されたイブリスもまた、大量の血痕を残し、消えた。
　闇黒饗団の魔術師たちは、一部は投降したが、逃げた者も多い。ちなみにネイラは、投降した中にはいなかった。
　本部は滅茶苦茶に破壊されたため、探索に手間取っている。結界を利用して補強したスタニスタスが、遺跡が崩落しなかったのは奇跡だと顔をしかめた。
　そしてメイザースは。
「……また、来るでしょうか？」
「来るでしょう。『大いなるもの』が二人を操った、いえ、ひょっとしたら他にもいるかもしれません。ということは、封印に綻びが生じているということです。つまり――」
　――決戦の時が近いのだと、エレインは太陽と並ぶ大きな月を眺め、そう呟いた。