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取り憑かれしモノを救え―調査の章―

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●取り憑かれたミルファ1

「ちょーっと待ちなー!」
 当たり一帯に、結城奈津(ゆうき・なつ)の声が響く。
 ここはまだ、村からそう離れていない農地だ。
 ゆっくりとした足取りで歩みを進めているミルファを見つけた奈津は、大声を出してミルファの気を引いた。
「何?」
 ニタァっとした笑みを浮かべてミルファは奈津に振り返る。
 儀式の前の彼女からは想像ができない表情に、少しだけ奈津はたじろいだ。
「村の人たちは逃がさせて貰うよ」
「……別にいいよ? あんな斬ってもつまらない人間、逃げたって」
 ミルファは笑みを崩さずに言う。
「君たちは、ボクの邪魔をするのかい?」
「当たり前だ! 破壊と殺戮なんてさせない!」
「くすっ、破壊と殺戮、かあ。ふふっ。ボクも怖がられてるなあ」
 くすくすとミルファは口元に手を当てて笑い声を上げ続ける。
「まあ、そういうことでいいや――じゃあ、君は殺してもいいんだね」
 そう言って、ミルファは剣に紫電を纏わせる。
「そうこなくっちゃ……はぁっ!」
 奈津も負けじと【火術】でミルファと自分を囲む正方形の物体を作り上げる。
「あたし特製の炎のリング! あたしの流儀はルチャ・リブレ!」
 簡素ながら四方にはポールのようなものが生え、それを2本の帯状の炎が囲んでいた。
「威勢がいいねえ」
 ミルファはぐっと腰を落とし、奈津の攻撃に備えているようだった。
(……カウンターでも狙っているのか?)
 バチバチと剣に纏っている紫電は爆ぜているのに、ミルファは動かない。
 あれは明らかに【轟雷閃】だろうと予想はできるのだが。
「なんだ、誘ってるのに……」
 ミルファがしょんぼりと肩を落として構えを解いた。
「折角一撃、入れられるはずだったのに、ねえ?」
 言葉とともに、ミルファが奈津の目の前に表れた。
 油断していたわけではない。奈津の認識を超える速度でミルファが移動していた。
「なっ――!」
 咄嗟の判断で【軽身功】を用い、地を力強く蹴る。
 そして、空を切るミルファの剣。
 削岩機が起こす騒音よりも遥かに大きな音を立てて、今ミルファがいた場所の地面が抉れる。
「あーあ、外しちゃった」
「食らえ!」
 空に舞い上がった勢いのまま、奈津は足元に炎を起こす。
 纏った【爆炎波】が重力に引かれ速度を増す蹴りに、さらに威力を乗せる。
 着弾。足元にはしっかりとした肉の感触。
 くるりと一回転して、奈津はミルファから距離をとった。
「うーん、痛い、けど軽いねえ。君くらいの実力だと、さっきのおじさんと同じくらいかな」
 蹴られた姿のままミルファは言った
 確実に捕らえたはずだった。
「うん、殺すのは勿体無い。もっと強くなりなよ。ボクがまた誰かの体乗っ取って相手してあげるからさ」
「何を言って――」
 ミルファは開いている手で空を指し、
「【天のいかずち】」
 一音一音しっかりと、奈津にも聞こえる声で言った。
 次の瞬間、降り注ぐ雷が奈津の身を焦がした。
「きゃあああああああ!!」
 年頃の女の子らしい悲鳴を上げて奈津は倒れた。
 薄れ行く意識の中、奈津に興味がなくなったミルファが森の奥へと歩き去っていくのだけが、しっかりと見えた。