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【重層世界のフェアリーテイル】夕陽のコントラクター(後編)

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【重層世界のフェアリーテイル】夕陽のコントラクター(後編)

リアクション

「……どう思う?」
 聞き耳を立てていたシャロンは、ようやく戻って来た誠一と並んで路地裏に隠れていた。
「ちょっと待って、今目を通すから」
 誠一は執務室からこっそり盗んできた資料を手早くめくり、目を通している。
「市長とサンダラーの契約は二年前の大会の直前で切れてる。その時期に何かがあったんだよ」
「何かって何だよ?」
「さあ……いや、同じような時期に例の遺跡に向かった記録がある……」
「ってことは、市長とサンダラーは遺跡で何かがあったってことか?」
「それも、決別に関わるようなものでしょうねえ」
「今は繋がってねえってことか?」
「市長の口ぶりからすれば……たぶん」
「なんだよ、煮えきらねえな」
「嘘を見抜くような準備をしていれば……」
「それより、身の回りを気にするべきじゃないですか?」
 第三の声。つかつかと軽い足音を立てて、音無 終(おとなし・しゅう)が近づいている。その手には、抜き身の銃がぶらぶらと無造作に握られていた。
「彼は……!」
 びりりと感じる殺気。誠一が跳び退くと瞬間、弾丸が彼の腕を貫いた。跳んでいなければ、胴があった場所だ。
「まずい、潜入するのにエネルギーを使い過ぎましたねぇ」
「この間抜け! 逃げるぞ!」
 終の銃が火を噴き、ふたりを狙う。誠一は資料を懐に潜らせ、シャロンが煙幕をばらまく。もうもうと広がる煙が晴れた時には、ふたりはその場から消えていた。
 血の跡をたどれば追いかけることもできたが、終の目的は別にある。
(どうやら、市長とサンダラーに関係があるのは間違いないみたいね?)
 煙を掌で払いながら、銀 静(しろがね・しずか)が終の後につく。終は頷きながら、市庁舎の影から進み出た。
 樹や千歳との話を終えた市長の前へ。相変わらず、銃を持ったまま。
「市長、単刀直入に聞きます。あなたは、『大いなるもの』の力を求めていますか?」
「な、何……?」
「もう一度聞きます。『大いなるもの』復活のため、協力しませんか?」
「君は何を……あんなものは、ただのおとぎ話でしょう」
 市長がおののきながら答える。終はつまらなさそうに鼻をならした。
「当てが外れた」
 それが気に入らない、と言うように、終は引き金を引いた。
「ふ……ざ……けんな!」
 魔銃独特の銃撃音が重なった。横合いから飛来した弾丸が終の銃身をかすり、わずかにずれた弾は市長の腹部へと突き刺さる。
「うっ……!?」
 腹部を押さえてうずくまる市長。観客たちが騒然とする。
「おい、早く医者ん所へ運べ! こいつはあたいらが相手してやる!」
 狩生 乱世(かりゅう・らんぜ)が終と市長の間に割り込んで叫ぶ。その銃口からは煙がたなびき、先ほど終の銃を狙ったのが彼女であると言うことを示していた。
「あちゃ、まさかこんなことになるとは……」
 尾瀬 皆無(おせ・かいむ)が倒れる市長に駆け寄る。
「あなた、早く運びなさい。革命ならともかく、暗殺など許されるものではありません」
 こちらはアン・ブーリン(あん・ぶーりん)
「だったら、手伝ってくだせえよ!」
「まあ! 女に力仕事をさせるつもりですの!?」
 ……と、騒ぎながらも二人して市長を担架に乗せる。
「おや、いいのか? 俺は大会にはエントリーしてないぜ」
「知るか! だったらあたいは失格だ、ほら、お仕置きしてやる!」
 乱世が一気に距離を詰める。徐々に事態を飲み込んで騒ぎ出した周囲の観客たちへの『誤射』が少しでも減るようにだ。
 ダンッ! 乱世が軽い引き金を引くと、終の前に静が進み出る。その前に姿を現したフラワシが弾丸を弾き、力場の壁が防いで地面へ落とす。
「なんで殺そうとしたんだよっ!」
 青筋を浮かべながら叫ぶ乱世。
「もう必要ないと思ったからな」
 終はまっすぐ銃を突き出してけん制を放った。
「それはテメェにとってだけだろうが!」
 横っ飛びに転がりながら、三連射。静が終との間に割って入り、弾丸を打ち落とす。
 無言のままの静が恐ろしく低い体勢でナイフを突き出す。乱世は無理矢理に体をひねって片足を振り回し、蹴りでその腕を打つ。だがかわしきれず、ぱっと腿に傷が開いた。
「つっ……!」
「おそろいにしてやるよ」
 ドンッ! 終の銃が火を噴き、もう一方の脚に弾丸が突き刺さった。
「ああっ!」
 たまらず悲鳴を上げる乱世に、終が銃を突き出して近づいていく。
「邪魔しなければよかったのに。やれやれ」
 ちゃき、とその銃口が乱世に向けられた……そのとき。
 空気を切り裂き、弾丸が飛来する。身を隠したグレアム・ギャラガー(ぐれあむ・ぎゃらがー)が姿を現し、終を狙ったのだ。
「……チッ!」
 静が終を守るために射線に割ってはいる。その間に、終はもう一方の腰に下げた銃でグレアムを狙う。ガガガッ、とグレアムの走り抜ける壁に弾痕が刻まれる。。
「本当は、サンダラーに使う予定だったんだけどな!」
 注意が逸れた隙を狙って、乱世は力一杯、両手の引き金を引き絞る。至近距離からの弾丸が、終の胴を打つ。内臓にまで届きはしなかったが、のけぞってたたらを踏んだ。
「こいつっ……!」
(……終)
 怒りの色が終の目に浮かんだとき、静がテレパシーを送る。はっと終が周囲を見回せば、すっかり周りは人だかりが生まれ、注目を浴びている。大会に関係のない行いだ。遠からず保安官や、間の悪い契約者たちも集まってくるだろう。
「……仕方ない」
 歯がみして、終はその場を辞した。路地の中に飛び込み、町の外へと逃れるルートだ。
「へへ……ざまぁ見ろ」
 乱世の両足から血が流れている。グレアムは駆け寄る。
「テレパスで麻酔をかけようか?」
「いらねえよ。ったく、あたいも医者行きだな」