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太古の昔に埋没した魔列車…環菜&アゾート 2

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第9章 水の都の駅舎に相応しくあるには…Story1

「駅舎はその土地の顔になるわけだから、ヴァイシャリーらしい美しさを表現したいな」
 エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)は駅舎の写真を眺めつつ、外からやってくる人でなく出かける人、帰る人々が思い出を選ぶ場所にもなるだろうと思い、外装に合わせたデザインを考える。
「美しいだけでは分かりづらいね。もっと具体的に言ってみてたらどうだい?」
 それだけだとまだ漠然としたイメージしか沸かず、メシエ・ヒューヴェリアル(めしえ・ひゅーう゛ぇりある)が例えばどんな感じがよいのか聞く。
「歴史を感じさせる雰囲気とかさ。公園のような広場っぽいホールがあれば、季節もののイベントも出来そうだと思わない?」
 クリスマスイルミネーションのサンプルの写真を、メシエの方へ寄せる。
「ふむ…今の季節にピッタリだね」
「その写真みたいにもみの木を電飾して、クリスマス・イルミネーションにしたいんだ。待ち合わせスポットにもなるし?」
「広場を作るなら子供が遊べるスペースも欲しい!」
 歴史や美について語る2人の話に退屈したクマラ カールッティケーヤ(くまら・かーるってぃけーや)が、子供スペースを要求する。
「走り回るようなものではないからね」
 お子様の主張に対して、メシエがやんわりとした口調で言い却下する。
「そんなこといったら、子連れのお母さんの肩身が狭くなっちゃうゾ!紳士なら、お母さんにも優しくしなきゃいけないんだからね!」
「クマラの意見ももっともだと思いますよ、メシエ」
 彼の意見に賛同したエオリア・リュケイオン(えおりあ・りゅけいおん)が味方につき、言い返せなくなってしまったメシエが珍しく黙り込む。
「とはいっても、他のお客さんのことも考えませんとね。たいくつしないよう、子供の遊び場を用意しませんか?」
「うん、そーしようっ」
「ちょっと待ってくれよ。待ち合わせスポットのスペースは?」
「駅に入って右側壁際の、真ん中辺りに遊び場を用意するんですよ。左側は2階へ上がるエスカレーターがありますからね」
「まぁ、それなら危なくないか…」
「ひとまず、その辺りだけ図面を作ってもらえますか?」
 クマラとメシエの従者である施工管理技士に図面制作を依頼する。
「店舗は枠だけあって、ちゃんとコードを通しているからいいとして。ここを造った図面がないと、他の電気工事だとか出来ないぞ?もし大掛かりになるなら、今回は諦めてもらうしかないしな」
 場合によっちゃぁ、想定外の電飾はかなり制限されると苦笑した。
「もしかして、もみの木のイルミネーションが不可能だったり…?」
「季節ものならとりあえずカセットボンベにしてくれ。イベントの度に床ひっぺがしたりして、工事するわけにもいかないだろ?」
「う…っ、そうなるのか…」
「短期間でやれたとしても、どのみち完璧を目指すと金もかかるぞ。予算が足りなくなると、他の工程にも支障が出るしな」
「―……わかった、それで頼む」
 “予算”という魔法のような言葉に、止むを得ず妥協する。
「待ち合わせ広場ですか、いいですね」
 高月 玄秀(たかつき・げんしゅう)も提案しようとエースに話かける。
 シャンバラらしく、先の女王と現女王の大理石像を、ロビーの真ん中に建てみては?と言う。
 2体の石像でパラミタ大陸を模した、ミニチュア時計を支えているものなら、見栄えもよいはずだ。
「石像の周りに、レトロな木彫の長椅子を配置して…。待ち合わせの“名所チック”な内装にするのはどうでしょう?」
「人気が出れば名所になるだろうけど、今の時点では厳しいな…」
「改札の内装はどうなっていますか?」
「確か、前回の作業で終わっているはずだ。通常席くらいなら予約ナシで切符を買って、入れるようにしてもらう予定だな。駅舎の外は水の都っぽくなっているだろ?だから中も土地のイメージに合わせたほうがいいと思う」
「僕の提案はナシってことになるんでしょうか…」
 まるごとボツをくらってしまうのかと思いつつ、口をへの字に曲げてしまいそうな気持ちを堪える。
「長椅子は待つ人にとって大切なものだからな。組み立て式なら、搬入しやすいかも?」
「その作業は僕に任せてくれるってことでいいですか?」
「うん、頼むよ」
「エースさん、お菓子はコレットさんが担当するようですよ。ヴァイシャリーの歴史…というか、カメオの様な貝細工のアクセサリーなどがあるみたいです」
「手に入りそうか?」
「メシエさんが雑貨店に根回ししてくれて、いくつか用意出来そうですよ。ちゃんと安めのものを選んでもらいましたから、予算内で収まると思います」
「安物…ね……」
 貴族であるメシエが言う安物とは、どのレベルなのかが想像つきにくい。
 ―…というか想像したくない。



「静麻。待ち合わせスポットと、子供の遊び場を技師に考えてもらったんだけど。この下書きを元に、製図してくれるか?」
「内装以外にも工事するのか?」
「あったらいいなって思ってさ」
「イルミネーションか…。この人数だと床や天井をいじるのは厳しいな」
 前回、1人で設計した閃崎 静麻(せんざき・しずま)が、今回もパラミタンCを飲みつつ、コアからもらった図面を元に、不眠不休で図面を制作している。
「何かお手伝いしましょうか?」
 駅舎の構造を静麻が誰よりも1番理解してるとはいえ、全部任せるのは大変そうだ。
 ロア・キープセイク(ろあ・きーぷせいく)も協力しようと、彼に声をかけた。
「平面図や天伏図だとかのほうは俺がやるから、什器の配置や仕様書の作製を手伝ってもらうか」
 1人で製図を行うとしていたのだが、手伝ってくれるという彼を邪険にあしらうわけもいかず、まずは簡単なところから慣れてもらう。
「静麻、ショップのアイデアがまとまったぞ」
 エリシアと美羽、司やレキたちが考えた企画書などの書類を、和輝が彼に渡してやる。
「ありがとう」
「いくつも造るとクリスマスイブに間に合わなくなるから、まとめられるものはまとめた感じにしたほうがいいな」
「石鹸とアイドルグッツは同じ店で売るのか?」
「ラブが猛抗議していたが、そうなったみたいだ。俺はこれから商品の制作を、業者に委託してくるな。不明点があったら、俺の携帯にでも連絡してくれ」
「ん、了解」
「主は何の資料を探しているんですか?」
 グラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)が使っているパソコンの画面を、アウレウス・アルゲンテウス(あうれうす・あるげんてうす)が覗き込む。
「利用客に馴染みあるデザインや、ヴァイシャリーの流行のデザインが、どんなものか分からないからな。調べてみているんだ」
「なんという地道な作業をっ!!」
「流行だと入れ替わりが激しいみたいだな…。客層の馴染みやすいはどうだろうか」
「頻繁に変えるようなものは、何度も工事したり大変なんだが…」
 静麻がそれは困る!とかぶりを振る。
 その時々で流行カラーが変わり、流行り廃りですぐに壁紙を変えたりしなくてはないけなくなる。
 馴染みといっても、人それぞれ好みが違うから難しい。
「む…そういうものなのか。商品の資料を参考にするか」
 ショップに置く品物に合わせようと、静麻の傍にある企画書を掴む。
「アイドルグッツと、石鹸がくっついたショップから考えてみよう…。―…壁は女子が好みそうな薄い桃色だな」
「壁紙にするのか?」
「あぁ、塗料だと乾くまで時間かかったり匂いがな…。物を退かして、シートを敷く作業も手間だ。―…床は何がいいだろうか?」
 床材を選ぼうと、ぽちぽちとネットで調べてみる。
「薄い木目調なら可愛くみえそうだな…。雑貨はTシャツと貝殻などのアクセサリーか…。壁はアイボリー色で、床は茶色にしてみよう」
「ジオラマやパズルのグッツのショップはどうする?」
「駅舎に合わせるなら、その店も落ち着いた雰囲気がいい。例えば…、グレーとかな。床は石のタイルがよさそうだ」
「店舗は壁紙で統一するんやね?」
 熱心に色を選んでいるグラキエスに七枷 陣(ななかせ・じん)が声をかけた。
「そのほうがいい。リサイクル可能なものなら、問題ないだろう?」
「まー、ペンキよりもすぐに色チェン出来そうやし。食い物のショップはもう決めたんか?」
「いいや、まだだ」
「んじゃ、オレらが決めっかなー。確かー…、食欲をそそるカラーはパステル系がいいって、検索ツールの先生が言ってたな」
「天下一チェーン店を考えるんじゃないんだよ?ちゃーんと駅舎のイメージに合わせてよね!ここでイイところを見せないと、アダマンタイトを溶かすだけの魔術士で終わっちゃ運だからねっ」
「うっさい、わかってるっつーの!」
 ただの金属溶かし機扱いするリーズ・ディライド(りーず・でぃらいど)に怒鳴る。
「(客寄せにオレンジを使いたいんやけど…。屋根が水色で校風のカラーがピンクやしなぁー…)」
 少しは目立たせないとスルーされそうだが、かといって上品さを損なうものは、即却下される。
「そうや!SR弁当の文字をオレンジにして、屋根を水色にすればキレイに見えそうやねっ。床はピンクのタイルがよさそうやな」
「やっほー、オイラも参加していい?」
「おー、なんかあるんか?」
「カウンターは心もち低めにしてね!バリアフリーにもなるしさー」
 子供やお年寄りが受け取りやすいように、少しだけ低くして!とクマラが言う。
「へぇー…そこまで想定してるんか。気がつかんかったなー」
「コレットさんのお菓子は、どのお店で売るの?」
「駅弁と同じスペースにしたほうが、セットで買ってもらえそうやな」
「お弁当の後のデザートは必須アイテムだよねっ。店舗の配置はもう決めちゃった?」
「高そうなモンとかの店は階かもしれんな。子供スペースが1階ならそのほうがええし」
「他の客のことを考えて、店の配置は俺のほうで決めさせてもらったよ」
 静麻もそれを想定し、店内を駆け回って破壊する危険もあるだろうと、高価なものや雑貨は2階に決めている。
「グラキエス、商品棚とか注文してくれたか?」
「もう注文しておいたぞ。これが頼んだものの画像と、サイトに表示されていた寸法だ」
 頼んだ棚やマネキンなどの画像や、サイズをまとめたリストを静麻に渡す。
「他に要望がなければ、これでもう変更はナシだからな」
「俺のほうは特にないな」
「製図が終わるまで待機かー…」
「陣くん、また無能化しちゃったね、にゃははは!」
「はぁ〜?オレだけやないし、リーズも待機組みやないかっ」
 ケラケラと笑うリーズに“おまえもやろっ!”と、すかさず突っ込みをいれた。