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リアクション
第二章 返答
(1)ドン・マルドゥークの居城(城内)→キシュの神殿(北カナン)−1
「北東の山間部が『ゲナ』、西部に『スハルジク』、と」
西カナン、ドン・マルドゥーク(どん・まるどぅーく)の居城、その執務室にてクエスティーナ・アリア(くえすてぃーな・ありあ)はディスプレイを見つめていた。映っているのは「西カナン中央部の地図」、修復中のマンボ(地下水道)が通っている地域である。
「『ゲナ』は人数が極端に少ないのですね」
問いかけはザルバへ。言いながらにクエスティーナが振り向くと、すぐそこに彼女の顔があった。肩越しに画面を覗き込んでいる。
「もともと小さな集落ですし。自然を根城にしている方たちですから」
「自然を根城に?」
「大きな葉っぱをベッドにして眠るのですよ、変わった方たちでしょう?」
「葉っぱ……ですか。是非一度この目で見てみたいですね」
まるでジャングルの中で生活しているような……いや、『ゲナ』は山間部であり、豊富な水源地帯でもあるとも聞いている。ジャングルというイメージはあながち遠くないのかもしれない。だとすると、ネルガルによる動乱時の降砂には苦労したことだろう。
「西の『ナミル』の方たちは
先程出発したそうです。今回集まった中では最も人数が多いですね」
「あそこは物好きの集まりだから。祭りや騒事が大好きなのよ」
『ナミル』はザルバの出身地で、小さな城と城下町、それから広大な農地が広がっているという。この正月には短い時間ではあったが、両親や村の馴染みの者たちとの面会が叶ったそうだ。
国をあげての正月のお祝い。各集落からも一団を率いてマルドゥークの居城下町へと集まってくる。毎年、人数や構成などを集計しているというが、今年はそれをクエスティーナがデジタル入力している。
「間もなく終わります。これらを……私たちで共有しても良いという事でしたが……」
「えぇ、みなさんにどうぞ。是非役立てて下さい」
「ありがとうございます」
携帯やHCに送るだけでこれらの情報を共有する事ができる。今現在、西カナンを訪れている者も、またこれから訪れる者たちも。シャンバラの生徒であれば、またそれらの機材を持つ者であれば誰でも情報を得ることができる。
「お話の途中、失礼します」
クエスティーナと同じくザルバの秘書をしているサイアス・アマルナート(さいあす・あまるなーと)が歩み寄り、そして小さく頭を下げた。
「マルドゥーク様に意見を伺いたいと、彼女が」
そう言ってサイアスはキャンディス・ブルーバーグ(きゃんでぃす・ぶるーばーぐ)を紹介した。
「初めまして、「ろくりんピック」の公式マスコット、キャンディスデス、ヨロシク」
「ろくりんピック?」
「ろくりんくん」のゆる族である彼女がマルドゥークに訊きたいこと、それはもちろん「ろくりんピック」に関する事である。というより勧誘である。
「ただいまネ、「冬季ろくりんピック」開催の調整を行ってるのヨ。是非ともカナンに参加して欲しいカラ、こうして回ってる所なのネ」
ろくりんピックの輪をもっともっと広げるために。百合園女学院から一歩たりとも外には出ない茅ヶ崎 清音(ちがさき・きよね)だって今頃はきっと準備や調整に尽力している……はずだ。
「大変興味深いお話です。そういった事であればマルドゥークも了承すると思います」
マルドゥークに代わりザルバは「開催の折りには西カナンからも選手を出しますわ」とこれに応えた。その上で、
「しかし、やはりイナンナ様の了承は必要ですね」
「もちろん、これからキシュの神殿に出向いて、お話させて頂こうと思っているネ」
「でしたらここから繋ぎましょう。サイアス、お願いできるかしら」
「…………はい」
キシュに設置された【カナン諜報室】に回線を繋げば、映像と共に会話をすることが出来る。出来るが、しかし―――
「一つ、よろしいでしょうか」
回線を繋ぐより前にサイアスは手を止めて言った。
「【カナン諜報室】に繋ぐことは可能ですし、こういった使い方は賛成です。しかし―――」
「分かっています」
言葉を遮り、ザルバは続けた。
「私もその点は改善すべきではと考えていました。併せてイナンナ様に訊いてみましょう」
「ぁ…………いえ、あの」
「繋いで下さい」
「……………………かしこまりました」
確認の取れないままにサイアスはキシュへと回線を繋いだ。
腑に落ちなくとも今は「分かっている」と言った彼女の言葉を信じるより他にない。会話は聞くことが出来るので大きく違えば訂正を入れればよい。
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