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先物買いの銭失い?

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先物買いの銭失い?

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■新装開店、雑貨店へようこそ!
 ――空京の賑やかな通り。ちょうどここから雑貨店のある裏通りへ行ける。その裏通り入口付近では、バイト先の喫茶店【とまり木】のウェイトレス服を着た白花が、奏でている音楽や『幸せの歌』に誘われるかのようにして人だかりができていた。
「雑貨店、本日よりリニューアルしましたー! ぜひ見ていってくださいねー!」
 その人だかり一人一人へ、はがきサイズながらカラフルな紙に少しレトロな感じのデザインを施した手作りチラシを配っているのは、村主 蛇々(すぐり・じゃじゃ)リュナ・ヴェクター(りゅな・う゛ぇくたー)の二人だった。ただチラシを配るわけではなく、蛇々は同年代や学生をターゲットに、リュナは小さな子やお爺さん、お婆さんを中心にチラシ配りをしていた。
 最初こそ、不気味なマスコット扱う店がリニューアルした程度で……という人が多かったが、『幸せの歌』によって幸せな気持ちになり、疑心や不安が薄れたのか……無垢な子供を中心に、音楽に魅せられた人やチラシを見た人が裏通りへと足を運んでいく。
「まずは上々……ってところね。この調子でどんどん配っちゃうわよ!」
「うん、そうだね! ……そういえば、おにいちゃんたちは大丈夫なのかな……?」
 いい滑り出しに気合の入る蛇々とリュナ。しかしリュナはある二人の心配をしているのだった……。

 ――通りの別の一角。こちらでは「外面がいいから」という蛇々からの指示でアール・エンディミオン(あーる・えんでぃみおん)エスフロス・カロ(えすふろす・かろ)の二人が、『若い女性』をターゲットにチラシを配っていた。道路を挟んで向かいの道では、蛇々たちのチラシ配りの姿も見える。
「チラシが余りそうだな……」
 若い女性にしっかりとチラシを配っていたアールであるが、まだその量は多くある。若い女性だけに偏る必要はないか……そう思ったアールは、様々な年齢層の女性へチラシを配ることにする。
「む、アールめ……俺を差し置いて女性にチラシを渡しているではないか。奴に負けるわけにはいかぬ!」
 着実にチラシの数を減らしているアールを見て、エスフロスもライバル意識を燃やして、若い女性相手に積極的にチラシ配りを行う。
 アールは言うならば淡々とした無骨な感じに対し、エスフロスは笑顔を浮かべての華やかな雰囲気でチラシ配りを続ける。どちらも一長一短あるが、ターゲット層の女性の反応は悪くないようだ。
 ――ほぼ同時にチラシを配り終えた二人。エスフロスは「俺のほうが先に配り終えて、貢献したぞ」とばかりの不敵さを誇っているが、アールにはいまいち伝わっていないようである……。
 と、そこへ二人の様子を見に蛇々とリュナがやってきた。白花は店側の手伝いに回るため行動を別にしたようだ。
「や、やればできるじゃないの……でもまだまだあるから、しっかりお店をアピールしなさいね!」
 蛇々は二人の頑張りを素直じゃない形で賞賛(ただし賞賛部分はかなり小声)すると、追加分のチラシをドンッ! と二人の前に置く。そして、リュナと共に別の通りへチラシを配りにいってしまった。
「がんばってね〜!」
 ――男性陣二人の、チラシ配りはまだまだ続きそうだ……。

「嘘だろ……これがあの『不気味な店』だってのか?」
「骸骨マスコットで店が埋もれてるって聞いてたけど、本当にリニューアルしたのね……」
 店の変わりっぷりに口々に驚くお客さんたち。骸骨マスコットによる不気味さしかイメージしていなかっただけあり、リニューアルのインパクトはとても大きいようだ。
「いらっしゃいませー!」
 そのリニューアルした雑貨店へとやってきたお客さんを、イリア・ヘラー(いりあ・へらー)が元気良く出迎える。
 イリアの笑顔や明るさはとてもよく、店先でも臆することなくお客さんと話すような感覚で呼び込んでいく。その様子はまったく苦にせず、120%楽しくやっているようである。
 イリアに出迎えられながら店内に入ると、様々なぬいぐるみや人形などのファンシーグッズや中高生向けのアクセサリーやストラップ、手頃な紅茶の茶葉なども扱っている。これだけでも驚きなのに、喫茶スペースやこの店では見たことのない店員までいるのだから、その変わり様には口が塞がらないようである。
「いらっしゃいませ、何をお探しですか?」
 白花と同じく、バイト先のウェイトレス服を身にまとう月夜は接客に精を出す。ちらほらといる男性客に特に人気が高いようだ。品出し作業中の刀真も、笑顔を忘れずに行動しており、それを感じてか月夜も笑顔でお客さんに対応する。
 女性陣ばかりではなく、男性陣も接客業を頑張っている。倉庫作業をギャドルにバトンタッチし接客作業に移ったルファンは、温和な雰囲気で商品の説明を求めるお客さんたちと接したり、会計のレジ係をこなす。事前に流れを聞いていたためか、詰まることなくスムーズに接客できているようだ。
「ねえねえ、このストラップのキャラクター、なにー?」
「ああ、それはねぇ……」
 ――『博識』を用いて、お客さんへ的確な商品説明をしながら商品アピールをしているのは清泉 北都(いずみ・ほくと)。特に子供のお客さんを中心に対応しており、パートナーの白銀 昶(しろがね・あきら)が「これ、面白いぜ」と商品を勧めて北都が説明をする、という連携で人気を博していた。ちなみに、二人とも『超感覚』を使って動物耳と尻尾(北都はたれ犬耳とくるくる尻尾、昶は狼耳と狼尻尾)を生やした状態で接している。そのためか、子供にだけではなく、女性客にも人気があるようだ。
「……むぅ、なぜ我輩プロデュース・我輩セレクトの痛烈キモカワグッズに誰も近づかないのだ!」
 ……その一方では、設けてもらった兵聞セレクトのどこぞのガレージショップ風キモカワフィギュアグッズコーナーの前で仁王立ちする、おばちゃんパーマなアフロ頭でメイド服を着る大男の姿があった。……普通の人からすれば、近づきたくないのは確実である……。

「結構色々あって探すのも疲れてきちゃったね……」
「そうね……あら?」
 様々な種類のアクセサリーやファンシーグッズ、その他雑貨類を見ていた一組の女性客。種類が多いからか、少し疲れてきているようだ。そんな彼女らへ、紅茶のいい香りがただよってくる。
「商品選びに一息の休息を。ようこそ、「麗茶亭」喫茶スペースへ!」
 ――レティシア・ブルーウォーター(れてぃしあ・ぶるーうぉーたー)は店先の一角を広めに借り、喫茶店「麗茶亭」出張喫茶スペースを展開していた。給仕係としてミスティ・シューティス(みすてぃ・しゅーてぃす)も忙しなく動いているようだ。
 こんな小さな雑貨店に喫茶スペースとは珍しい。そんな思考が働いた女性客たちは休憩を兼ねてさっそく利用してみることにした。ミスティは他のお客さんの注文取りをしていたようなので、レティシアが代わりに注文をとることにした。
「オススメはあちき特製のこだわりレティ・ブレンドに、裏千家名取のあちきが淹れるお抹茶セット。もし販売されている茶葉をご購入済みでしたら、こちらで飲むこともできますよ」
 慣れた作法でメニューを手渡し、オススメを指し示すレティシア。女性客の片方は少し悩んだ後にレティ・ブレンドを、もう片方は茶葉を購入済みだったのか、その紅茶を淹れてもらうことにしたようだ。レティシアは注文を承った後、本来の仕事である裏方へと戻っていく。
「はーい、しばらくお待ちくださーい」
 呼び込みから戻ってきていた白花は、自ら提案した茶葉の販売や購入済みならここで飲むことができるというシステムの関連から、喫茶スペースの手伝いをしている。さっそく注文が入ったので白花はその茶葉を預かり、すぐに準備に取りかかった。
(この後の小休憩の時に、刀真さんや小暮さんたちに紅茶を淹れてあげませんと……♪)
 刀真や秀幸たちがその紅茶を飲んだらどれだけ微笑んでくれるんだろう。そう考えるだけで楽しげな表情を浮かべる白花は、鼻歌混じりに紅茶を淹れていく。
 ――そうしていると、どうやら喫茶スペースからのいい香りに誘われて、休憩しようとお客さんが徐々に増え始める。ミスティも次第に忙しくなりつつあるが、雰囲気よく対応していった。

 ……どうやら、表通りにて蛇々たちが頑張ってくれている効果やクローラがネットの海に仕込んでくれた宣伝の効果、さらには人づてによる口コミ効果が広まったのだろう、ガヤガヤと店先にはお客さんたちが小さな列を作り始めるほど集まり始めていた。
 次第に忙しくなるリニューアル雑貨店。すっかり、以前の不気味な店というイメージは払拭できたようだ……。