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■眠れぬ者の苦悶 〜幕間・その頃のイルミンスール〜
 各採取班のメンバーたちがそれぞれの場所で必要な材料を採取しにいっているその頃、イルミンスール魔法学校内にある寄宿舎の一室では今回の依頼者であるミモザが、ベッドで横たわっているカリスの看護をしていた。
「あ゛ー……てんじょう、チカチカする……」
「カリス、目を閉じてて。余計に疲れちゃうよ」
 献身に看護をするミモザ。その様子を、扉の隙間からイルミンスールの校長であるエリザベートのお付きメイドである神代 明日香(かみしろ・あすか)が覗いていた。
(うんうん、幼馴染みのあのいちゃらぶな雰囲気……悪くないですよぉ〜)
 ……表向きではカリスの看護をしている明日香ではあるのだが、本当の目的は趣味と実益を兼ねた、イルミンスール生徒のいちゃらぶな素敵場面をその目に焼き付けようというものである。
 ――しかし、それもまた隠れ蓑。真の目的は『もしカリスの不眠状態が何らかの理由により手に負えなくなった場合、カリスを『封印呪縛』にて封印する』こと。
 今回はエリザベートの手を煩わせることはない、と独自に動く明日香であるが……もし最悪の結果となる場合は、対象を時間停止状態にする『封印呪縛』を使わざるを得ないわけで……。
(――あくまでも最後の最悪な手段。役割がこないことを祈るばかりですねぇ……)
 と、どうやら廊下のほうから清泉 北都(いずみ・ほくと)クナイ・アヤシ(くない・あやし)、そして双葉 みもり(ふたば・みもり)の三人が食堂のキッチンから戻ってくる足音が聞こえてくる。カリス用に色々作ってきたのだろう。
 そのまま三人と合流し、カリスの部屋に入った明日香は、そのままカリスの看護という形で見守りを続行。……もし余裕があれば、カリスとミモザを二人っきりにするための手回しもしておこうと考えていたとか。

「これを飲んだら、少しは心が落ち着くと思うよ。ミモザさんもどうです?」
 北都が用意したホットミルク(ハチミツ入り)を、そっとカリスへ飲ませていく。ほどよい温かみのあるミルクがカリスの喉を通ると、心なしか表情が和らいだように見えなくもない。
「あ、ありがとうございます」
 ミモザもホットミルクを受け取ると、不安の抜け切らない顔でホットミルクを口にしていった。
「ずっと付きっきりなんですから、少しは休憩しませんと。身体に障りますよ」
「はい、そうなんですけど……やっぱり、心配ですから」
 クナイも朝から付きっきりでカリスの看護をするミモザへ心配の言葉を投げかけるが、ミモザは小さく微笑んでそう返答する。
「こちらにはハーブティーもありますから、飲みたい時には言ってくださいね」
 みもりも自分で淹れてきたらしいハーブティーをサイドテーブルに置きながら、柔和な笑みを返す。ハーブのいい香りがカリスやミモザ、そして看護する者たちの鼻孔をくすぐる。
「……『ヒプノシス』も効かなかったし、材料取りにいった人たちが戻ってくるのを待つしかないねぇ……」
 ――実は先ほど、ダメ元で北都とみもりがクナイの『震える魂』による援護を受けての『ヒプノシス』をカリスに使ったのだが、やはりというか……その効果は現れなかった。頼みの綱はディスペルさんひとつだけだろう。
「お、おわわわ……てんじょうが、ばーっておちて、あ、もどっていった」
「カリス……」
 極度の疲労からか、ドえらい幻覚を見ている様子のカリスにミモザは少しつらそうに視線を背けてしまう。みもりはそれを見てか、ミモザへ声をかけていった。
「――あの、もしよろしければ皆さんが帰ってくるまでの間、カリス様やミモザ様のお話を聞かせてもらえませんでしょうか? 少しはミモザ様の休憩にもなりますし、カリス様もゆっくりでも構いませんので、もしお話できるなら……ぜひ」
 本当は自分が聞きたいのだが、そこは抑えてそう提案する。ミモザもすぐに了承し、四人はカリスとミモザの昔話を聞いていく。その最中でも、クナイはカリスの疲れを少しでも和らげるため『幸せの歌』を話の邪魔にならない程度の声量で口ずさみ、カリスの気持ちを解していた。

 ――しばらく話をしたりカリスの看護をしている内に、次々と採取班が寄宿舎に戻ってき始めたようだ。カリスを除いた全員は頷くと、カリスを救う唯一の手段を生成するため、集合場所である寄宿舎食堂へと移動することになったのだった。