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リアクション
第4章
「みんなー! いっくよー!」
ぱん! ぱぱぱん!
火花を散らしながら現れたのは、神崎 輝(かんざき・ひかる)。輝くステージ衣装を身にまとって、大音量で流れる曲に合わせて、振りを着けて踊る。
派手なステージだ。問題があるとすれば、ここが待ちのど真ん中であることだろう。
「ノってるかーい!?」
と、言う声に応えるファンの姿があるわけもない。皆が文句を言わないのは、輝の周囲にいるバラエティ豊かなメンバーを見れば契約者であると分かるのと、その顔に着けられた黒い仮面のせいだろう。
と、いうステージから離れることすこし。
「くそ寒い……」
震える体を押さえながら、ぼそりと八神 誠一(やがみ・せいいち)が呟いた。
「うーむ、まだまだじゃのう」
その隣であごを押さえる伊東 一刀斎(いとう・いっとうさい)。視線はステージ上に注がれている。
「止めるんだな?」
誠一の問いに、一刀斎が頷いて答える。
「それじゃあ、準備を……」
と、言いかけたとき。
「あっ」
と、上空から声が聞こえた。はっと二人が顔を上げると、二人が向けた殺気に気づいたのだろう、シエル・セアーズ(しえる・せあーず)が翼を広げて見下ろしている。
「まずい!」
ふたりが武器を掲げた瞬間、シエルが両手を掲げた。
「輝の邪魔はさせないよっ!」
かっと、一角に光がはじけた。
「ボクの歌をみんなに聞いてもらうんだから! 邪魔させないよ!」
「846プロの実力をみんなに知らしめてやるよっ!」
「邪魔するなら、みんなぶっ壊してやるです!」
輝が叫ぶ。ぱっとステージの左右に並ぶのは、神崎 瑠奈(かんざき・るな)と一瀬 瑞樹(いちのせ・みずき)。もちろん、彼女らの顔にも黒い仮面を取り付けられている。
「……歌う場所を間違えているぞ、神崎輝」
ざっ。と足音が響く。
「何者!」
振り返った輝の前に、銀星 七緒(ぎんせい・ななお)が踏み出した。
「通りすがりの……退魔師」
「ボクのアイドルとしての姿をみんなに見てもらうんだ! 邪魔しないで!」
シエルが放った光が、その場を照らしたのはその時だ。追い立てられた誠一と一刀斎が飛び出してくる。
「おぬしに一言言ってやりたいが、その仮面は目だけでなく耳までふさぐようじゃのう。外してから、話をさせてもらうぞ」
「ということらしいから、はじめるとするか」
カッ! いつ仕込まれたものか、舞台演出が派手に光を噴き出した。それにあわせて踊るように、ステージの内外で戦いが始まった。
「あははははっ! この力! 試してみたいと思っていたんです!」
びゅうびゅうと旋風のように剣を振り回す瑞樹に向けて、かぎ爪が迫る。素早く、その剣先が詰めを弾いた。
前に、彼女と同様、ごつごつしたシルエットのシグルーン・メタファム(しぐるーん・めたふぁむ)が立ちはだかる。
「その仮面は、危険すぎます」
「それだけ私は安全ってことです」
瑞樹が構えた頭身に、北斗七星の形の輝きが描かれている。説得を受け入れるつもりはないようだ。シグルーンは膝部からポップアップしたナイフを引き抜いた。
「こっちです!」
二人の剣筋がぶつかり合い、重たげな足音がステージから遠ざかっていく。
「なかなかやるみたいだけど、まだまだ!」
瑞樹の肩部パーツが展開。がこ、と発射準備を整えた途端に、1ダースのミサイルが吐き出される。
「つうっ!?」
一瞬遅れて、シグルーンのヘッドバルカンが火を噴いた。だが、さすがにその数を打ち落とせるものではない。
「ああっ!?」
装甲に激突したミサイルがはじけ、シグルーンの体が人形のようにはじき飛ばされる。瑞樹のブースターがごうっと火を噴いて、一気に距離を詰める。
「はははっ! このまま、ずたずたにしてあげます!」
断裁機のように無慈悲に繰り出される刃。が、一瞬、妙な違和感があった。
「……まさか!」
「爆発のおかげで、チャフが広がりやすくなりましたよ!」
動きの鈍った瑞樹の剣を、ナイフで受け止める。火花が散る間に、もう一方の手を掲げる。積み木を崩すように形を変えた腕部パーツが、かぎ爪と化して瑞樹の仮面を引きはがした。
「今だ!」
カチッ。
瑠奈が手の中で何かを操作すると同時、ゴウッ! と周囲にいくつもの火柱が噴き上がる。あらかじめ仕掛けておいた機晶爆弾だ。
「くうっ……!?」
武器を構えた途端、背後での爆発だ。仮面を奪いに来たものの勢いを大いに削ぐ。
「ボクの歌をみんなに認めてもらうため! 最高速で! 一直線に!」
絶唱しながら、輝の手ににぎられた鋭い鱗が、まっすぐに突き出された。
「むぅ!」
一刀斎が刀で受けるが、勢いのついた攻撃をいなすので精一杯だ。
「失礼します……!」
背後に控えたルクシィ・ブライトネス(るくしぃ・ぶらいとねす)が、構えた弓から矢を放つ。けん制から身をかわすため、輝がぱっとその場を引いた。
「瑠奈!」
「にゃーっ!」
すぐに瑠奈が飛び出し、代わりにかぎ爪を振り回す。
「まだまだ、パフォーマンスはこれからが本番だよ」
シエルの治癒を受けて、輝の歌はますますヒートアップし、勢いを増していく。
「ノリが良すぎますねぇ。これじゃ、捕らえきれない」
ぽつりと、誠一。
「……奥の手だ」
七緒が呟いて、片手の鞭をしならせる。瑠奈が猫そのままの動作で飛び退くが、その足下をびしりと打った。
「つうっ……!」
「……チャンスはもらっておくわね?」
激しく鍔なる音の中に隠れるようにして姿を現したロンド・タイガーフリークス(ろんど・たいがーふりーくす)が、シエルの耳元に囁くように告げる。風を切って左腕を振るった。
「いつの間に……っ!」
と、言う間に仮面がたたき割られる。
「このおっ!」
シエルが襲われたことに逆上してか、輝が大きく踏み込む。刀で打ち合っていた一刀斎が、ふと身をかわした。
「若い……いや、幼いのう」
すれ違うように飛び込んだ輝の体に、ぴしりと何かが巻き付いた。
「しまっ……!」
「罠をしかけてたのは、こっちも同じってことさ」
指先で、絡みつく糸をたぐる誠一。ピーンと、不思議に澄んだ音が響く。
「封滅陣、いや封縛陣・雷吼縛鎖……とでも、言っておくかな」
「ああああっ!」
電圧が輝の体に流れ込む。絡みついた糸の形にステージ衣装が焼き切られ、間から肌があらわになる。むろん、電撃にやられてその場に倒れ伏した。
「……仕上げだ」
「……くっ!」
七緒と瑠奈が交差する。片や、ルクシィからの支援とロンドとの挟撃を得ている。片や、歌と魔法の支援を失っているのだ。瑠奈が勝てる道理はなく、その仮面が打ち払われたのだった。
「……まったく」
誠一の手によって仮面が焼き払われたことを確かめて、一刀斎が息を吐いた。
「自分から前に出て見せつけているうちは、色気、艶気とはにじむものではない。そうして隠しているのがちょうどいいぐらいじゃ」
「隠してるのは、衣装が焼かれたからなんだけど……」
ステージ衣装を糸と電撃でやられた輝が、ぽつりと返す。パートナーたちも、一様に反省したように下を向いていた。
「……被害がこれ以上、広がらなかったのはよかった」
街の一角こそ爆弾やらミサイルやらで崩れてはいるが、他の地区にまで被害が広がっているわけではない。そう確認した七緒の隣で、ふう、とシグルーンが息を吐いた。
「こんな方法じゃなくても、見ている人は見てくれているはずですよ」
「……私も、そう言ったんけど、仮面をつけてからは、暴れられればいいかなって……」
と、瑞樹。
「まずは、人の意見に真摯に耳を傾けて、素直に己を高めるための糧にすることじゃ。いいか、その昔……」
「はい……。はい……」
正座させられた輝が、一刀斎の言葉に頷いている。
「……じゃ、俺たちは帰るとしますか」
と、誠一。
「えっ……でも」
きょとんとするルクシィに、肩をすくめて答える。
「年寄りは話が長いからな」
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