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ゾンビ トゥ ダスト

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ゾンビ トゥ ダスト

リアクション

 永夜たちのすぐ近くでゾンビの進行を阻んでいたのはリース・エンデルフィア(りーす・えんでるふぃあ)マーガレット・アップルリング(まーがれっと・あっぷるりんぐ)ナディム・ガーランド(なでぃむ・がーらんど)のパートナー二人だった。
「あ、あの人たち怪我してる。でも結構遠い……」
 永夜たちがゾンビを引き付けているため、リースたちのほうは比較的ゾンビが少なかった。その分だけ永夜たちは怪我を負っていたのだ。
「リース、何考えてるのっ! あっちは危ないからそこにいて!」
「そうだぜリース! 俺たちが行くまでそっちには行くな!」
 二人にそう警告されるリース。だが、リースはもう我慢できなかった。
「私だって、誰かを、誰かを助けたい! 助けられるって証明したい! だから、ごめんなさい!」
 そしてゾンビが殺到している永夜たちのほうへと走り出すリース。
「あ、こらリース!」
「くっそ、悪い予感的中かっ!」
「言ってる場合じゃないでしょ! さっさとリースの援護しに行くよ!」
「わかってるよ!」
 そう言ってリースの後を追っていく二人。当のリースは一心不乱に永夜たちの元へと走っていく。しかし、その行く手を一体のゾンビが阻む。
「わ、私の邪魔、しないで下さいッ!」
 リースは思い切り杖をゾンビに叩きつける。が、ゾンビはびくともしない。このままでゾンビに襲われる、という瞬間。
「ば、バニッシュ!」
 杖の先から光が迸り、ゾンビが吹き飛ぶ。ゼロ距離【バニッシュ】がゾンビを吹き飛ばしたのだ。
「……リースも強くなっているんだね」
「だが、周りのやつらまで対処はできないぜ! だからこそ!」
「ええ、だからこそ私たちがいるのよ!」
「その通りだ! 喰らえ!」
 【ポイズンアロー】でリースに近いゾンビたちを狙い打つナディム。そのナディムよりも早い、マーガレットも【炎術】でゾンビを足止めする。
「リースに、触んじゃないわよッ!!」
 二人ともリースの援護をしつつ、リースを追いかける。
 そのリースもなんとか永夜たちの元へたどり着き、三人に向かって叫ぶ。
「皆さん! お待たせしました、今回復しますからね!」
 詠唱をして、傷ついた三人を【ヒール】で癒すリース。
「悪いな、助かった」
「女神の祝福だね」
「ありがとう、助かったよ」
 永夜たちからお礼を言われたことでようやく緊張の意図が切れたのか、その場に座り込んでしまうリース。
「リース! 危ない!」
 座り込んだリースに襲い掛かろうとするゾンビを見てマーガレットが叫ぶ。ナディムの【ポイズンアロー】も間に合わない。
「きゃ、きゃああああああっ!」
 ダメだ、と思われた瞬間。
「二次会が楽しいからっておいたはダメよ」
 【どとめの一撃】でゾンビを撃ちぬく。その銃弾がリースを助けた。リースを助けたのは、ニカっと笑うセレンフィリティだった。
 罠を設置するだけ設置して、そろそろディフェンダー中央の攻撃が厚くなるだろうとここへと舞い戻ってきていたのだ。
「あ、ああ、ありがとうございますっ」
「お久しぶり、クリスマス以来かしら?」
「えっ?」
「どうも」
「あ、あの時の!」
 後ろから現れたセレアナを見て、リースは驚きの声を上げる。二人は以前、クリスマスにマフラーを一緒に作ったことがあったのだ。
「あれ、知り合い?」
「まあね、あなたもあっちの子と知り合いでしょ?」
「えっ……あ、あの時マフラー一緒に作った、えっと、マーガレット!」
「セ、セレン!? あなたも参加していたのね」
「ええ……積もる話もあるだろうけど、今は戦わないとね」
 先ほどよりも増してこちらに向かってくるゾンビたちを見てセレンフィリティが言う。
 リースたちもまた覚悟を決めて、永夜たち三人も含めて、ゾンビの撃退に当たるのだった。

「穴が開いてしまうのはよろしくないですね。では朱鷺がこの場を引き受けるとしましょう」
 そう言ってリースたちが離れてしまった持ち場に悠然と立つのは東 朱鷺(あずま・とき)だ。
 リースたちが抜けたところにはさほどゾンビはいないと言っても、それを一人で相手取るのは難しい。
「さてさて、行きますよ」
 少数、といっても数十体いるゾンビの群れにも恐れずして相対する朱鷺。五行の弓を構えて、そのまま目にも留まらぬ速さでゾンビたちの足を貫いていく。
 足に怪我を負ったゾンビたちはその場にひれ伏すこととなる。
「派手なことを無理にする必要はありません。文字通り、あなたたちの足止めをするとしましょう」
 同時に襲ってくる相手には【歴戦の魔術】を使用して攻撃をする朱鷺。地道ではあるが、確実にゾンビたちの行動を制する戦い方は時に美しいと表現できるほどであった。
「それと、実は気になっているのですよ。どうして、あなたちは倒されると塵になるのか。それを知りたいのです」
 口の端を少しだけ持ち上げて笑う朱鷺。その笑いのニュアンスには僅かながらの冷笑が含まれていた。あくなき探究心が朱鷺にとって、二つの像を防衛する動機となっていたのだ。
「さあ、いきますよ」
 五行の弓と【歴戦の魔術】でゾンビたちをひれ伏させていく。淡々と、あくまでも淡々と。

「さて、あらかた改造した武器なんかは皆に行き渡ったか。これで劣勢が少しでもなくなればいいのだが」
「そうね、けれどこの数相手では焼け石に水かもしれないわね」
 そう話すのは佐野 和輝(さの・かずき)スノー・クライム(すのー・くらいむ)だ。和輝は遊撃部隊としてこの作戦に参加し、各人に改造した武器などを走り回って渡すなどをしていた。
 だが、それは表向きで実際はパートナーである松永 久秀(まつなが・ひさひで)のために走り回る何でも屋として行動していたのだ。
『おーい、和輝ー? 聞こえるかなー?』
「ああ、聞こえてる。次の伝令か?」
『そうそう〜、もうあらかた渡しまわったから戻ってきて後方支援に回れーだそうだよー』
 子供じみたしゃべり方で和輝と話すのはアニス・パラス(あにす・ぱらす)だ。武器の改造と、久秀の命令を和輝に伝えるようにしていたのだ。
「了解した、すぐに戻る」
『なるべく早く戻ってきてね〜♪』
 それだけ言って【精神感応】が切れる。すぐに久秀の元へと戻る和輝。
「戻れって?」
「ああ、あらかたの者にはもう渡したみたいだ。今は防衛に回ることが最優先なんだろう」
「つまり、今が一番の熾烈を極めているってことかしら」
「だろうな、俺がまだ一人でも遊撃として動いていられたのが、もうそれすら許されない状況にまできているっていうことだ。急いで戻らないとな」
「そうね、だけど気をつけて。周りにゾンビがいないわけじゃないみたいだから」
「承知した」
 そう言って二人は久秀の元へと戻る。道中、数十体のゾンビを倒してようやく久秀の元へとたどり着いた和輝。
「やっと帰ってきたわね、これ以上待たせていたら危ないところだったわよ?」
 久秀が意味ありげに笑う。
「悪かった、思った以上に死者どもがいたもので手間取った」
「それで実際に現状見て回った判断は?」
「劣勢も劣勢。これが時間制限付きでなければ負け戦だろう。やはり数が厄介だ」
「あら、奴らは数で攻撃することを全然生かしきれてはいない。さほど打ち崩すのは難しいことではないわ」
 笑う久秀。本気でそう思っているようだった。
「最初はそう思っていたが、駆け回ってその考えが変わった。有限を相手にするのと無限を相手にするのではこちらの疲弊度も違う、最前線は正に地獄絵図だった」
「……なるほどね。確かに、私も無限を相手取ったことはなかったわね。最初の指揮だけではいささか足りなかったかしらね」
「あ〜和輝、おかえりー! スノーもおかえり!」
 二人に気づいたアニスが、武器改造をしながらも出迎えてくれる。
「ああ、ただいま。アニスの作った聖水搭載型QB、そこら中にばら蒔いてきたからな」
「ある意味、ゾンビにとっては地獄絵図ね」
「うわー、アニスの武器、役に立ってるんだねー!」
「ああ、久秀との連絡もアニスがいて助かった」
「うわーい! アニス、もっともーっと頑張るね!」
 それだけ言って鼻歌交じりに武器を改造するアニス。
「ほう、扱いがうまいじゃないか」
「それよりも次はどうすればいい? 具体的な事は何も聞いていない」
「難しいことはないわ。久秀たちはこれ以上後退することはできない、従って引き付けてからの側面攻撃はもうできない」
「ああ」
「無理をして側面攻撃しても最早焼け石に水。なら、やることは一つ」
「像周辺を最前線で戦う者たち以外で守るってことか?」
「ええ、本当は前線も引き下げるべきだけれどそんな時間はもうない。それに夜明けもそう遠いわけではない、なら確実に補強できる戦力が必要」
「だから俺を呼び戻した、と」
「ええ、さあ移動するわよ。走り回っていただけなのだから、今から少しは活躍なさい?」
「善処するとしよう」
 四人は像周辺へと向かう。夜明けも、そう遠くはない。