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【祓魔師のカリキュラム】一人前のエクソシストを目指す授業 2

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【祓魔師のカリキュラム】一人前のエクソシストを目指す授業 2

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第6章 アイデア術を考えてみようStory3

「ぅーん、オリジナルの術…ねぇ。一緒に発動って、協力して連携させるのとは違うのん?」
 腕組をしながらむぅ〜っと唸り、ルカルカは隣にいるダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)に顔を向ける。
「魔道具の力を同時に発揮するとは限らないだろ。考えたものによるんじゃないか?」
「ぁあ〜、そっか。どっちにしても、互いの能力加減が大切よね」
「2の力を使おうとしている相手に、3倍の力を送ったと考えてみるんだ。それを受け取った相手が、自分とキャッチした力を、次の相手に送ることになるわけだが…。力が大きすぎて送りきれず、失敗する確立が高くなるってことだ。―…って、理解出来たか?」
 うにゃ?っと首を傾げているルカルカが、いまいち理解出来ていないのでは…と、眉間にきゅっと皺を寄せる。
「つまりデータ量として考えると処理速度の限界を超えて、システムエラーを起こすようなものだな」
「いっぱいパワーを送るのはよくないってこと?」
「まぁ平たく言えばな。威力を調節する必要もあるからな。その他の問題点は自分だけじゃなく、皆がきちんと感情コントロール出来るか…とかだな」
「先生たちが授業で言ってたアレね」
 お互い声をかけあい、扱えるほど余力が残っているか、恐怖…怒りなどにより精神を乱していないか確認することも必要となる。
 術者と魔道具が揃っていれば、術を使うことは出来る。
 ―…だが、余力が残り僅かだったり、術者の誰かが感情を乱してしまっていることなどもありえるだろう。
 そのような場合、十分に能力を発揮することが出来ないのだ。
「一緒に戦うわけだし、互いに細かい気遣いも大切ね♪」
「場を和ませるんじゃなく、空気の読めないギャグとかもアレだってことだ」
「ルカそんなヘマしないもんっ!」
「敵前でチョコバーだとか食べたいと思っても、耐えなきゃな。食欲という欲望もよくないんじゃないか?」
 いつでも耐えられる訓練もしたらどうだ?というふうに、彼女が手にしているチョコババナを指差す。
「―…ぅっ。で、でもっ、おやつ持ってきていいって、黒板に書いてあったわよ!」
「じゃあ今からその訓練もしてみるか?自主的にな」
「許可されているんだからいいじゃない!んもぅ〜…食べちゃえっ!!あむっ」
 ダリルのスパルタ教育を強制実行する前に…!と、チョコバナナにかぶりついた。
「おいおい、バナナはおやつに入らなかったんじゃないのか?」
 コントのような光景を見物していたカルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)が、くくっと笑う。
「よく見て、これはチョコバナナよ」
「だからバナナだろ?んな屁理屈ってどうなんだ」
「もう食べちゃったし♪チョコゾーンの内側が、ちょっと茶色くなっても分からないし。見た目も悪くないもの♪」
「何だそのチョコゾーンって!!」
「カルキノス、ルカをからかっている暇があったら、チーム用の術を考えろ。―…もちろん、ルカもだぞ」
 術の考案を始める様子を見せない2人に夏侯 淵(かこう・えん)がため息をつく。
「そーゆう想像はルカの方が得意だな」
「―…考える気ゼロか?」
 どっかりと地べたに座り込む彼の姿に、淵はムッと眉を吊り上げる。
「はい〜、思いついたわっ。スペルブックの章と使い魔の力をミックスするの!“裁きの章”の祓魔術に、使い魔の主体や形を取らせたら、酸の溶解エネルギー浄化獣になると思わない?」
「実際に試してみないと分からないが…」
「それでね。“哀切の章”とだと、光輝くエネルギー浄化獣よ♪2つの章とね、使い魔合体ー!ってさせちゃうことが出来れば、光と酸の両方を同時に使えるの!」
「使い魔は植物系じゃなかったか?」
 ルカルカが思っているような進化変形するのだろうか?とダリルがツッコミを入れる。
「試してみないと分からないじゃない♪」
「それの姿がどうなるかという前に、オリジナルの術として実現出来るかが問題だな」
「まずそこをクリアしなきゃね!使い魔を使役出来る人を見つけよう♪」
 章はすでにスペルブックに記されているが、肝心の使い魔を呼び出す者が協力してくれなければ試すことも出来ない。
 “ポレヴィークを呼び出せる人いない?ルカたちと組んでくれたら嬉しいな♪”と、大きな声で言いながら場内を歩く。
「私でよければ協力しますわ」
 草・樹の使い魔を扱える者を探しているルカルカに、中願寺 綾瀬(ちゅうがんじ・あやせ)は珍しく自分から声をかける。
「わーい♪これで術者が揃ったわね」
「いつも見てるだけのオメェが、どういう風の吹き回しだ?」
「相手が私ではご不満?でも…訓練場でポレヴィークを使役出来る者は、私のみですのよ。私はどちらでも構いませんけど」
 彼女以外にも、3人ほど使い魔を呼び出せる者はいるが、花の魔性のクローリスのみだ。
 怪しむカルキノスの言葉に対して、からかうように言う。
「なんだよ、スッキリしねぇなあ」
「他者の参加動機などそれこそ関与しなくていいことだ」
「協力相手の意思だとかは、フツー気にするところだろ?思考が機械的すぎて、感情コントロールのミスで不発とか、簡便してくれよな。1人のミスが全員に影響すんだぞ。そんなんじゃ、ルカが考えたモンが不発で終わっちまうんだからな」
 冷たくあしらうダリルの態度にムッとしたカルキノスが文句を言う。
「あら?私は他のチームにいったほうがいいんですの?」
 険悪な雰囲気に、どうしたらよいものかと綾瀬が悩んでいると…。
「へぇー、ポレヴィークを呼び出せるんだね。組んでくれたら嬉しいな♪」
 思いついたアイデア術を試そうと、佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)が彼女を誘う。
「あら…2案になってしまいましたわね。私からルカルカに声をかけたのですが、片方の意見だけを聞くのは不公平というもの…。どのようなものを考えたか、私に聞かせてくださいな」
「おいおい、そっちが俺らに声かけてきたんだろ?」
 まさか他の相手と組むのではと思い、カルキノスは顔を顰める。
「よろしいんじゃありません?ここは学び舎なのですから、いろいろな意見を聞くのもよいと思いますわ」
 どちらを選ぶにしろ、片方の案は自動的に別の機会行きとなってしまう。
 だが、ルカルカと弥十郎が見つけた目当ての術者は綾瀬1人のみ。
 2人がどのようなアイデア術を考えたか聞こうと、木に寄りかかる。



 1人の術者を得るために、ルカルカと弥十郎が思いついた術について、綾瀬に説明する。
 まずはルカルカが、パートナーに話したように話し始める。
 哀切の章と裁きの章の効力を、使い魔に与えるための手順を言う。
「両方の効力を、同時に発動出来たらいいなーって考えてみたの♪」
「精神力の消耗が気になりますけど、なかなか面白そうな感じですわね」
 それを維持するのは大変そうだが、なるほど…興味深いと口元を綻ばせる。
「では、そちらのお話を聞きましょう」
「魔性を見つけても逃げられちゃったら困るよね。で、祓うために囲む必要がありそうかなって思ったんだよ。まずは…アークソウルで探索役をするんだ」
 弥十郎は静かに目を閉じ、水面に水滴が落ちた時の波紋のように意識を飛ばす。
 己を中心に、宝石の力がソナー代わりにならないかと、周囲を探してみる。
「(右斜め数メートル先に、2体…。ん?かなり動き回ってるね…)」
 相手が停止しているわけじゃないため、記憶術で覚えようにも限界があるようだ。
「あれっ?反応が消えちゃったなー…」
 さっきまで感じていたはずの気配が突然消え、ハテナと首を傾げる。
「え…、この木の傍にいるよ?」
 エアロソウルの効力のおかげで、不可視の魔性を見ることが出来る賈思キョウ著 『斉民要術』は農業専門書が、弥十郎に教える。
「ここから、どれくらい離れているかな?」
「えーっと、メジャーがないからよく分からないけど…。だいたい10mくらいかも。それ未満だと、反応が弱かったりするんじゃない?」
「広い領域を探知するのは、まだ難しいのかな…」
「なにごとも、経験を積まないといけないってことじゃないの?使うものが宝石の効力のみだと、元々の能力しか使えないし」
 探知範囲を拡張するには、まだ宝石だけでは難しそうだと、かぶりを振った。
「ということは、私もそうなのかな?魔性がとりついた物は、普通と違うように見えそうな気がするんだよね…」
「内側かー…授業では言ってなかったから、どうなんだろうね?」
「ルカたちが実技で魔性を祓った時、異質なものに変形してたわよ。普段と変らないものとしている時に、変形後の姿が見えるってことじゃないの?でも、物でも見破れるのかしら…」
「ぅーん、あ…そっか」
 憑いたものの姿を普段通りに維持している場合、変形後の容貌も見ることが出来るのかもしれない。
 だが、それは外側の話で、生物に限定される。
 斉民が言う内側に潜む者を見たり、生物以外の物に潜んでいるかどうかは、今のエアロソウルだけでは難しいようだ。
「2つの宝石で魔性を見つけて、ポレヴィークに鳥かごっぽく囲ってもらってから、祓えないかなっていうアイデアなんだよね」
「確実に祓うということを考えると、よいアイデアですわね。さて…どちらと組んだらよいものか…」
 綾瀬は小さくため息をつき考え込む。
「決めましたわ、ルカルカのアイデア術に参加しますわ」
「ん〜…いけると思ったんだけど、残念だなー…」
「見学するか、他のチームに参加するしかなさそうだよ」
「そうしようか、斉民」
 同じような考えの人がいればいいな、と思いつつ弥十郎と斉民は、その場から離れていった。
「少し可哀想だったかもしれませんわね…」
「でも、綾瀬は1人しかいないものね」
「一緒に出来ればよかったんだけど…」
「他にスペルブックの使い手がいるなら、組んでみるのもよいのでは?」
「どうせ俺たちも頭数に入ってるんだろう?」
「協力してくれるよね?」
 綾瀬に声をかけてもらい、“術者が揃った♪”と喜んだ様子からして、ダリルたちも強制的にカウントされているようだ。
 彼女が問うまでもなく、彼らに拒否権はない。
 ゆえに首を縦に振るような返事しか返せないのだ。
「それは構わない。しかし、心が清い状態が良いというが…、愛と慈しみで安らぎを与える的な…?…痒くなる話だな」
 純真な彼女のようには出来ないだろうと、ダリルの方は魔力の流れを冷静に制御することくらいだろう。
「ぇー…そういう気持ちも大切なのにっ」
 パートナーの冷たい態度に頬を膨らませる。
「こんばんは。チームを組む相手を探しているのですけど、いいですか?」
「大歓迎よ♪」
「ありがとうございます」
 使い魔と章の力を合わせた術に、神代 明日香(かみしろ・あすか)も参加する。
 ルカルカが彼女にも簡単にアイデア術について説明し終わると、後は試してみるだけとなった。