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恐怖! 悪のグルメ組織あらわる

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恐怖! 悪のグルメ組織あらわる

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 可愛らしいキャラクターが描かれ、丸みを帯びた黄色い車。
 悪のグルメ組織『冬虫火葬』がターゲットとしている幼稚園の送迎バスが、街の中央道路をゆっくりと安全運転で走っている。
 このまま進んだ十字路に、ソウレッド率いる防衛部隊が集合していた。

 予定通りにバスが十字路に入った時、四方から爆音にも似たエンジン音が響いてくる。
 悪のグルメバギーだ!
 煙をまき散らしながら凄まじい勢いで迫ってくる。

「いかん、すでに囲まれている! みんな! それぞれに分かれて迎撃を頼む!」

 ソウレッドの叫びに、集まった者たちが散開していった。


 ◇ 悪のグルメ組織、大決戦の巻 ◇

「ほら、あれだよ。始まってまだそんなに経ってないから、十分見応えがあるんじゃないかな」

 長原 淳二(ながはら・じゅんじ)が十字路を指差すと、ミーナ・ナナティア(みーな・ななてぃあ)も同じ方向に視線を移す。
 そこには、料理を手に連打する戦闘員と、荒ぶる防衛のポーズをとる勇者たちの熱いバトルが繰り広げられていた。

「うわあ、皆さん色々な料理を持っていますね。でも、実際の料理バトルって……想像していたものと大分違うような……」

 淳二から料理バトルが行われていると聞いて、ミーナはそれぞれが料理を作り、味を競う大会みたいなものだと思っていた。
 回転しながら突っ込み、カウンターで料理を食わされた戦闘員が爆発する。
 目の前の光景は予想していたものとは全然違う、文字通りの死闘が展開されていた。

「そうだ、アイス買ってきたので食べながら見学しましょうか。このチョコチョコ味をどうぞ」
「お、悪いな、ありがとう。ん、このチョコチョコ味ってなんだ……?」

 ミーナは淳二にアイスを渡すと、一緒についてきたルル・フィーア(るる・ふぃーあ)の方を伺う。

「あなたの分も買ってきたけど、食べますか? どっちが良いでしょう?」

 そう言ってミーナが見せたアイスは、いちごミルク味とサイダー味の二つだった。

「ありがとう、ではこっちのサイダー味を戴きますわ」

 ルルはちょっと迷った末に礼を言いながら青い方を受け取る。
 横では淳二がチョコチョコ味についてまだ悩んでいた。

「チョコにチョコでチョコチョコ味なのか、それともチョコがちょこっとだけだから……」

 ◇

 セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)は右手の道路から迫る敵と相対していた。
 停車した二台のバギーは戦闘員をぞろぞろと吐き出し、セレンフィリティとセレアナの二人を囲んでいく。
 そんな状況に臆することもなく、セレンフィリティは戦闘員たちに指を突きつける。

「聞いたわよ、あんたたち。なんでも最近、不味い料理を無理矢理食べさせて世間に迷惑をかけているそうじゃない。でも、それもここでおしまいよ! あたしの作った本当の料理というものを食べて改心なさい!」

 セレンフィリティは形の良い胸を張り、自信に満ちた笑顔で高らかに言い切った。
 隣で構えていたセレアナが整った眉を顰め、お前が言うなと言わんばかりの顔をするが、当の本人は不思議そうにハテナマークを出している。

「フフフ、我々の作る料理は素晴らしいものだぞ。お前らが食べて逆に改心するがいいっ!」

 並んだ戦闘員たちの間から怪人サンドウィッチ伯爵が現れた。
 両手には座布団サイズのサンドイッチを持っている。
 いくぞ! と叫んだ伯爵が飛び上がり、サンドイッチを縦に振りかぶりながら襲ってきた。
 キラリ、とセレンフィリティの目が光る。
 同じ高さまでジャンプしたセレンフィリティが、すれ違いざまに驚愕する伯爵の口へとカナッペを捻じ込んでいく。

「べじたぼっ」

 緑の煙を出しながら爆発して墜落する伯爵。
 その横へ着地したセレンフィリティは、さらに追い打ちと言わんばかりにドリンクを流し込んでいく。

「サンドイッチやカナッペだけだと喉が渇くからね、ドリンクも用意しておいたよ」

 ダメージで身動きの取れない伯爵は、怪しげなドリンクを抵抗できずに飲み込んでしまう。
 やがて痙攣していた身体はピクリとも動かなくなってしまった。

「むう……心の汚れた輩には、あたしの料理は猛毒となるのね!」

 その様子にセレンフィリティは思いっきり勘違いをするが、後ろではそっと手を合わせて冥福を祈るセレアナの姿があった。


「あのドリンクはっ!」
「知っているのですか淳二!?」

 淳二の驚愕する声に、最後の一口を食べ終わったミーナが振り返る。

「ああ、かつてMJ12(まずいジューストゥエルブ)と呼ばれ、恐れられていた伝説の飲み物だ……。いや、飲み物と言っていいのかな、あれ」


 カモフラージュを使い、相手をかく乱させながら捩じり込むように打ちまくるセレンフィリティとは対称に、セレアナは後の先を使ったカウンターで料理を食べさせていた。

「この懐かしい味は……おふくろおおおお」

 涙を流し、膝をついて戦闘不能になっていく戦闘員たち。


「ミーナ、参考にするならあのレオタードの人の料理にしような」
「……」