校長室
早苗月のエメラルド
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Moonlight-3 フレンディス達が話している海岸より少し離れた所で、乙川 七ッ音はリードを口に含み湿らせていた。 気温や湿度で変化しやすいから此処へ辿り着いた時からかなり心配していたのだが、今のところはまともに使えそうだ。 「折角こんなに綺麗な無人島に来たんですから、楽器を吹いておかないともったいないですよね」 七ッ音は調整を終えて、クラリネットを吹きだした。 浜辺に夜の音色が流れ出す。 ――綺麗な星空。 ここには私と大好きなクラリネットの音だけ。 ずっとこのままで…… ずっとこうして一人で居られたら…… そう思う七ッ音の心に、温かかった夕食の時が思い出された。 物おじして前に出られなかった自分に笑顔を向けてくれたエース、背中を押してくれたリリア。 それに七ッ音に話し掛けてくれた沢山の人達。 ふと、七ッ音が森の方へ視線を向けると、彼女のパートナーの白泉 条一が戦っているのが見えた。 「どうせ楽器でも吹いてんだろうな。」と思って条一は居なくなったパートナーを探していると、 想像通り皆と離れたところでクラリネット吹いてる七ッ音を見つけた。 ただ、吹いてるだけなら良かったのだが、モンスターに目をつけられてるのに真剣な七ッ音はちっとも気付いていなかった。 ――邪魔したくないし、軽ーく…… そう思っているうちに何時の間にか本気なって戦っていた条一に、七ッ音が気付いたのだ。 「さあこっちだ! ついてこいっ!!」 叫ぶ条一に、七ッ音は心の中で笑ってしまう。 ――応援してあげよう 七ッ音は曲のテンポを上げ、条一に向かって音を響かせる。 ――やっぱり人にふいてあげる方がいいな。 まだちょっと人が怖いですけど……その……聞いて頂けると……うれしい、です。 * 「何だか楽しそうな音ですわね」 恋人のアデリーヌ・シャントルイユの笑顔に、手をつないでいた綾原 さゆみは心を奪われる。 皆が寝静まった海岸を、二人は散歩していた。 「こんな時に不謹慎かもしれないけど、ロマンティックね」 「ええ、とっても素敵ですわ」 会話をしていても、何処かぎこちなさを感じる。 夕食の時、皆が妙にテンション高く振舞っていた姿に、誰もが同じ思いを抱えているのだとさゆみは気付いていた。 明日に戦いを控え、死ぬかもしれないという恐怖から逃れられないでいるのだ。 「ちょっと座りましょ」 促されて素直に砂浜にドレスを広げたアデリーヌの手に、さゆみは指を滑らせる。 アデリーヌは拒否しない。 そのまま手を腕に、肩に這わせて首筋をするすると撫ぜると、アデリーヌの口から色を含んだ吐息が漏れた。 「ねぇアディ…… 今、私たちを見ているのはお星様とお月様だけ…… だから」 さゆみの熱を含んだ視線に、アデリーヌは小さく頷いた。 啄ばむ様に唇を重ね、そのままアデリーヌの身体を砂浜へ押し倒す。 視線を絡めたまま、さゆみはアデリーヌの服を脱がせていく。 始めの頃は戸惑っていた複雑な構造のドレスも、今では脱がせるまでにそれ程時間がかからない事が、さゆみの密かな自慢だ。 「綺麗よ、アディ」 さゆみは一糸まとわぬ姿になった恋人の彫刻のように白く美しい胸に、誓うように唇を落とす。 二人はそれから何度も何度も愛し合った。 行為が始まって暫く後に、二人の姿を見つけたリカインは明日の戦いに備えて彼女達を眠らせてしまおうかと考えていた。 ――そういうことは鯨を退治してから改めてしなさい 溜息をしてディーバードを遣わそうとした時に、リカインの耳にさゆみの声が聞こえてきた。 「アディ。 きっと私たち、生きて帰れるよね……」 さゆみは肩を震わせながらアデリーヌの胸に縋るように抱きついた。 「必ず帰れますわ…… 今さっき、流れ星が流れたもの。 私はそこに祈りを込めたわ。さゆみと無事に これからも一緒にいられますように……と」 リカインは人差し指を伸ばしてそこへディーバードとまらせると、静かにそこを去って行った。