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二人の魔女と機晶姫 最終話~姉妹の絆と夜明け~

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二人の魔女と機晶姫 最終話~姉妹の絆と夜明け~

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古王国時代と呼ばれた、約5000年前のパラミタ……

そのパラミタにおいて、ある一つのテロリスト集団がいた

集団の名は“夜明けを目指す者”

しかし彼らの野望は飛び立つことなく、直前になって潰えたという――



■動乱の芽生え
 ――機動要塞デイブレイカー。空京付近へと向けて航行しているその姿は、黒船と呼ぶにふさわしいのかもしれない。事実、空京ではデイブレイカーを黒船と称して緊急報道しているようだ。
「……ヴィゼルさん、まさかあなたがこんな暴挙に出るなんて思ってなかったわ」
 デイブレイカーの制御室としても稼働しているブリッジでは、今回の首謀者であるヴィゼルと、ここへ攫われてきたミリアリア、そして数少ない部下の人間とそれをサポートする機晶姫たちの姿が見受けられる。
 ミリアリアはクルスを人質にとられているためか、大きな抵抗もできずに椅子に座らされている。その目の前には防御結界を張るための道具などが大量に置かれており、ミリアリアはここからデイブレイカー全体に対し防御結界を張ったのだろう。
「なんとでも言うがいい。わしはただ己の成すべきことをやろうとしている……それだけだ」
「あなたが私に援助していたのも、このためなの?」
「ああそうだ。防御結界を得意とする魔女の話を耳にしてな、これは使えると思った次第だ。わしにしてみれば、お主は使える道具だった。先ほどの国軍の偵察部隊の攻撃を凌いだ時にそう確信した。投資までして育てたかいがあったものだ」
「……ならもういいでしょ? クルスと私を早く解放して!」
 ミリアリアの訴えに、ヴィゼルは首を横に振る。
「そうはいかない。使える道具は徹底的に使いこなさねばな。それにクルスのほうもわしには必要な道具だ。そう簡単に手放すわけにはいかないのだ」
 ヴィゼルの言葉に奥歯を噛みしめるミリアリア。と、その時通信担当がヴィゼルへ報告を上げていく。
「ヴィゼル様、何やら外部から直接通信が入ってきているのですが……」
「外部からだと? ――何者かは知らぬが、回線を開け」
「わかりました、回線開きます」

『――繋がったみたいだな、俺は……“暁”とでも名乗っておこう。お前が声明で顔を出していたヴィゼルか』
 通信回線から流れ出す声。その声は加工されているのか代弁されているのか、特定することはほぼ不可能のようだった。
「どこから通信をしているのかは知らぬが、大胆不敵とはこのことを言うようだ。わざわざ敵に直接通信を送ってくるとは」
『俺はお前の敵ではない。むしろ同じ目的を持っている立場だ。……手土産もある、今送信したデータを見てもらおう』
 “暁”は何かを送信したらしい。その証拠に、すぐさまデイブレイカーのシステムに何かデータが届いた。
「……ふむ、ハッキングもお手の物というわけか。――何のデータが入ってた?」
「そ、それが……国軍やその協力者たちの詳細なデータやイコンデータ、さらには展開される作戦の内容が載っているデータのようです!」
 データの内容に思わず目を見開くヴィゼル。軍事機密の漏洩とも言えるこのデータを見て、再びヴィゼルは通信回線へ意識を向ける。
「――本物と見て問題ないのだろうな?」
『本物かどうかはそっちで判断するといい。言っておくが、足を掴もうとしても無駄だ。対策は施してある』
「……いいだろう、そこまで豪語するのならば信用させてもらう。して、これだけを渡しに来たのではあるまい? あくまでもこれが手土産とするのならばな」
 話はこれだけではない。ヴィゼルの眼力がそれを捉えると、“暁”はわずかな含み笑いを噛み殺し、話を続けていく。
『――それを見て分かるように、その機動要塞を修繕した契約者が多くいるはずだ。システム面に細工されている可能性が十二分にあると思っていいだろう。時間はない、早急に調査と対策を練っておかないと足をすくわれかねないぞ? それと……飼い犬に手を噛まれないよう、注意するのだな』
 伝えることだけ伝えきると、“暁”は一方的に通信を切る。……謎の協力者からの提言を受け、ヴィゼルはすぐさま管制担当たちにシステムの再チェックを行わせていった。
「……最初から怪しまれていたか。何か見つかったか!?」
「――ありました! プログラム内にかなり巧妙な偽装が施されていますが、確かに緊急掌握プログラムが仕込まれているようです!」
 それを聞いて、ヴィゼルは小さく舌打ちを打つ。出し抜かれていたことに対し、腹を立ててしまったのだろう。
「――それはそのままにしておけ。その代わり、あるプログラムを連動して起動するようにしてもらおう。あと、これ以降外部からのアクセスやハッキングを完全に遮断するようにするんだ」
「あるプログラムですか……?」
 管制担当が首を傾げる。しかし、次にヴィゼルから発せられた言葉に驚愕することになる。
「それ、本気ですかっ!?」
「ああ本気だ。……結局はこのデイブレイカーも『未完成』だったということだ」
 よほど本気なのだろう……それを感じ取った管制担当は、すぐに作業を開始する。そしてヴィゼルは、ミリアリアのほうへ視線を向けた。
「――お主にも働いてもらうぞ。クルスをこれ以上苦しませたくないだろう?」
「くっ……わかったわ……」
 クルスのことを出されてしまっては、反抗することもできないミリアリア。苦虫を噛み砕いたかのような表情を浮かべながら、ヴィゼルの言葉に従うほかなかった……。


「――偵察部隊が撃墜されてからは動きなし……あとは本隊をぶつけるつもりなのでしょうかね」
 ペガサスであるセントリーに乗り、戦場となるであろうデイブレイカー周辺の状況を視認していた鳳 美鈴(ふぉん・めいりん)が、ある程度視認し終えたのか、主であるメンテナンス・オーバーホール(めんてなんす・おーばーほーる)へ報告を入れていた。
「そうか。……そろそろ国軍本隊がデイブレイカーを迎撃開始する。巻き込まれないうちに戻れ」
「わかりました、戻りますね」
 ……主であるメンテナンスがミアリー・アマービレ(みありー・あまーびれ)と共に別行動をとり、暗躍しているであろうことは美鈴は知っている。だがその内容は詳しく知らないうえ、メンテナンス自体がそれを露呈するようなヘマをすることはない、と確信している美鈴は自分のやるべきことをただやっているだけである。
 ミアリーも同様であり、先ほどの通信の際の声はナノマシン拡散したミアリーの声である。たくさんの声が同時に発されたため、加工された声のように聞こえたようだ。これにより“暁”……つまり、メンテナンスの偽装に一役買ったというわけである。
 ――メンテナンスの目的は単純。すぐにヴィゼルに倒れられては困るため、情報を流すことで状況の混迷化を狙っているのだ。
 混乱の胤は撒き終えた。あとは結末を傍観するだけ……メンテナンスにとって、この動乱もただの“余興”に過ぎないのであった――。