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【神劇の旋律】三姉妹怪盗団、参上!

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第5章 お披露目会 お楽しみ編

 武崎 幸祐(たけざき・ゆきひろ)ヒルデガルド・ブリュンヒルデ(ひるでがるど・ぶりゅんひるで)ローデリヒ・エーヴェルブルグ(ろーでりひ・えーう゛ぇるぶるぐ)蘇 妲己(そ・だっき)ら一行がお披露目会場に入ると、そこはメイドだらけだった。
 メイド姿でお披露目会をレポートしている六本木 優希。
 獣耳と眼鏡メイド姿でちょこまかと動き回る清泉 北都(いずみ・ほくと)
 中央付近で仲良く話しているメイド姿の二人組は、五百蔵 東雲(いよろい・しののめ)リキュカリア・ルノ(りきゅかりあ・るの)
「はああ……やっぱり似合ってるよその姿! まさに東雲に着られるために作られたようなメイド服だね!」
「いやそれちっとも嬉しくないし」
「んじゃあ、東雲はメイド服を着るために生まれてきたんだね!」
「それはもっと酷い」
 浮かれるリキュカリアに頭を抱える東雲。
「全く。シロは生まれてきた性別を間違えたようだとか言ってるし……あれ、シロは?」
 ついて来た筈のンガイ・ウッド(んがい・うっど)の姿が見当たらないことに気づき、周囲を見回す東雲。
「ん。ちょっと用事があってね……」
 何か含みを持ちながら、言葉を濁すリキュカリア。
「あのさ、リキュカリア」
「なぁに?」
「思ったんだけど、もしかして『お披露目会に相応しく危険性がない服装にしなくちゃっ』て着せられたこのメイド服……リキュカリアの趣味?」
「ななななあに言ってるんだよぅ! 東雲をまた女装させる機会に恵まれたなんて思ってない、思ってないったら!」
「やっぱり。いや、楽しそうでいいんだけどね……」
「いいの!?」
「いやそーゆう意味じゃなくって」

 東雲たち以外にも、富豪の周囲には眼鏡や獣耳のついたメイドたちは大勢いた。
 この屋敷で働いている通常のメイドもいるため、お披露目会のメイド率は大変なものだった。
「これは、壮観ですね……メイドさん。カシスオレンジとカナッペをお願いできますか」
「はぁい」
「ご苦労様。あ、チェリーブロッサムもお願いします」
「はいはい」
「ありがとう。そうそう、ブルームーンもね」
「分かりました」
「悪いね。ロマネ・コンティも頼みます」
「構いません」
「……って北都ぉ、何やってんだ!」
 ソーマ・アルジェント(そーま・あるじぇんと)の呆れた声が響く。
 手近にいたメイドさんに注文していた武崎。
 しかしそのメイドさんは、メイド姿に変装していた北都だった。
 そんなソーマも、黒タイトに眼鏡セミロング姿なのだが。
「ったく、お披露目会に来てまで仕事してるんじゃねぇよ」
「んー、こんな服着てるから、つい……」
「つい、じゃねえ」
「おやおや、あまりにも似合っていたからつい本物のメイドさんかと思ってしまいました。申し訳ない」
「ごめんなさいね」
 驚いて謝罪する幸祐。
 妲己も謝罪の言葉を口にするが、どこか楽しげで、本気ではない様子だ。
「気にしないでねぇ。僕も好きでやってるんだから」
「北都ぉ」
「そうですか。それではカナッペを4人前追加お願いできますか」
「了解ですー」
「ってお前ら普通に注文続けてんじゃねえ!」

「賑やかですねぇ……あれ?」
 周囲の喧騒に気を取られていたアルテッツァ・ゾディアックは、同伴している筈の人物たちの姿が見えなくなっていることに気づき、一瞬首を傾げた。
 つい先程までは、賑やかな三人組がいた。
 ハイネックの前ボタン式メイド服で密かに巨乳を強調させたトレーネ。
 胸元の開いたカフェメイド服に丸眼鏡でどじっ娘風にしたシェリエ。
 甘ロリメイド服にネコ耳猫しっぽで魔法少女メイド風のパフューム。
 ヴェルディー作曲 レクイエムが選びに選び抜いたメイド服を来たカフェ・ディオニウスの三姉妹。
 しかし気づけばそこにいるのはゴスロリメイド服を着たパピリオ・マグダレーナだけ。
「皆さんは……どうしたんでしょうね」
「わっかんなぁーい。気が付いたらテッツァとぱぴちゃんだけだったの」
「そうですか。……何か大切な用事でもあるんでしょうね」
 首を傾げるパピリオに、アルテッツァはふっと笑った。

「ぷぁふ!」
 ブルー・ムーンを片手に会場を移動していたヒルデガルドの大ぶりの胸に、何かが当たった。
「あら、失礼」
「いえいえ」
 胸先に見えるのは、妲己の大きな胸。
 いや、その間に何か黄色い物が見える。
 頭?
「ぷぅう……」
 パフュームの小さな頭が、ヒルデガルドと妲己の胸の間に挟まっていた。
「あらら、ごめんなさいね」
「う、ううん」
「気が付かなくって悪かったわね。胸が邪魔で、よく見えなくて……」
「(ひくっ)い、いえ……うん、気にしてないから」
「本当に大丈夫?」
「う、うん……サンド……おっぱいサンド……」
「はい、サンドイッチですねー」
 何やらショックを受けつつふらふらと去って行くパフュームに、北都がサンドイッチを差し出した。

「これだけ大勢の人がおっては、どれが不審人物やら分からぬのぉ」
「ああ。楽器なんかに興味がある奴なんてそんなにいるんだな」
「おや、いいのかな? そんなに警戒心を露わにしていたら、不審人物からも警戒されてしまうぞ」
「くっ……悔しいけど一理あるわね。……きゃー、すっごーい! こんなすごい楽器イリア初めて見たぁ!」
 メイド服が多いなか、一人着物を身につけて僅かに周囲から浮いていたルファン・グルーガ(るふぁん・ぐるーが)とその一行。
 イリア・ヘラー(いりあ・へらー)はお約束通りメイド服だが、お気楽見物気分のウォーレン・シュトロン(うぉーれん・しゅとろん)長尾 顕景(ながお・あきかげ)はいつも通りの服装だ。
 ルファンはあえてお披露目会に参加することで、観客としての立場からティンパニを警護しようと考えていた。
 その隣に立つイリアも、ルファンの役に立つためにティンパニの警護をしていたが、ティンパニそのものを見てみたいという気持もほんの僅か。そしてそれ以上に。
(ティンパニもいいけど、やっぱりルファンといられるこの時間が一番貴重だね)
 密やかに笑うイリアだった。
「それにしても大そうな客じゃのう」
「あぁ。こんな賑わいを見てるのも悪くねぇが、そろそろ不審人物を確認しておこうかな……っと」
 楽しげに笑っていた表情をふいに真面目な物に変え、ウォーレン・シュトロンは目を閉じる。
 超感覚を発動させる。
(怪しげな奴怪しげな奴……ん?)
 ウォーレンの耳にたくさんの情報が流れ込んでくる。
 ――怪盗より先にティンパニを盗む!
 ――ティンパニは我がオリュンポスがいただく!
 ――ティンパニを、強奪し返す!
「……これは……」
 あちこちあれこれ、本音の嵐!
 その他にも、金持ちに向ける憎悪の言葉やティンパニに向ける熱い視線。
 メイド姿に扮そうした女性たち。
「怪しげな奴、多すぎる……っ!」
 小さな声で呻くウォーレンだった。

「ふっ…… いくら警護したところで最終的にはなるようにしかならないのだよ。しかし、それでも足掻く姿もまた面白い……」
「あら、気が合うわね。私も面白いことを見物するのは好き」
 顕景の前に現れたのは妲己。
 妲己は歌う様に続ける。
「足掻く人、動揺する人、憤る人。そんな人たちの様子を見守り、時に余計な事を言って動揺させ、混乱を呼ぶ! 面白いわねえ」
「まだまだですね」
「!?」
 妲己の言葉に小さく笑う顕景。
「自分自身が参加してしまっては高みの見物にはなりません。たとえどんな事態が起ころうと、ひたすら第三者に徹するのです」
「なんだ、つまらない人生ね。やっぱりぐいぐい切り込んで行かなきゃ」
「あるがままの楽しさが分からないとは、ね」
「やだやだ、そこまで枯れたくないなぁ」
 ぴしっ、ぴきっ……
(な、何だこの空気は……)
 顕景と妲己。
 ある意味似た者同士だからこそ譲れない主張に、思わず戦慄を覚えるルファンだった。