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第六章 食べて飲んで話して


 かなりの人数が集まった食堂は、がやがやと賑やかだった。宝物についてはすでに全員知っていた。

「リクエストだよ。アイスとケーキとチョコとか甘い物全部入ったパフェが食べたい」
 弥狐が厨房で忙しくしているイリアとシンにリクエストをしていた。

「任せて!」
 そう言って『調理』を持つイリアがあっという間に弥狐のアイディアを見事に実現した。作ったのは、巨大な器に入れた高さ60センチのパフェだった。当然、ホラー仕様。
「完成、ホラーハッピー!」
 イリアは適当な料理名を口にし、まだかと厨房で待っている弥狐に渡した。
「……うわぁ。大きいね。これって名物になるよー」
 弥狐は器から溢れるデカ盛りパフェに大きな声を上げながら落とさないように自分の席に戻りすごい勢いで食べ始めていた。途中フランソワに宣伝していた。

「……シンくん、地獄のコックの姿で肉を切り裂いていた時、ちょっとホラーだったよ」
 全員、元の姿に戻ったためイリアは思わず仕事中思っていた事を言った。料理人として一緒に調理をしていたし驚かせられた訳ではないので恐怖感はあまりなかったが。
「……だろうな」
 シンも多少同じ事を思っていたのかイリアに頷いた。

「まさか宝物があれだとは思わなかった」
「どこかで見ていて笑っていたに違いないな。いつもそうだったからな。自分で作った怖い話をしては人の反応を見て楽しんでいた」
 と宝物について感想を口にする兄妹。テーブルには本当に何も無くなった小瓶が置いてあった。

「……これで宝物は無くなって残念だね」
「まぁ、お前の情けない姿が見られたから充分収穫だろ」

 仲の良い雰囲気は長くは続かず、また兄妹喧嘩を軽く始める二人。

「……二人共、そこそこにのぅ」
 忙しいイリアとシンを手伝っているルファンがやって来て二人に飲み物を渡した。
 二人の性格故に喧嘩が起きているためやめろとは言わない。なぜなら、性格はそう簡単には変えられないからだ。
「……」
 ルファンの言葉に兄妹は神妙な顔になった。

「あら、おいしそうね」
 フランソワは弥狐が持つパフェに興味を持った。
「ホラーハッピーだよ。あたしが考えたんだよ」
 何気に宣伝する弥狐。
「食べてみようかしら」
 弥狐が行ってから甘い物が好きなフランソワは早速、注文。
「ホラーハッピーを一つお願いね」
「はいはい」
 イリアは再びデカ盛りパフェを作り上げ、フランソワに持って行った。
「無事に終わったわね。みんな素敵だったわ」
 フランソワはパフェを食べながら言った。
「来た人の中には写真を忘れる人もいましたわね」
 とアデリーヌ。
「そうだね。本当に楽しかったよ。チェロも素敵だったよ」
 満足そうなさゆみ。
「……ピアノの演奏も素敵で」
 さゆみに感動されたカンナはピアノを演奏した二人を褒めた。
「……みんなと演奏が出来て良かったわ」
 アメリは少しだけ口元をほころばせながら言った。
「アメリ、大丈夫だったか」
「みんなー、素敵だったよ」
 アメリを心配したダンと飛び入り参加の歌姫をしたノーンが現れた。
「あたしは大丈夫よ。心配しないで」
「そうか」
 アメリは心配するダンにちょっとむっとしながら言い、ダンは元気そうな様子に安心していた。
「とても素敵なピアノだったよ」
 さゆみがアメリのピアノについてダンにも話した。
「……そうか」
 さゆみの話を聞いてダンは嬉しそうにアメリを見た。
「あ、それおいしそうだね」
 ノーンはフランソワが食べているパフェに興味がいった。
「これはホラーハッピーですって。驚いたわ、突然参加するんですもの」
 フランソワがパフェを宣伝しつつ、ノーンが演奏に参加した時の事を言った。
「でも素敵な声だったよ。とても盛り上がったし」
 オデットが感想を口にした。ホラーではなく演奏会に変貌はしていたが。
「驚いたけど、楽しかったよ」
「……最高の演奏と歌声だった」
 さゆみとカンナ。
「……素敵でしたわ」
 とアデリーヌ。
「ありがとう。またね」
 そう言ってノーンはデカ盛りパフェを注文しに忙しい厨房へ行った。
 入れ替わりにダンを見つけたローズが声をかけて来た。
「お疲れ様。楽しかったよ」
「あぁ、お疲れ」
 ダンも労うローズに言葉をかけ、見送った。

「フランソワ、それ全部食べられるの?」
「心配ないわ。私、甘い物は好きですもの」
 デカ盛りに心配するオデットに笑いながらフランソワは答えた。

「……カップルばかりだな」
 和深はいちゃつくカップルを眺めながら呟いた。
 それに同意する者が現れた。
「せやな」
 現れたのは、受付係をしていた裕輝だ。裕輝は適当な所に座った。

「注文の料理ホラーハッピーだよ」
 突然、イリアがデカ盛りパフェを四つ持って来た。
「こりゃ、すごいな」
 デカ盛り四つの光景に思わず声を上げる裕輝。
「誰が注文したんだ?」
 注文した覚えのないパフェに和深は他の三人に訊ねた。
「私ではありません」
「わたくしもしていません」
 流もベルも静かに首を振ってしていないと主張。
 そこに春夏秋冬が手を挙げた。
「はいはい、あちしなのだ。おいしそうだったからみんなの分を注文したのだ」
 元気よく名乗り出る春夏秋冬。ノーンが美味しそうに食べているのを見て食べたくなったのだ。自分の分だけでいいところを親切に仲間の分まで注文したのだ。
「……気持ち悪くなりそうやな」
 デカ盛りパフェに裕輝が正直な感想を洩らした。
「……わたくしも食べるのですか」
 ベルは自分の前に置かれたデカ盛りパフェに不安になっていた。
「……これは」
 あまりの量に眉をひそめる流。
「……無理だろ」
 和深はため息をつきながら食べ始めた。
「んー、おいしいのだ!」
 春夏秋冬はテンション高く、パフェを食べ続けていた。
 この後、春夏秋冬は流とベルが食べ残したパフェを完食し、和深は自力で何とか完食した。
「ご愁傷様や」
 裕輝は、完食後にあまりの甘さに降参している和深に労いらしき言葉をかけた。

「見た目はなかなかどす黒いが味はいい」
 優は珈琲を飲んでいた。
「そうよね。この見た目だけだと」
 同じ珈琲好きの沙夢が頷いた。
「それはどうしたの?」
 ホラーなスイーツを食べていた零が沙夢の手元近くにある紙袋を訊ねた。
「これは……」
 沙夢は紙袋から今飲んでいる珈琲の珈琲豆を取り出した。
「……販売していたのか」
 優が出て来た商品を確認してから声を上げた。
「これが目的で買ったわけじゃないんだけど。いい買い物をしたわ」
 と沙夢。愛くるしい店員と触れ合うために買った物だ。
「……宝物は誰もが幸せになれる物だったそうね」
 珈琲豆を片付けながら言った。
「えぇ、出て来た小瓶に何も無かったから最初は驚いて。でも心がふわぁって幸せになって」
 と話す零はふと優を見た。
「……懐かしさや嬉しさや良い感情がわき起こって幸せな気分にさせられた。魔法だろうとは思うが」
 優も宝物について話した。
「……そうなの。宝物探しお疲れ様」
 沙夢は、二人の話に頷き、労いの言葉を言った。

「……あの宝物を見て癒された気分になった」
「そうですね。心が温かくなって」
 聖夜と陰陽の書は寛ぎながら宝物の話をしていた。
「ホラーハッピーだよ」
 聖夜の近くに座っていた九十九の元にイリアがデカ盛りパフェを運んで来た。
「待ってました!」
 大の甘党の九十九は嬉しそうにパフェを食べ始めた。
「……そんなメニューあったのか」
 聖夜が思わず九十九に声をかけた。
「あぁ、ほら」
 九十九がそう言って指をさしたのは、ハイテンションにデカ盛りパフェを食べ続ける春夏秋冬の姿。
「……食べている人多いですね」
 陰陽の書はあちらこちらでデカ盛りパフェを食べている甘い物好きを見ていた。
「甘党には嬉しい物だ。ケーキもアイスもチョコもある。宝物を見て舞い上がる気分はしたが、俺はやっぱり甘い物を食べている時が一番幸せだ」
 九十九はそう言い、幸せそうにパフェを食べた。
「……名物になりそうだ」
「そうですね」
 聖夜と陰陽の書は九十九を見ながら言葉を洩らした。

「可愛ね」
 レキは可愛い仲間を連れたリアトリスに声をかけた。
「ありがとう」
 リアトリスはにこやに答えた。
「……抱っこしてもいいかな?」
「いいよ」
 レキはリアトリスから許可を得てソプラニスタを抱っこした。
「クォ〜ン♪」
 ソプラニスタは嬉しそうにレキの顔にスリスリしてきた。
 ジョヴァンナはおいしそうにホラーなドーナツを食べ、サフランはみんなの邪魔にならないように飛んでいた。
「お土産屋お疲れ様」
「受付係もお疲れ様」
 互いに互いを労う。
「いろんな所でたくさん悲鳴が上がってたね」
 リアトリスが時々聞こえて来る悲鳴を思い出しながら言った。
「うん。でも宝物が見つかったみたいで良かったよ。何か精神に影響するものだったって」 レキも担当した役柄同じように悲鳴を耳にしていたので頷いた。
「そうらしいね。でも僕はこうやってみんなが楽しそうにしているのがいいかな」
 リアトリスは賑やかに今日の事を話したり食べたり飲んだりして楽しそうにしているみんなを見た。
「そうだね。でも、本当に可愛い」
 レキは頷き、ソプラニスタを撫でた。

「宝物を見つける事が出来て良かったですね。とても心がほんわり温かくなりました」
「そうだな、何かほっとする感じだった。推測通り中庭にあって良かった」
 舞花と剛太郎が宝物についてと互いの推理が合っていた事を話していた。
「あの宝物を作るのに随分時間がかかったでしょうね」
 舞花は手の込んだ宝物について言った。
「そうだな。それも家族のためだろう。しかし、リタイアボタンを押さずに制覇できて良かった」
 剛太郎も同じように頷いた。途中リタイアは兵士として格好悪く恥ずかしいと思っていたが、何とか無事に制覇でき、ほっとしていた。
 このように話している二人の横で賑やかに酒盛りをしている二人がいた。
「なかなかおいしい物が揃ってるわね」
 望美がどす黒い色をした酒を飲み干した。
「まだ何種類かあるぞ。全部まとめて頼むか。ついでに肉も」
 望美と相席しているオルフィナがメニューを見てから飲んでいない酒と肉料理を注文した。担当していた部屋がめちゃくちゃになってからずっとここで食べて飲んでいた。酒を飲んでいるのを見て望美も思わず参加したのだ。
「それいいね。せっかくだから全部飲まなきゃ」
 望美も飲む気で大量に注文するオルフィナを止めるような事はしなかった。
「望美、ほどほどに」
 剛太郎は酒を楽しむ望美に注意をする。
「大丈夫だよ、お兄ちゃん。今日は本当に楽しくて幸せだよ。宝物のせいかも」
 望美は笑いながら剛太郎に言った。多少、怖かったりもしたが剛太郎に甘える事も出来て見つけた宝物を目にして好きな酒を飲む事が出来て今日は満足。ジンクスは本当だったかもしれない。

「ご主人様、立派に看板犬の任務を果たしました」
 ポチの助は胸を張ってフレンディスに報告をした。
「ポチの助、お疲れ様です」
 フレンディスはポチの助を褒め、頭を撫でた。
「当然ですよ」
 ポチの助は嬉しそうに尻尾を振って喜んでいた。
「マスターもお疲れ様です」
 フレンディスは隣でぐったりしているベルクを労った。
「……あぁ」
 ベルクは頷くだけで精一杯。
「随分、お疲れの様子ね」
 近くに座っていた藍子がベルクに声をかけた。
「そうなんです。マスター、とてもすごかったんです」
 喋るのも疲れるという様子のベルクに代わってフレンディスが言った。
「何か食べたらどうかしら」
「そうですね。それなら」
 藍子の提案で疲れている時は甘い物という事でデカ盛りパフェを注文した。
 そんな時、東方妖怪伝奇録が横切り、フレンディスは声をかけた。
「あ、あなたは。助かりましたよ」
「君か、そっか。それじゃ」
 呼び止められた東方妖怪伝奇録はフレンディスに答えてから適当にまた歩き始めた。
 そして、注文したデカ盛りパフェがやって来た。
「……これを食べろと」
 目の前に置かれたデカ盛りパフェに言葉が止まった。
「マスター、疲れている時は甘い物です。これぐらい大きければあっという間に疲れも吹っ飛びます」
「……それはそうだが」
 確かに疲れた時には甘い物だが、限度がある。
「……はぁ」
 ため息をつきベルクはフレンディスのために食べ始めた。
「……かなり甘そうだし、大きいわね。名物かしら」
 藍子はベルクの食べる様子を見た後、周りを見回した。何気にちらほらとデカ盛りパフェを食べている人がいた。

「いただきます」
 木枯は丁寧に手を合わせてから料理を食べ始めた。食べ物への感謝をどんな時も忘れない。
「見た目はホラーだけど味は美味しいですよ」
 稲穂は美味しそうにホラー料理を食していた。
「受付係、お疲れ様です」
 稲穂が隣に座るチムチムに気付き、言葉をかけた。
「お疲れ様アル。宝物が見つかって良かったアルね」
 チムチムも二人を労った。
「それに二人も仲良くなりましたし」
「……喧嘩してるよ〜」
 稲穂が嬉しそうに言うが、木枯が軽く口喧嘩をしている兄妹を指差した。ルファンが仲介に入っていた。
「ですね。でも前よりは少しだけ関係が良くなったと」
 少し苦笑を浮かべる稲穂。
「宝物は何か幸せな気分になったよ〜。最初は何にも無くて心配したけどねぇ。二人から聞くと魔法が大好きだったからこっそり作っていたんじゃないかって」
 木枯は宝物を目にした時の感想を口にした。稲穂も同じらしくこくりと頷いていた。
「そうアルか」
 二人の話を聞いているチムチム。
「このように楽しくお喋りをしながら料理を食べるのも幸せですよね」
「幸せは近くにある事がほとんどアル」
 稲穂とチムチムは賑やかな喫茶店の様子を見回した。

「みんな俺を独りにして、悲鳴が聞こえるし怖いし」
 東雲は自分を置いて楽しんでいた仲間に文句を言った。
「東雲の苦手克服のためだよ」
「東雲、少しは克服出来たか?」
「……怖かっただけ」
 リキュカリアと三郎景虎の言葉に東雲は一言だけ。気絶までして克服も何も無い。
「我がエージェントよ、あの甘き物を克服の一つにしてはどうだ」
 ここでンガイはベルクが食べているパフェの方に顔を向けた。
「……あれって何かグログロしてるけど」
「うむ」
「シロ、興味があるんだね」
 同じようにデカ盛りパフェを見る東雲。そして猫姿でテーブルに座っているンガイに言った。
「……ホラーと甘い、二つを合わせているあれを食せば、苦手克服が出来るのではないか」
 ンガイは東雲の苦手克服のための独自の理論を口にした。
「……いや、それは」
「注文しておこう」
 東雲が何か言う前にンガイはさっさと注文してしまった。

「ホラーハッピーだよ。倒れてたけど、大丈夫?」
「……大丈夫。ありがとう」
 料理を持って来たイリアが東雲に訊ねた。東雲は答えつつデカ盛りパフェを受け取った。
「……これが“ぱふぇ”なる物か。なかなか壮観だな」
「ボクが応援するから頑張れ東雲」
「……甘っ」
 珍しげにパフェを見ている三郎景虎とリキュカリアの応援の中、東雲はパフェに挑んだ。
 そんな中、
「今日はお疲れ様。魔女、良かったよ」
 ローズがリキュカリアに労いに来た。
「楽しかったよー。お疲れー」
 リキュカリアもローズに答え、他の人に声をかけに言ったローズを見送った。

「みんな、今日は楽しかったかい? 僕はとても楽しかったよ」
「ニコ、お疲れ。良かったよ」
 子供達の霊に話しかけるニコにローズが話しかけた。
「それは良かったよ」
 そう言い、行ってしまうローズを見送った。
「君達がとても楽しんでいたようで僕はとても嬉しいよ」
 ニコは再び子供達の幽霊に話しかけた。

「お疲れ様」
 ローズはエッツェルにも労いの言葉をかけた。
「九条さんもお疲れ様です。無事に終わりましたね」
 同じようにエッツェルも労った。
「どうなるかと思ったけど。あの兄妹もそれなりに仲が戻ったみたいで」
「そうですね」
 二人揃って口喧嘩をしてルファンが仲介に入っている様子を眺めていた。

「楽しかったですね、スウェル!」
「……アンちゃん」
 アンドロマリウスはテンションが高いままスウェルに話しかけた。
「まだまだ、びっくりさせたいですっ」
 楽しみ足りないアンドロマリウスに近くを歩いていた東方妖怪伝奇録が話に入って来た。
「だよねー。青い顔して逃げて行くのって面白いよねー」

「あなたもお化け屋敷が好きなんですか」
 アンドロマリウスは楽しそうに東方妖怪伝奇録に言った。

「ワタシは悪戯が大好き♪」
 東方妖怪伝奇録はそう言い、べろりと大きい舌を出した一つ目小僧に姿を変えた。

「すごいですっ!」
 東方妖怪伝奇録の変身に手を叩くアンドロマリウス。
「……アンちゃん、楽しそう」
 スウェルは無表情のままアンドロマリウスに言った。
「面白いです。他には何か無いですかっ」
「……そうだねぇ」
 東方妖怪伝奇録はアンドロマリウスの言葉に次はどんな姿になろうかと考えるもぽつりとリクエストが入る。
「……かなり怖い猫又」
 猫が大好きなスウェルのリクエスト。
「ニャア!」
 爛々と光る目に鋭い歯と凶悪な猫顔に着物を着た尻尾が七つに割れた猫が現れた。
「わっ、びっくりですっ」
 アンドロマリウスは少しびっくりした。
「……怖くていい」
「アハハハ」
 スウェルは淡々と感想を口にし、東方妖怪伝奇録は笑いながら元の人の形に戻った。

「……これで最後ね。宝物も見つけて幸せな気分になったけど」
「……無事で何より」
 所々、親密になったと思われる場面はあれど、今の状況はハウスに入った時と変わりが無いように見えたが、ほんの少しだけ変わったようにも見えた。
「……宝物があんな形だったとは、二人をぱっと仲良くしてくれれば良かったのだが」
 必死に頑張ったエースは静かに息を吐いていた。

「今日はいい仕事をしたであります」
「これを今後の為に活かそう」
 仕事を終えて一息入れる吹雪とパラミタ侵略のための糧にしようと考えるイングラハム。
「お腹、空いたであります」
「うむ」
 二人の前には大量のホラー料理。

「お疲れ様。そんなに食べて大丈夫ですか?」
 たまたまやって来た博季がテーブルに並ぶ大量の料理に目を向け、心配そうに訊ねた。
「大丈夫であります。食べる事は活力を得る事であります」
 吹雪は、即答した。今回の仕事はそれなりに悪くない報酬金額で精一杯頑張ったのだ。そのため空腹になり、今はエネルギー充電中。

「でもそんなに食べたら……」
「動くために食べるであります」
 まだ心配する博季に答え、吹雪は食事を始めた。
「見た目はともかく味は悪くない」
 イングラハムが料理の感想を口にし、食事を続けた。

 ここで博季を発見したローズが声をかけた。
「あ、お疲れ様」
「お疲れ様です。なかなか大変でしたけど面白かったです」
 互いに労い合うローズと博季。
「そうだね」
「兄妹仲修復のきっかけを作る事が出来て本当に良かったです」
 博季はまさか自分がきっかけになるとは思わなかったが、良かったとは思っていた。
「宝物も見つける事が出来たそうだから本当に良かったね」
 ローズは博季の言葉に頷いてから行ってしまった。

「ようやく終わりましたね」
 エリザベータは一息ついた。
「たっぷりと楽しめたわ」
 セフィーは満足そうに今日の感想を口にした。
「せっかくですから一息入れましょうか」
「そうね。ちょっといいかしら」
 エリザベータの言葉でセフィーは近くにいたイリアを呼んだ。
「はーい。あ、ここからでもすごく悲鳴聞こえたよ」
 やって来たイリアはエリザベータに気付き、礼拝堂から聞こえた悲鳴の事を話した。
「不埒な者が多いですから」
 エリザベータの厳しい一言。
「そっかぁ。注文は?」
 頷き、注文を取る。
「……そうねぇ、あれは?」
 エリザベータは、所々に見えるデカ盛りパフェに興味を持ち、訊ねた。
「あれは、ホラーハッピーだよ。リクエストを受けてイリアが作ったスイーツ」
 イリアは少し自信満々に答えた。
「……」
「食べてみたらどう? 完食出来そうに無いからやめる?」
 デカ盛りパフェを食べている人を眺めているエリザベータの負けず嫌いを刺激するような事をセフィーが言った。
「……一つお願いします」
 セフィーに刺激されたエリザベータはデカ盛りパフェを頼んだ。
「あたしはお酒かな」
「……それは、もしかしたら無いかも」
 セフィーの注文に困るイリアは酒盛りをしているオルフィナと望美の方に顔を向けた。
「あぁ、オルフィナ。残っていたらでいいわ。適当に選んでちょうだい。あんたのような美少女が選んだ物ならどれも美味しいだろうから」
 セフィーもイリアが向いた方に顔を向け仕方無いと思い無理な事は言わず、妖しい笑みを浮かべながら注文した。
「……美少女なんて」
 セフィーの言葉に少し嬉しくなりながらイリアは厨房に行った。
 しばらくして注文した料理を持って来た。

「……なかなか見応え食べ応えが」
 デカ盛りパフェを目の前にエリザベータは感想を一言洩らしてから食べ始めた。何とか食べ切る事は出来た。
「……見た目はすさまじいけど味はなかなか」
 セフィーは酒を飲み、一息ついた。

「真一郎さんと今日一日、過ごせてルカすごく幸せだよ」
「俺も今日は満足な一日でしたよ」
 楽しくてたまらない雰囲気を周囲に振りまいているルカルカと真一郎。
 そこへもっと楽しくさせる物が到着した。
「チョコレートカーニバルじゃ」
 ルファンの言葉通り持って来た物はお菓子から飲み物まで全部チョコレートだった。
 ルファンは、スイーツをテーブルに置いてから厨房に戻った。
「わぁ、チョコ、チョコ♪」
 嬉しそうにチョコレートに喜ぶ。このスイーツはルカルカがリクエストしてシンが作った物だ。ちなみに名前を付けたのはイリア。
「本当にチョコが好きですね」
「うん。でも真一郎さんの方がもっと好きだよ」
 笑顔のルカルカを楽しそうに見ている真一郎にルカルカはにっこり笑いかけた。
 二人はこのまま二人だけの楽しい世界を形成していた。誰にも立ち入る事は出来なかった。

「シンちゃん、大丈夫だった? 気絶したとか聞いたけど」
 挨拶をしながらローズが向かったのは厨房だった。
「……聞いたのか。大丈夫だ。だからこうしてというか、シンちゃんって呼ぶんじぇねぇ!」
 シンは少しまいったなという顔をするも敏感に通称に反応する。それでも料理の手は動き続けている。『調理』を持つシンの動きは話をしていても衰えず、素晴らしい芸術品が生まれる。
「肉料理ばっかりだね」
 ローズは、出来上がる料理に声を上げた。
「肉料理の注文が多いんだ」
 とシン。注文者は主にオルフィナである。
「そう言えば、そのスイーツをよく見るけど」
 イリアが作り続けているスイーツが気になり訊ねた。
「これはイリアがリクエストを受けて作ったパフェ、ホラーハッピーだよ」
 イリアが嬉しそうに答えた。
「ボリュームがあるね」
「甘い物が好きな人に人気だよ」
 ローズの感想にイリアは少し自慢そう言った。
「あ、ダーリン。お帰り!」
 そんな時、料理を運び終えたルファンが帰って来た。
「大繁盛だのぅ」
 忙しい厨房を眺めながら言った。
「……大変そうだから手伝おうか」
 ローズは少しでも人手があった方が良いだろうと訊ねた。
「いや、手伝いなんかいらないからこれでも食べながら適当に座ってろ」
 そう言っていつの間にか作ったお菓子を二人分用意していた。

「お菓子?」
「わしもかのぅ」
 どういう事かを問うローズとまさか自分の分まで用意されているとは思わなかったルファン。

「このおいしい飲み物もどうぞ。二人共、ゆっくり休んでて」
 飲み物はイリアが用意。
「ありがとう」
「大丈夫かのぅ」
 二人に礼を言うローズとルファン。

「大丈夫だよ、ダーリンにたくさん手伝って貰ったから」
 イリアはにこにこして追い出した。
「……い、いいから。さっさと行けよ」
 シンはお礼を言われて少し言葉を詰まらせていた。

「……休ませてもらおうかのぅ」
「そうだね。あの二人喧嘩してたみたいだけど大丈夫みたいだね」
「……何かと言いながらも互いに気になっていたようだからのぅ」
 仕方無く二人はお菓子と飲み物を持って厨房の外へ出てほんの少し話をしてからそれぞれ適当な席に座って一休みをした。
 客も驚かし役もその他のスタッフ達も食べて飲んでお喋りをして何時間も楽しんだ。

 今回の事がきっかけとなり、ホラーハウスは客を少しずつ取り戻し、働きたいという新人や辞職したスタッフ達が少しずつ戻って来た。
 ユルナは、ルファンの言葉もあってかホラーハウスとして出来る事を探し、尽力した。ヤエトは社員との付き合い方を改め、亡き父に対しての思いも少しは軟化した。二人共、何とか一番大変な所は乗り切り、少しずつ良くなり始めていた。
 兄妹は多少、相手に対して気持ちが軟化したようで互いに協力をするようになった。
 しかし、喧嘩をするのは相変わらずだったが、そこには信頼があった。


 散々楽しんだ後の帰り道。

「宝物すごかったね。何か幸せな気分になって」
「そうですね。二人を助ける事も出来て本当に良かったです」
 今日の感想を口にするノーンと舞花。

「……おにーちゃん達にも今日の事教えてあげようよ」
 ふと、ノーンは思いつき、携帯電話を取り出した。
「そうですね」
 舞花も頷いた。
 ノーンはホラーハウスでの写真回収や宝物の事や喫茶店で食べたお菓子の事をメールで送った。デカ盛りパフェは写真付きで転送。

 しばらくして、

『メールを拝見しました。2人とも良い体験をしましたね』

 と、二人の元に返事が返って来た。

「……ふぅ」

 九十九は帰宅後、パソコンを立ち上げ、

『最高のホラー故、喉をたっぷり潤して挑むべし!』
『デカ盛りパフェ、ホラーハッピーは甘党も大満足!』

 と、ホラーハウスについてネットに書き込んだ。その内容は好評価だった。

 最後に

『一度はお試しあれ』

 と書き込んだ。

担当マスターより

▼担当マスター

夜月天音

▼マスターコメント

 今回のシナリオ担当の夜月天音です。
 参加者の皆様、本当にお疲れ様でした。

 ホラーで素敵なアクションをありがとうございました。
 カップル参加でラブラブしたり、ひたすらにホラーを楽しんだり、宝物探しやスタッフとして活躍したりユルナとヤエトの仲良し大作戦と立て続けに大忙しとなりました。
 しかも作戦成功と思いきや打ち上げで兄妹喧嘩、二人にとっては長年染みついた習慣なのできっと大丈夫です。
 宝物は無くなりましたが、新たな名物がホラーハウスを盛り上げる事でしょう。
 ただ、兄妹は大一番を乗り切ったばかりなので今後どうなる事やらですが。

 最後に、どれだけホラーを表現出来ているか不安でたまりませんが、少しでも楽しんで頂ければ幸いです。