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桜封比翼・ツバサとジュナ 第一話~これが私の出会い~

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桜封比翼・ツバサとジュナ 第一話~これが私の出会い~

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■追われる片翼
「もう、なんだっていうのよーー!!」
 夕暮れの空京に、天翔 翼の叫び声が響く。……彼女は今、謎を帯びたツタの化け物の執拗な追跡から逃亡している真っ只中である。
 当然、このような騒ぎになれば気づく者も多々あった。しかし一般人にはツタの化け物は恐怖の対象でしかなく、簡単に近づくことはできずにいる。
 ……だが、翼のその疾走は新たな出会いの幕開けでもあった。

 ――空京の一角。そこを歩いていたルーシェリア・クレセント(るーしぇりあ・くれせんと)の目の前を、一人の女性……翼が駆け抜けていく。その勢いによって思わず尻餅をついてしまった。
「もう、いったいなんなんですかぁ……わぁっ!?」
 立ち上がろうとするルーシェリアだったが、翼を追跡中のツタの化け物がこちらへやってくるのに気づく。そして、そのツタの化け物はルーシェリアを障害物とみなしたのか、腕からツタを伸ばしてルーシェリアに攻撃を仕掛けてきた。
 突然の攻撃にまたしても驚くルーシェリア。しかし、ツタの攻撃を何とか回避すると、すぐさま『ヴォルテックファイア』で反撃し、翼が逃げていった方向と同じ方向へと追走する。
 少し距離が開いてはいたのだが、そこは契約者。一般人とは桁の外れた身体能力を見せ、すぐに翼に追いついていく。
「わっ!? ええと……あなた、誰?」
「通りすがりの契約者、といったところですぅ。ところで、どうしてあの化け物に追われてるんですかぁ?」
 翼と並走しながら、事情を聞いていくルーシェリアだったが、どうやら翼にもなぜ追いかけられているのかわからないらしい。ともかく、今は化け物の数を減らしながら逃げ回るしかない、とルーシェリアは『ヴォルテックファイア』で攻撃しながら逃走を続けるのだが……。
「……全然化け物の数が減らないですぅ。むしろ、少しずつ増えてるような……」
 それもそのはず。燃やされ、絶命する寸前にツタの化け物は種を放出し、その種が超成長して新たな化け物を生み出しているため、結果的に絶対数が増えてきているのだ。
 種の処理を行わずに攻撃しているためにこのような現状になっているとも知らず、ひたすらルーシェリアは攻撃をしながら二人で逃げ回る。体力勝負になりそうですぅ……とルーシェリアが呟こうとしたその時、翼は誰かとぶつかってしまったようだ。
「あ、ごめんなさ――」
「ぬあぁぁぁぁっ!!! か、菓子がぁぁぁぁぁ!?」
 ……翼がぶつかった相手、夜刀神 甚五郎(やとがみ・じんごろう)は叫んだ。つい数秒前まで持っていた、地球から取り寄せた高級茶菓子『菊扇』や高級羊羹『富士雫』が手から滑り落ち、コンクリートに不時着してその美麗な形が崩れてしまったからだった。
「これって……弁償しないと、だめよね?」
 思わず足を止め、そう問いかけてしまう翼。性格的に、見過ごせなかったようだ。
「できることならそうしてもらいたいのだが……どうやら、そちらにも事情がありそうだな。端的でいいから聞かせてもらえるとありがたい」
 甚五郎の言葉を聞き、すぐさま事情を話す翼。そうこうしている間にも、ツタの化け物との距離は徐々に縮まっていく。
「――なるほどな。よぉし、細かい話は後だ! とりあえずはこのツタ共を叩きのめす!」
 事情を汲んでくれたのか、甚五郎は共に行動していた草薙 羽純(くさなぎ・はすみ)ホリイ・パワーズ(ほりい・ぱわーず)ブリジット・コイル(ぶりじっと・こいる)らと一緒にツタの化け物の前へ立ちはだかる。
「ここは私たちに任せて、早く逃げてください!」
 ホリイの言葉に頷き、翼とルーシェリアはこの場を甚五郎たちに任せ、離れていく。ツタの化け物たちもそれを追おうとするのだが、甚五郎たちがそれを遮る。
「ここから先は通さん……いくぞぉぉぉぉぉ!!」
「妾の怒りを思い知れぇぇぇぇ!!」
 甚五郎と草薙はそれぞれ武器を握りしめると、鬼気迫る勢いでツタの化け物の群れへ攻撃を仕掛けていく。その形相はまさに鬼に近い。
「……食べ物の恨み、というやつですか。恐ろしいものですね……しかし、このままだとこちらが不利になると思います。この場を一掃する手段として、当機ブリジットの自爆を提案します」
「それでもいいと思いますが……周囲の建物とかにも影響が出ますし、自爆はしない方向でお願いします」
 自爆を提案するブリジットだったが、ホリイによってその承認は出なかった。仕方なく、ブリジットは空中から《機晶姫用レールガン》による掃射で援護していくのであった。


 ――無事にその場から逃げることに成功した翼だったが、ルーシェリアとはぐれてしまう。このままだと体がもたないと考え、少しでも体力を回復させようと、翼は目に見えた公園に寄り、休んでいくことにした。
「はぁ、はぁ……えーと、確か最初は十五匹くらいだったけど、今はその数倍になってるような……」
 追い込まれると多数の種を放出し、同じ化け物を作り出す――そんな一から多を生み出すという化け物の特性によって、ツタの化け物の数は当初の数倍に膨れ上がっている。今までの傾向から見るに、生み出されたほうの化け物……分身体の戦闘力は大したことないようだが、その分身体もまた本体と同じように追い込まれると種を生み出す性質を持っているため、対策を練らないことには全てを片付けきれそうになかった。
「あれ、さっきのクレープ屋の店員か? やたらと疲れてるみたいだけど……」
 と、そこへ声をかけてきたのは矢雷 風翔(やらい・ふしょう)。その横にはパートナーの小野寺 裕香(おのでら・ゆうか)もいる。どうやら、先ほどこの二人は『天使の羽』でクレープを買った帰りのようだった。
「あ……えっと、確か私がレジしてた時のお客さん……だよね。実はちょっと今、変なのに追われてて……」
「変なのに……ですか?」
 どういうわけなんだ、と首を傾げる風翔と裕香。だが、その言葉の意味を二人はすぐ知ることとなる。
「――おい、なんだあのウネウネしてるツタ人間みたいなの」
「嘘っ……もう追いついてきたの!?」
 風翔の言葉で翼はすぐに後ろを振り向くと……そこには複数のツタの化け物がいた。どうやら、甚五郎たちが抑えているのとは別な個体のようだ。
「あれ、明らかに店員を狙ってるように見えるんだけど……ありゃなんなんだ!?」
「私にもわからない。ただ、私を襲おうとしてるってのはわかるんだけど――とにかく逃げないと!」
 翼にもわからぬ、謎の化け物。戦える力を持たない今の翼には、逃げる選択肢しか残されていない。風翔は面倒だから見捨てて逃げ出そう……とも考えたのだが、裕香の表情がすでに人助けモードになっているのに気づく。
(あ、これ見捨てたら裕香に殺されるな……)
 すぐにそう悟った風翔。仕方なく、翼と共に逃げる選択肢を選ぶこととなった。ひとまず風翔は裕香へ上空に飛んでもらい、逃走できそうなルートと隠れれる場所を見つけてもらうよう指示を出す。
 守護天使の翼を広げ、上空へ舞い上がる裕香。だがツタの化け物にはそれが自身への攻撃行為に見えたのだろう、翼と裕香に向かってツタを伸ばし、攻撃しようとする!
「――させねぇっ!」
 だが、そんな翼たちのピンチを救うべく、ツタの化け物を後ろから斬り裂いた一人の影が。その影の名は、瀬乃 和深(せの・かずみ)。その横にはパートナーであるアルフェリカ・エテールネ(あるふぇりか・えてーるね)の姿もある。
「こやつはわしらに任せ、この場から離れよ!」
 攻撃されたにも関わらず、翼へツタを伸ばす化け物の相手をする和深に視線を送りながら、アルフェリカは翼たちを逃がすことを優先に考えたのか、逃げるよう促す。
「店員さん、風翔さん! こっちのほうから逃げれそうです!」
 同時に、裕香も逃走ルートを確認し終えたようだ。今はその言葉に従って、翼たちは化け物のいる方向とは逆の方向へ逃走を開始する。アルフェリカはそれを見届けると、すぐに和深の援護に回るべく、化け物へ『氷術』を使い、氷の力で動きを鈍らせていく。
 その援護を受けながら、ツタや本体を『魔障覆滅』で切り払う和深。絶命寸前に吐かれた種によって複数の分身体がその姿を見せるが、和深は『朱の飛沫』を使って分身体全てを燃やしていった。
「アルフィ、種を狙ってくれ!」
「わかった!」
 種をどうにかしなければ、と踏んだ和深はアルフェリカへ声をかけると、すぐさまアルフェリカが『我は科す永劫の咎』を発芽前の種へ使い、種を石化させる。種は複数のため、和深が『朱の飛沫』を駆使して焼き払ってもいった。
「――よし、片付いた! これであの子にカッコいいところを見せれた……!」
 化け物退治がひと段落つき、カッコいいところを見せることができた、と意気揚々の和深。翼がいた場所を振り返ると……そこに翼たちの姿はなかった。
「って、あれ。いないんだが……アルフィ、あの子たちは?」
「一般人を巻き込むわけにもいかなかったからな、先ほどの戦闘中にわしが逃がしてやった。他の契約者と一緒だったから、すぐには捕まらぬだろうな」
「……マジですかい」
 ……息巻いた結果が空回り。和深は愕然とするほかなかったとか。
(にしても、あの化け物……いったいなんだったのか。なんにせよあの娘たちが無事に逃げおおせるとよいのだが……)
 翼たちの走り去っていった方向を見ながら、アルフェリカはそう考えを過ぎらせていた。


 ――公園から離れていった翼たちは、上空からルートの確認をする裕香に従いつつ、逃走を続けていた。その逃走の間に、三人はそれぞれ自己紹介を交し合っていく。
 隠れられる場所があればそこへ隠れ、風翔が『禁猟区』を使って周囲を警戒。見つかりそうになった時はすぐに逃げ、再びどこかに隠れる……ということを繰り返し、何とか振り切ろうとする。
 しかし、神出鬼没であるツタの化け物たちには効果が薄かったらしく……翼が逃げた先にて再び待ち構えていたツタの化け物によって再び囲まれた状態となり、今度は隙を見て逃げれそうにもなさそうだった。
「もう本当、なんだっていうの……!」
 隠れながらの逃走ではあったが、体力もそれなりに消耗している中でこの包囲網はきつく感じてしまう。どうしたものか――そう思った時。
「ちょっと待ったああぁぁぁぁぁぁっ!!」
 近くにあった家屋の屋根から、勢いよく一人の男子――猪川 勇平(いがわ・ゆうへい)が飛び出してくる。そのまま綺麗に翼たちとツタの化け物の間に着地すると、武器の切っ先を化け物へと向け、立ちふさがった。
「悪いがこの子にはツタ一本触れさせやしねぇ! ――二人とも、そっちは任せた! そっちの二人は俺のほうを手伝ってくれ!」
 勇平からの要請に、面倒そうな心境になってしまう風翔。しかし、裕香は率先的に手伝おうとする様を見て、致し方なしに《翼の剣》を握り、勇平の横に並ぶ。
「はぁ、また面倒事に巻き込まれた……めんどくせぇ――けどまぁ、しゃあない。やるか」
「翼さんは必ずお守りします! だから風翔さん、気合入れていきましょう!」
 逃走を共にした二人の背中を見つめる翼。と、その時――。
「まったく、勇平君は無茶ばっかり……わかりましたわ!」
「無茶に加え無謀ばかりともいえよう。わらわは魔道書だというのに……。だが、人命には代えられぬか――仕方あるまい、さっさと終わらせるしかなかろう」
「そうですわね――では、参りましょうか」
 勇平のいる方向とは逆の道より駆け寄ってきたウイシア・レイニア(ういしあ・れいにあ)魔導書 『複韻魔書』(まどうしょ・ふくいんましょ)は、勇平の無理・無茶・無謀さに呆れながらも勇平からの言葉に頷く。
 複韻魔書の盾となるようにウイシアが前に立つと、その手に持つおおよそ少女が持つべきものではないであろう巨大槌、《爆砕槌》を軽々と振り、化け物たちへ鉄槌を下していく。その様はまさに破壊の天使ともいえよう。少なくとも、翼にはそう見えていた。
 《爆砕槌》が直撃すると、そこから出でる爆発と振動がツタの化け物たちに襲いかかる。これほどの一撃に、化け物たちはすぐに種を放出しようと身構え始めていく……!
「させぬよ。その種から分身体を生み出すことは、すでにわらわの知識に記録されておる――!」
 しかし種の放出よりも先に、複韻魔書が『凍てつく炎』と『ファイアストーム』で先制を仕掛ける。燃える豪炎と氷結がツタの化け物たちに襲いかかり、分身体の種を凍らし、燃やし尽くす。……だが、魔道書である複韻魔書にとって火は最大の弱点である。火の気を少しでも避けるため、複韻魔書はウイシアの後ろに隠れつつ攻撃をおこなっていく。
(とはいえ、ウイシアの《爆砕槌》から起こる爆発も火の気たっぷり……少し離れたほうがいいかもしれぬな)
 そんなことを考える複韻魔書。……そうこうしている内に、逃走できるほどの道が開けたようだ。すぐさまウイシアが翼へ声をかける。
「この騒動を聞きつけて、おそらく他の契約者たちも救援に来てくれるはず。このまま真っ直ぐ突っ切ってください、ここは私たちや勇平君たちが何とかしますわ!」
「……面倒くさいが、俺も頃合いを見て何とかする。だから俺らは気にするな……行け」
「――う、うん!」
 ウイシアたちからの言葉を受け、包囲の穴を一気に突っ切り、逃走を図る翼。本当ならば自分も何とかしたいところではあるのだが、自分にできることはその場から逃げることくらい……それを、本能で悟っているようであった。
 それを見たツタの化け物たちは勇平たちを無視して翼を追いかけようとするが、勇平が『煉獄斬』『絶零斬』で周囲を攻撃してそれらを一掃していく。取りこぼした化け物はそのまま無視し、ウイシアたちや他に控える契約者たちに任せる算段のようだ。
「ここを通りたければ好きにすればいいさ。だけどな――通行料はきっちりいただいていくぜ?」
 すでに周囲は炎と氷で彩られている。ピンチになった化け物が種を放出しようとするものの、それは勇平の攻撃によって妨げられていく。
「いくら増殖するっていっても、燃やされたり凍らされたりしたら増殖できねぇだろ?」
 再び武器を構え、周囲の化け物たちを一掃する勇平たち。だが、すでに何匹かはこの防衛線を抜けて翼に追いつこうとしていた。
「はぁ……はぁ……!!」
 息が絶え絶えになりながらも、振り切ろうとする翼。しかし、その翼へ化け物たちのツタが襲いかかろうとする――!!
「前へ跳べっ!!」
「!?」
 突如響く柊 恭也(ひいらぎ・きょうや)の大声。翼はそれに従い、前方へ思い切り飛び込んでいくと……瞬間、ツタの化け物たちへ高機動型戦車 ドーラ(こうきどうがたせんしゃ・どーら)が放った《六連ミサイルポッド》二基と、《44口径機晶滑腔砲》から放たれた焼夷弾による大爆撃が襲う。周辺の被害を考えていたドーラであったが、幸いにも人気や燃えるような物が少ない地域だったため、難しい心配はせずともよかったようだ。
「目標さらに捕捉、迎撃続行であります!」
 続いてやってきた第二陣へも容赦ない爆撃を繰り出していくドーラ。しかし当然生き残りも出てくるわけだが、そこは恭也が《レーザーガトリング》《マシンピストル》《アマゾネス》による高火力弾幕で確実に仕留めていく。
「そのままこっちへ走って抜けていけ! ここの化け物は俺たちが引き受ける!」
 起き上がった翼は、すぐさま恭也の言葉の通りにさらに逃走を続ける。だいぶ疲労は溜まってきているようだが、まだ走れなくはない。
「やる気のある教導団も動き出してるはずだ、そいつらに保護してもらえ! いいな!」
「う、うん!」
 どうやら、この騒動に教導団も動き出してきているようだ。翼のやるべきことが固まり、無限の逃亡劇にならずに済みそうとわかったからか、翼の疲れも少しは吹き飛んだようだ。翼は恭也たちにお礼を述べると、すぐさまその場を後にして教導団の人間を探し始めることにしたのであった。