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想いを取り戻せ!

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想いを取り戻せ!

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    4. フォーメションX  〜 その美人+α 取り扱い注意につき 〜 
 
 ――フォン
 画面が揺れた。
 並走する荷馬車といかにも追剥でございますという風体の集団。
 両者が今まさにぶつかろうとしている映像がポップアップされ、少し遅れて音声が入る。
『…こ…こちら……陽動部隊。目標を発見――作戦に移行……する』
 声は“データリンクシステム”の立役者・和輝のものだ。
 ノイズが混じっているのは情報撹乱を狙ったマールの通信妨害のせいだろう。
 だが、待ちかねていた報には違いない。ようやく襲撃部隊が動く時が来たのだ。
「待ちくたびれるかと思ったわ」
 束ねた金の髪を揺らしてセイニィが身を起こす。
 身軽さが売りのこの少女に待つことは似合わない。
「レッドアームズだか何だか知らないけど、さっさと片付けるよ!」
 返事も待たずに歩き出そうとするセイニィの横合いから、すっと手が差し出された。
 チッチッチッ――人差し指が威嚇するように、牽制するように左右に揺れる。
 それに気付いたセイニィの顔がゲッと引き攣る。
 手の主は事あるごとにセイニィに突っかかっているシルフィスティ・ロスヴァイセ(しるふぃすてぃ・ろすう゛ぁいせ)だった。
「――あッ、あんた!? な、何よ。今日は何よ!?」 
 指に噛み付つかれただのないことあらぬことで騒ぎ立てられるわ、ネコ娘だのトド娘だの呼ばれるわ。
 何かにつけては一方的に勝負を挑まれるのだから
(まぁ、セイニィくんの態度も仕方ないわよねぇ)
 我がパートナーながら困ったものだ。
 そう一人納得しながら、リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)は目の前の光景をのんびりと眺める。
 傍目にどう映ろうとリカインにとってはいつものことだ。止めるタイミングは十分に心得ている。
「…………」
「な、何よぉ?」
「……フィスが先に行くわ」
 思いもよらぬ一言にセイニィの、リカインの目が丸くなった。
 
   * * * 
 
「だって、内部のことは結局わからないんでしょ。なら、誰かが様子見てきてからの方がいいわ」
「それに関しては申し訳ないな。レディに危険な真似をさせてしまうとはなんとも不甲斐ない」
「――返す言葉がないね。力を過信した私のミスだ。役に立てずすまない」
 パートナーの《サイコメトリ》を使い、中の様子を探ろうとしていたエースが申し訳なさそうに頭を下げる。
 その隣では件のパートナーが居心地悪そうに視線を泳がせていた。
 あてが外れたせいで珍しく殊勝だ。
「まー抜け道があるのと、入ってすぐが車庫状態ってことがわかっただけでもめっけもんじゃない?」
 セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)が口を挟む。
 その手元では、銃型HCが洞窟内の地図を読み込んでいる。
「入ってすぐは確かに広いみたいね。そこから三叉路。それ以外にも小さな横穴があるわ」
 読み込んだそれをセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)がざっくりと説明する。
「ん。セレアナ、主だったルートをマーキング。横穴にフラッグつけて」
 頷き、パネルを叩けば、三つに分かれた道筋と無数にある横穴が浮かび上がる。
 それが全員の端末へと転送される。
 野盗たちが中をどう使っているかまではわからなくても、地形の情報は重要だ。
 そこが相手のホームグランドであるならなおのこと。
 相手が地の利を利用するなら、そこを逆手にとる必要がある。
「――向こうがあたしたちを待ちかえるならポイントC3、D3。
 逆を言えば、そこをクリアすれば地の利は五分五分かな」
 セレアナのつけたフラッグと色の違うそれを追加してセレンフィリティは顔を上げた。
「……誘い込むならEエリアの横穴だね。あたしも一緒に先行するわ。いいでしょ? セレアナ」
「ええ。セレン」
「あたしとセレアナなら、馬鹿な連中を釣る餌には十分でしょう」
 ねぇ?と茶色のツインテールを掻き上げながらセレンフィリティは傍らのパートナーにしな垂れかかった。
 並ぶ二人は極上の美女だ。
 しかも、その肢体を包むのはトライアングルビキニ。かたやレオタード。
 そんな恰好で野盗の巣へ飛び込もうとは正気の沙汰ではない。
 いや、そもそもそんな姿で往来を闊歩しているのも問題といえば問題なのだが。
 それはひとまず棚の上にあげておく。
「……確かに敵の目を引き付ける効果は十分であります」
 目のやり場に困り、とうとう話し合いの輪から外れた真面目そうな守護天使と入れ替わるように短く刈り上げた頭が進み出た。
 大洞 剛太郎(おおほら・ごうたろう)だ。
 こちらは視線をしっかりと美女二人に据えて口を開く。
 据え膳食わぬとまではいかないが、あるものはしっかり堪能する性質なのかもしれない。
 だが、それもホログラム画面にタッチして、画像を切り替えるまでの話だ。
 目の保養の後はしっかりと仕事。
 パラミタにある警備会社にも籍を置いている剛太郎にしてみれば、ツァンダ家当主代行からの依頼と合わせて二重の任務だ。
「ひとまず先行部隊がポイントC3から突入。敵を引き付けたまま二手に分かれる作戦では?」
 剛太郎の申し出にセレンフィリティが頷く。
「ふぅん。あたしたちがEエリアの横穴に誘い込むのね。いいんじゃない?」
「でも、D3に潜伏されていたら? 挟撃は避けるべきだわ」
「そこはそれこそ、フィスがいくわ。ヴァルキリーの能力の高さを教えてあげる」
「自分もサポートするであります。先行部隊の役割は相手を引き付け、かつ戦力分散、低下であります」
 と、そこにもう一つ明るい声が加わった。
「銀河の平和も一歩から! 愛のピンクレンズマン参上♪」
 陽の光を受けたレンズが光り、ピンクの髪が揺れる。
 知る人ぞ知る、銀河パトロール略して銀パトの月美 あゆみ(つきみ・あゆみ)だ。
 悪があるところに正義あり。
 人の心と銀河の平和を守るため――いや、今回に限り、少女の手紙を取り戻すためにレンズの光に導かれ見参である。
「挟撃や伏兵はあゆみにお任せ☆ 道を塞ぐ悪を排除するのもレンズマンの使命のうちよ」
「じゃ、先行部隊はこれくらいね」
 人数が増えすぎれば機動性が落ちると言わんばかりにセレンフィリティが話を切り上げた。