リアクション
■湯に咲くガールズトーク
――カルベラが去った後、真人からの情報によって“桜の精”と呼称されることになったツタの化け物たちは自然消滅した。カルベラが操っていたそれは、元から囮として使われたのではないだろうか……という意見でまとまった。
同じく、囮として利用されていた空賊団『黒鴉組』は生存者全員を逮捕。そのまま警察へ引き渡されることとなった。今回の事件で部下の大部分を失ったバリィは、事情聴取にて『黒鴉組』の解散を口にしていたとか。
輸送飛空艇のほうも、“鍵の欠片”が使われていた飾り剣一本と、爆破による船体への大きな横穴の被害を覗けば、損害は軽微だった。動力部の修理も計器担当の北都や実際の修理担当であったダリルやロアのおかげで無事完了。船体の修繕が終わった後、輸送飛空艇は無事に飛び立つことができた。
『輸送飛空艇の護衛』自体は成功に近かったものの、女トレジャーハンター・カルベラによる空賊団と桜の精を囮とした大胆不敵な“鍵の欠片”強奪作戦によって翼のペンダントを含む、全ての“鍵の欠片”は奪われてしまった。そのショックからか、翼は意気消沈したままである。
……以上が、今回の輸送飛空艇護衛任務の事の顛末となった。
――温泉旅館・澪都屋。その女湯、露天風呂。
旅館にて待機していた契約者たち(ゆかり、マリエッタ、咲耶、アルテミス)が露天風呂で起こったという騒動を解決し、露天風呂をきちんときれいに掃除した……ということで、護衛任務から戻ってきた女性陣は露天風呂を堪能していた。ちなみに男性陣も思い思いに露天風呂を楽しんでいるのだが、そこは割愛する。
「…………」
樹菜に誘われ、露天風呂に浸かっている翼であったが、“鍵の欠片”のことを考えているのか、しょんぼりとしている。その様子に、女性陣は話しかけることができずにいた。
「翼は……悪くなかったよ。悪いのはあのカルベラ……樹菜の命を盾にするなんて、最低すぎる」
「……うん」
ルカルカが思い切って話しかけるも、翼の反応は薄かった。会話が続かず、またしても露天風呂は静寂に包まれてしまった。
――それから、しばらくたった頃だろうか。静寂に耐えかねたのか、翼はポツリポツリと言葉を吐き出し始める……。
「……あのペンダントね、私がまだ小さい頃に両親からプレゼントしてもらったんだけど……両親が宝くじで大金を当てて、それで空京旅行に来た時に買ってもらった物なんだ。当時って空京旅行って珍しくて、それに加えて普段仕事で忙しかった両親からの珍しいプレゼントだったから、このパラミタと家族をいつでも想える大事な物だった。でも、旅行から帰ってきてすぐに両親は事故で死んじゃって……親戚とかの当てがなかったから、私は施設に引き取られて……でも、そこじゃ私ずっとふさぎ込んでて……」
ペンダントにこめた想いを吐露していく内に、次第に感情が抑えきれなくなり瞳に涙を浮かべる翼。だが泣くのは我慢し続けているようだ。
「それで……ひっく……それで……」
「――翼、もう……いいんですよ」
そこへ、そっと翼を抱きしめる樹菜。樹菜は何も言わずに翼を抱きとめたまま、その感情を享受していく。その雰囲気は、一瞬聖母のようにも見えなくはなかった。
「ひくっ……うああああああああ……!!」
ついに我慢できず、樹菜の胸の中で大泣きする翼。それからしばらく、翼が落ち着くまでの間樹菜はただ静かに翼を受け入れていたのだった……。
「――翼ちゃん、落ち着いた?」
歌菜が翼にそう尋ねると、散々泣いて気持ちの整理がついたのか力強い頷きが返ってきた。
「もう大丈夫、ごめんねみんな心配かけて。いっぱい泣いたら、だいぶ落ち着いたかも」
「それはよかった……それで、翼。それにみなさんにも聞いてほしいことがあるんです」
樹菜はそう言うと、数度ほど息を整えて話を始める。それは……“鍵の欠片”に関することだった。
「“鍵の欠片”なのですが……あれは三つ揃っても、すぐに封印を開閉できるものではありません」
「というと……どういうことなのだ?」
樹菜の話に興味のあるダンタリオンの書がそう尋ねると、樹菜は言葉を続けていく。
「以前にも言ったと思うのですが、“鍵の欠片”を扱えるのは仙道院家の血筋を持つ女子のみです。欠片の気配を感じ取ること、そして欠片自体の力を扱えるのは今現在では私だけ。なので、“鍵の欠片”を奪われたとしても私がいなければ封印を解くことはできないでしょう」
「え、そ、そうなの……?」
翼のきょとんとした言葉に、樹菜はええ、と優しく頷く。
「――だったら、カルベラを見つけて捕まえちゃえば“鍵の欠片”は翼たちの手元へと戻ってくるわけね! よっし、そうなったら後で国軍のほうに連絡入れて指名手配の手続き取らなくちゃ!」
まだ焦る必要はない。樹菜の出したその結論は皆を活気づけるにはちょうどいい材料になったようだ。特にルカルカは苦渋を強いられさせられた恨みがあるのか、一番気合を入れている。
「旅行が終わったらカルベラさんを探しにいかなくてはなりませんが……それまでは、旅行をゆっくりと楽しみましょう」
「それもそうだね。……ねぇ、翼ちゃんと樹菜ちゃんの好きな男性のタイプって誰なの?」
「あ、それルカも聞いてみたい!」
今は身体をゆっくり休め、旅行後に頑張ろう。その意見が一致したことで、柔らかくなった露天風呂の雰囲気はガールズトークが咲き乱れることとなる。それからしばらくの間、翼と樹菜は女性陣から色々と質問攻めにあうのであった。
――仙道院家。どの部屋にも明かりがついておらず、当主が雑務を行う部屋の中のみにわずかなロウソクの火が灯っているだけだった。そして、今その部屋の中には二つの人影があった。
一つは仙道院家現当主・仙道院 雷同。そしてもう一つは――カルベラ・マーソン。“鍵の欠片”を奪い取った犯人だ。
「欠片は揃った……後は樹菜の血だけ……」
雷同の瞳には今や光が失われていた。そして、その額には……桜の種と思しき種子が脈動を打ち、宿主を完全に支配している。
「樹菜の血は――ここにあるわよ」
カルベラはそう言うと、懐からクナイを取り出す。そのクナイにはわずかながら、樹菜の血が付着していた。……そう、この血液は樹菜を人質に取った時に付いた物である。
……そのクナイを見て、雷同だったモノは歓喜のうめきを上げる。そして、深層意識下で傀儡にしているカルベラへ、次の指令を下したのだった……!
「――儀式。儀式の準備を……! 封印を解き、今こそ、この世を――破壊する……!」
こんにちは、もしくは初めまして。柑橘類系マスター・秋みかんです。
今回もたくさんのご参加、ありがとうございます。なかなか書き応えがありました。
なんだかんだとやりながら、次回への布石を打てたかなーと思います。次で最終話ですが、ぜひともご参加してくださると嬉しいです。
今回も称号があったりなかったりします。お楽しみに。
それでは、次の作品でもお会いできることを祈りつつ――。
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■次回予告
全校交流旅行が終わり、“鍵の欠片”奪還を決意する翼と樹菜。
しかし、旅行から戻ってきた二人の前に立ちはだかったのは、桜の根に侵蝕された仙道院家だった!
支配される直前に書いた雷同の手紙とは? そして立ちふさがるカルベラは!
契約者たちは決断を迫られる。『封印』か、『浄化』か。はたまた『滅却』か。
二人が取る行動とは――。
次回、桜封比翼・ツバサとジュナ 最終話〜これが私の絆〜