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【第二話】激闘! ツァンダ上空

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【第二話】激闘! ツァンダ上空

リアクション

『煉っ! エヴァっ!』
 地表に落下していった二人を見ながら垂は叫び声を上げる。彼女と同じく、これ以上誰かが傷つくのに耐えかねたのか、ティーは一斉送信でマルコキアスから残る敵機すべてへと通信を入れる。
『……前に来た人たちは、皆々、自爆してしまいました。貴方は、そこに居るなら、そんな風に簡単に居なくなろうとしないで……』
 しかしそれでも敵機は何ら気にした風もなく武器を構え、背部の飛行ユニットをからエネルギーを噴射してそれに答える。
 それでもパイロットとのやり取りらしきものはほとんど成立していなかった前回とは違い、今回は相手との会話が一応は成立しているのだ。それを考えた鉄心はティーが悲しげに目を伏せたのを見て取ると、彼女に代わって口を開き、敵に揺さぶりをかける。
『戦争屋に玩具扱いされて、それで満足か?』
 敵機に向けて語りかけながら鉄心は胸中に独白していた。
(己のエゴのために平気で人を踏みにじれるクズなら嫌と言うほど見てきた……人殺しは皆、俺も含めてクズだが。禽竜の件といい、前回の不要な犠牲といい、人を弄ぶ悪趣味なやり方からは腐りきったクズの匂いしかしてこない)
 独白しながら考えを巡らせていると、ややあって敵機から通信が返ってくる。声の後ろでアップテンポの曲流れているのから考えるに、残る二機のうち通信を返してきたのは漆黒の機体の方らしい。
『戦争屋? 確かにそういう言い方もできるかもな……でもよ、お前らの組織――私利私欲にまみれた狂人どもの巣窟に比べればよっぽどマシな組織だとは思うね』
 その返事に眉をひそめた鉄心は警戒しながら聞き返す。
『どういうことだ?』
 すると敵機のパイロットは意外にも会話に応じてきた。
『はっ! つくづくおめでたい奴等だぜ。内部の人間なら俺以上に腐敗っぷりがよく見えそうなもんだが、そうでもないみたいだな。教えてやるよ――お前らの組織、九校連は私利私欲に走った挙句、何の関係もない民間人を大量に殺した真正の狂人どもの集まりなんだよ!』
 これには流石の鉄心も動揺を禁じえず、思わず声を震わせてしまう。
『そんなはずが……! いったいどういう――』 
 すると今度は、敵パイロットは鼻で笑うように鉄心の問いを一蹴する。
『もしここから帰れたんなら、お前らの大好きな団長や校長に聞いてみればいい――もっとも、帰れればの話だけどな!』
 その言葉で一方的に会話を打ち切ると、漆黒の機体は飛行ユニットのスラスターからエネルギーを噴射して高高度まで急上昇する。
『あれはなんかマズイ気がする』
 突如として高高度まで急上昇するという動きに対し、真っ先に危機感を抱いたのは裁だった。本能的に危険と判断と判断した裁は禽龍を駆って高高度の敵に追いすがろうとするも、無傷の“フリューゲル”が相手では流石の禽龍もおいそれと追いつけない。
 そうしている間にも上昇を続けた漆黒の機体はプラズマライフルの銃口を斜め下に向け、飛行ユニットから供給される膨大なエネルギーを惜しげもなく銃身へと注ぎ込み、充填率をフルにまで引き上げる。
 プラズマライフルからの光条が最大出力で放たれる寸前、禽龍はM61バルカンライフルを明後日の方向に向けて構えた。
『今からフルオート射撃するから! 流れ弾に巻き込まれないように気を付けてっ!』
 友軍機すべてに一斉送信で通信を入れた後、裁はトリガーを引いた。禽龍の手の中で暴れ出したM61バルカンライフルは凄まじい反動で禽龍を高高度へと吹っ飛ばす。
『しかし、こんな無茶やらかしたらとんでもない反動がくるんだろうなぁ。まぁ、無茶やるのはいつものことだけどね』
 まるで砲弾として撃ち出されたかのような勢いで吹っ飛ばされた禽龍は反動の威力に煽られて何度も回転しながら漆黒の機体へと瞬く間に接近していく。
『まさかこれが狙いで……! イカれてるぜ!』
 ようやく漆黒の機体のパイロットも裁の意図に気付いたようだが、それよりも禽龍の方が一瞬速い。反動の力で押し出されながら、トリガーを引きっぱなしにしたM61ごと叩き付けるようにして禽龍は漆黒の機体へとぶつかっていく。
『ごにゃ〜ぽ……武器としては扱い難いけど加速装置としては優秀なのかもしれないね……はぁ……はぁ……かはっ……げほっ……げほっ……!』
 禽龍の体当たりに加えて、反動で勢いのついたM61バルカンライフルの銃身を横殴りに叩きつけたおかげで、漆黒の機体が放とうとしていた最大出力でのプラズマライフルの銃撃は発射寸前でからくも阻止された。だが、通信機から漏れ出す裁の声には苦しげに喘ぐ音や吐血する音が混じっているあたり、機体にはそれほどダメージがなくとも、パイロットには相当のダメージがきているようだ。
『なるほど……ソイツが例の機体か――面白い、得意分野が同じ機体同士、ここで雌雄ってやつを決しておくとしようぜ』
 体当たりされた状態からすぐに体勢を立て直すと、漆黒の機体は挑発するように言ってプラズマライフルを腰部後方に懸架し、代わって大出力のビームサーベルを抜く。
『ごにゃ〜ぽ☆ ボクは風。誰にも風を風を捕えることなんて、できはしないよ!』
 漆黒の機体に応じるように禽龍も銃弾を撃ち尽くしたM61バルカンライフルを放り、空いた手でコンバットナイフを抜き放つ。
 動き出したのは双方全くの同時。互いに背部の飛行ユニットからエネルギーをフルパワーで噴射しつつ戦闘速度に入り、縦横無尽に大空を駆け回っての三次元戦闘を展開する。大出力のビームサーベルが禽龍に向けて振り下ろされるが、禽龍もそれをコンバットナイフで受け止める。最新式の対・ビームコーティングが施してあるおかげで禽龍のコンバットナイフは大出力のビームサーベルとも鍔迫り合いを演じていた。
『どうした? 風を捕えることなんて誰にもできないんじゃなかったのか?』
 漆黒の機体は飛行ユニットが生み出す推進力の後押しを受けて力任せに光刃を押し込もうとする。だが、単純な押し合いともなれば合計四基のターボファンエンジンを装備する禽龍に分があるようだ。コンバットナイフを構えたまま四連装ターボファンエンジンを最大まで噴射し、漆黒の機体を押し戻す。急激かつ爆発的な加速を見せた禽龍に押し負けた漆黒の機体は至近距離からの体当たりに突き飛ばされてバランスを崩す。それでも咄嗟に振るった光刃が禽龍の肩口をかすめるも、まるで防水加工をした生地が水を弾くように光刃は弾かれ、拡散した光子が粉雪のように舞う。
『言った通りだよ! 誰にも風を捕えることなんて――げほっ、げほっ……かはっ……!』
 膠着状態を脱した禽龍は更にスピードを上げる。一刹那とすら思えるほどの短時間でトップスピードまで達するという恐ろしい加速性能を発揮した禽龍は、円を描く機動で漆黒の機体の背後へと回り込み、コンバットナイフを振り下ろす。
 一方、漆黒の機体も飛行ユニットのスラスターを爆発させんばかりの勢いで噴射し、その反動による推力で急速に180度回頭。回転する勢いを乗せて振るう光刃でコンバットナイフを受け止めた。
 大出力の光刃と対・ビームコーティングを施した鋼刃がぶつかり合い、その結果として両者ともに後方へと吹っ飛ばされる。
『殺人的な加速だよ……!』
 コクピットで裁が文字通り血を吐きながら言い、再びフルブーストで敵機へと肉薄した禽龍がコンバットナイフを振り上げた直後だ。漆黒の装甲に振り下ろされていくコンバットナイフをどこからか飛来した鞭のようなものが払い、漆黒の機体を救う。
『ここは私に任せてもらおうかしら。見た所、その機体は全身に強力なビームコートが施してあるようね。ビーム兵器しか持たない“フリューゲル”では有効打は与えにくいけど私のスクリーチャー・ゲイルの武器なら大丈夫。仕掛けが完全に作動するまで間、その機体は私が相手をするわ』
 援護攻撃とともに入ってきた声は若い女の声。おそらくまだ少女といえる年齢だろう。それに続いて“フリューゲル”や禽龍ほどではないにしろ、かなりの高速機動で一機のイコンが戦域に飛来する。“フリューゲル”風の外装と別途用意した飛行ユニットを付けて偽装してはいるがその姿はまさしく天貴 彩羽(あまむち・あやは)スベシア・エリシクス(すべしあ・えりしくす)の愛機である――スクリーチャー・オウルに違いない。
『彩羽の姉ちゃんか。助かったぜ』
 漆黒の機体のパイロットは鏖殺寺院の専用回線で彩羽へと呼びかける。
『別に気にしなくていいわ。少なくとも今の私はエッシェンバッハ派だもの』
『けどいいのかよ? 今、俺たちが交戦してる連中、あんたや相棒の嬢ちゃんにとっちゃ知らない仲じゃないんだろ?』
 すると彩羽とスペシアは事もなげに答える。
『言ったでしょう? 今の私はエッシェンバッハ派よ。それに今回の工場破壊、蒼空学園のイコン製造は蒼空の生徒を戦争に送り込む要因の一つだし、私の目的にも反しないわ』
『どんなそしりを受けようともやるべきと決めた事を彩羽殿についていってなすのでござるよ』
 そう答える二人に禽龍を任せ、漆黒の機体はイコン製造工場へと向かっていく。
『そうか。なら任せたぜ――頼んだぞ』