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三話 最終決戦と触手もの

「そろそろこの乱痴気騒ぎも終わりにしよう」
 リブロ・グランチェスター(りぶろ・ぐらんちぇすたー)は浜辺の外れにある高台から対物ライフルを構えていた。
「……作戦は作戦通りにいかないのが常だが……場所が場所だから仕方ないな」
 タコの頭に照準を定めながらリブロは嘆息する。
 タコの討伐が始まるまで、数人の冒険者と作戦を立てていたが偶然この浜辺に来た冒険者が加勢したせいで討伐開始から早速アドリブをするハメになったのだ。
「まあ、人数が増えたおかげで正攻法が可能になったのだから文句を言うのはよそう」
 リブロは空を見上げる。
 タコの上空には飛空艇に乗ったパートナーたちが旋回しており、リブロの合図を待っていた。
「さて、ではこの戦いを終局させるとしよう」
 リブロは持っていた鏡を取り出すと、太陽の光に反射させてパートナーたちに合図を送る。
 空を駆けるパートナーたちもそれに気がついたのか、同じような反射の光が返ってくる。
 リブロは向こうの準備が完了しているのを確認すると対物ライフルの引き金を引き絞った。
 空気が割れるような音が響くと、数秒後タコの触手の一本が海原まで吹き飛んだ。
 飛空艇に乗っていたアルビダ・シルフィング(あるびだ・しるふぃんぐ)はタコの墨を回避しながら顔を曇らせていた。
 飛空艇の調子が良くないのだ。
「くそ……こんなタイミングで故障するなんて」
 アルビダは舌打ちするが、タコはそんなことをお構いなしに触手を伸ばしてくる。
 が、伸ばした触手はライフルの一撃でことごとく吹っ飛ばされてしまう。
 ──それが、よくなかった。
 至近距離で触手が千切れたせいでアルビダはその血液をもろに浴び──墜落してしまう。
 無事着地を成功させたアルビダではあるが、そこは敵陣のど真ん中。眼前には餓えた目をした男たちが立っていた。
「……しょうがないですね、正面突破します!」
 言うなりアルビダは拳を振るい、男たちをなぎ倒していく。
 だが、一人倒すと二人新しく目の前に敵が現れアルビダはその数に圧倒され始めていた。
「多勢に無勢ですね……このままじゃ」
 押し負ける。そう思った瞬間、近くで爆音が轟いた。
 その爆音と共に男たちは海の方まで吹き飛び、アルビダの正面だけ人が無人となり、その先にはミサイルポッドを構えているフィオナ・グリーン(ふぃおな・ぐりーん)とクレイモアを構えている戎 芽衣子(えびす・めいこ)が立っていた。
「マスター、前方の敵を殲滅しました」
「ああ、ご苦労さん」
「な……なんだてめえらは!」
 男たちはアルビダから二人に視線を向けて、怒号と共に襲いかかるが、
「貴方達の行動は合理性に欠けると判断されます。……至急、修正を」
「難しいことはいいからぶっ放せ」
「了解です、マスター」
 言うなりフィオナは再びミサイルポッドを発射した!
 爆炎が浜辺に巻き起こり、男たちは例外なく吹っ飛んでいく。
「おい、あんた大丈夫か?」
 芽依子はアルビダに声をかける。
「飛空艇が故障したんだろ? 見てたよ。一旦離脱して体勢立て直しなよ。あたしは、あのタコをどうにかする」
 そう言って芽依子はタコにクレイモアの切っ先を向け、
「おいタコ! 他人の自由意思を奪ってまでハーレム作ろうなんざ、許される訳ねェだろうが。それに、だ。世の中の可愛い少年少女は! あたしのモンだって決まってんだよ――ッ!!」
 怒声を上げながらタコに向かって突っこんでいく。
「珍しく正義に燃えていると思えば、そんな理由でしたか……マスターの評価を下方修正します」
「んなのいいから援護しろ!」
「ヴヴヴヴヴヴ!」
 タコは自身に近づいてくる芽依子を撃退しようと無数の触手を飛ばす。
 クレイモアを持っていては全てを防ぎきるのは不可能と判断した芽依子は、その障害の一切をフィオナに押し付けて愚直に全身を続ける。
 上から襲いかかる触手を、フィオナは残らず焼き払っていった。
「マスター、もう弾薬が底を尽きそうです」
「気合いで何とかしろ!」
「無理です」
 サラリと言ってのけている間に──フィオナの弾丸が底を尽きた。
「ヴヴヴヴヴ!」
 その隙を逃さぬようにタコは芽依子たちに触手を伸ばしてくるが、
「やめろ、このエロタコめ」
 芽依子たちの前に割って入ってきたのは橘田 ひよの(きった・ひよの)まーけっと・でぃる(まーけっと・でぃる)だった。
 ひよのはナイフを片手に次々と襲いかかる触手を切り落としていった。
「んっふふふふ〜。これだけあればお腹いっぱいになりそうだな」
 ひよのは口角を上げて笑みを浮かべると両脇に触手を抱える。
「おい、でぃる。火をおこしてくれ」
「戦闘中だっての……そんなに食いたいならタコを退治してからにしろ」
「なるほど、確かにあいつを倒した方がもっとお腹いっぱいになりそうだな」
「そういう意味じゃないんだけど……まあ、好きにしてくれ」
 ひよのは両脇に抱えていた触手を手放すと再びナイフを構える。
「気をつけろよ、あのエロタコ。女ばっかり狙ってるらしい。油断してると水着を剥がされるぞ」
「そうか、なら脱ごう。おとりにもなるしな」
 そう言って、でぃるが止める魔もなくひよのの上半身はトップレスになってしまう。
「ばっ……! おまえ何やってんだよ!」
「よし、囮は任せろ」
 勝手に話を進めてひよのはさっさとタコに向かって突っこんでいく。
「ヴヴヴヴヴヴ〜!」
 タコもひよののあられもない姿に視線が行き、触手が一斉に伸びていく。
 だが、その触手も全て切り落とされひよのは前進をやめる気配が無い。
「ったく……タコに向かって前進してたら囮にならねえだろ」
 そんな愚痴をこぼしながらでぃるは自身に目がけて襲いかかる触手を刈り取った。
「でぃる〜! これだけ足があればたこ焼きいくらでも作れるぞ! 作ってくれ!」
 そう言って、ひよのが両脇にたくさんの触手を抱えて戻ってきて、
「おまえ、本当に囮の意味わかってねえのかよ」
 でぃるはひよのの頭を叩いた。
「痛いぞ」
「知ってる……あんたらは行っていいよ」
 でぃるがそう言うと、
「分かってるっての!」
 芽依子は仕切り直すようにフィオナを置き去りにして再度特攻を仕掛ける。
 タコの動きは痛みのせいで鈍くなり、芽依子は触手を伝って高く跳躍すると、
「これでも……くらいやがれえええええええええぇぇっ!!!」
 叫びながらクレイモアを突き刺して、地面に着地した。
「ヴヴヴヴヴウヴヴヴヴヴヴっ!?!?」
 タコは今までにないくらいに激しく身を捩り、アルビダ墜落から様子を窺っていたエーリカ・ブラウンシュヴァイク(えーりか・ぶらうんしゅう゛ぁいく)レノア・レヴィスペンサー(れのあ・れう゛ぃすぺんさー)がタコに接近していく。
「エーリカ、援護は引き受ける。トドメは任せたぞ」
「了解です!」
 エーリカは返事を返すと高度を上げていく。
 レノアはエーリカがトドメのために待機するのを確認するとタコに向かって飛空艇を飛ばした!
「ヴヴヴヴヴヴ……」
 頭から血を流しながらもタコは触手と墨を飛ばしてくる。
「いよいよ形振り構わなくなってきたな……いい傾向だ」
 獲物を前にした獣のようにレノアは白い歯をニイッと見せ、機関銃の引き金を引く。
 機関銃の銃身から鉛玉が撃ち出され、その弾丸は──クレイモアの刺さった傷口に命中した。
「ヴウヴヴヴヴヴヴヴヴウウウヴヴウッッッッ!?」
 着弾した途端、タコの動きが止まる。
 その隙を合図に上空で待機していたエーリカが急降下する。
「ヴヴヴヴヴヴ!」
 タコは最後の抵抗を見せるように大量の墨を吐き出すが、
「そうそう、それを待ってたんだよ!」
 エーリカは雷撃を飛ばし、タコは自分の墨で感電する。
「これで……トドメッ!」
 そのままエーリカは真っ直ぐに直進し、機関銃で広がった傷口にファイアストームを浴びせる。
「ヴヴッヴヴヴヴヴヴヴッッヴヴヴッヴ!?」
 タコは身体を滅茶苦茶にうねらせると、電池が切れるように徐々に動きを緩めていき──やがて、もう二度と動くことは無かった。