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リアクション
プロローグ
白い雲。頬をなでる生ぬるい風。
じりじりと焼ける音が聞こえてきそうなほどに照りつける太陽を、眩しいほどに反射する砂浜。
海の家からは食欲をそそる匂いと音が響き、店内では音楽も演奏されている。
今年も海辺は人で賑わっていた。
だが、今年の浜辺はいつもとは違っていた。
「暑い! 暑い! あつーい!」
うっすらと白く雪で覆われた浜辺でパラソルを立てて雪女郎は手足をバタつかせていた。
大きな氷のアーチが雪女郎のパラソルの遙か上空にかかり、直射日光を遮っている。そこから透けて見える太陽は万華鏡のようにキラキラと輝いて幻想的な雰囲気をかもし出していた。
太陽の熱で溶けた氷がぽたりぽたりと雨粒のように落ちてくる。
背中に当たったらしく、素っ頓狂な声が時折響いていた。
「ほら、雪女郎ちゃん! アイス食べようよ」
「冷やし中華とか、冷たい食べ物もいっぱいあるからね」
ぱたぱたと手で扇いでいると雪女郎の側に男たちが走り寄ってくる。
その手にはかき氷やアイス、冷たい飲み物からたこ焼き、やきそばなど大量の食べ物が握られていた。
「冷たいジュースちょうだい!」
冷たいものと聞いて嬉しそうに顔を輝かせて雪女郎は両手を伸ばした。
「なんだこれ……」
雪でうっすらと覆われた砂浜。
太陽ですぐに溶けてしまっているが、所々に白くその後を残している。
目を引く大きな氷のドームも、雪でコーティングされているせいでまるで雪国にあるような外装になった海の家も、それがほんの些細なことであるかのように思えてしまうほどの衝撃がここにはあった。
右を見ても左を見ても人の群れ。
浜辺は今までにないほどの人で埋め尽くされていた。
夏場の海なんてどこもそんなものなのかもしれないが、今年の海は違う。
左を見ても野郎。右を見ても野郎。
ビーチで涼しくキャッキャウフフな美女たちの姿は見当たらず、海の家で笑顔で食事をし、友人とともに泳ぎ、ビーチボールに勤しむのは少し汗ばんだ男たちだ。
浜辺の温度は氷のせいでひんやりとしているのに、気分的にはとてもむさ苦しい暑さ。
そんな異様な雰囲気を肌でびしびし感じ取りながら佐野 和輝(さの・かずき)は深い溜息をついた。
――うおおおおぉぉぉぉ!
突如響いた雄たけびにビクリとしながら視線をやると、浜辺の向こう側に人だかりが出来ている。
――可愛いぞちくしょおおおォォォォ!!!
「なんなんだ……ホントに……」
俺は関わらない。俺は関わらない。と心の中で何度も唱えながら、ぐぅと唸る腹の虫を静めるために海の家へと向かうのだった。
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