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リアクション
◆その10:廃校舎
「全く……、不毛とはこのことでありますね」
テロリストたちの戦いを背後に見やりながら廃校舎へと向かっていたのは松嶋 環(まつしま・たまき)と有栖川 桜(ありすがわ・さくら)だった。
二人はあの後、騒ぎを横目で見ながら一切関わらず奥へ奥へと進んでいた。
「さっさとチョークを集めて帰りましょう。なんだか、何もしていないのに疲れましたよ……」
元々、彼は軍務で遊んでやれない義妹を夏祭りに連れ出し、休日を利用した家族サービスを行うつもりできていたのだ。
どことなく元気なく見える義妹の桜を夏祭りに連れ出したところ、肝試しに参加したいと言うので一緒にこの森に入ってきただけだったのだが。
どうしてあんな乱痴気騒ぎが起こっているのか理解しがたかった。
「全く、幽霊なんて冗談だけにして欲しいです」
「キャー! 出た、本当に幽霊が出たでありますよっ!?」
桜は環にしがみついてくる。そんな彼女を環は労わる。
「ストレスがたまってますね……」
それだけの反応に桜はちょっと不満げになりながらも、ちらりと胸の隙間を環に見えるようアピールする。
「……」
特に反応はなかった。なんてこった。
でもまあ、まだ時間はあるのだ、と桜はほくそ笑む。
そんな彼らの視界の先に廃校舎が見えていた。
○
だが、彼らよりも先に廃校舎へと入っていたメンバーがいた。
「騒がしくなってきたな」
真面目に肝試しを楽しみ、廃校舎を探索していたエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)は不穏な空気と共に邪気が膨れ上がっていくのを感じていた。
夏祭りもいいが、パートナー達が肝試しやってみたいと言い出したから、そっちに参加するとしようと、テロや仕掛けを潜り抜けここまでやってきていたのだが。
「気を引き締めていくぜ……」
「はい」
校舎の入り口に入ると、なにやら一言おまじないをしたのは、エヴァルトのパートナーのミュリエル・クロンティリス(みゅりえる・くろんてぃりす)だった。親密さが深まるおまじないだったらしい。
「三人一緒なら、暗いのも平気ですから、行きましょう! ねっ!」
隣にいるロートラウト・エッカート(ろーとらうと・えっかーと)にチラリと視線をやる。
「途中に『ぱいたくはんたー』さんという人がいるってロートラウトさん言ってましたよね……どんな人なんでしょう……?」
「寂しくて、女の子の胸を触ろうって考えている残念な人たちよ」
やれやれ、と肩をすくめるロートラウトにミュリエルは、え? と嫌悪の表情を浮かべた。
「え、胸を触るんですか!? い、嫌です……でも、お兄ちゃんにだったらいいですけど……」
「まあなんかそんな感じで、色々アブナい人もいるみたいだけど、エヴァルトに任せれば大丈夫大丈夫! きっと守ってくれるわよ」
期待を込めた眼差しのロートラウト。
そんなそんな二人の思いを、エヴァルトは華麗にスルーした。
「カップルと認識されると襲いかかってくるそうだが、まぁ大丈夫だろ。だって、俺たち、せいぜい仲の良い兄妹とか、友達以上恋人未満とかとしか見られるまいよ」
恋愛不可のエヴァルトは、ロートラウトにもミュリエルにも、一定以上の感情は持ち合わせていないようだった。
でもそれでもいい、とロートラウトは思った。傍に一緒にいられるだけで……。
「さて、チョーク集めだっけ? まあ、じっくりやっていこう。優勝できたらいいな……」
力強い声で言って、エヴァルトたちは廃校舎を進んでいく。
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