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夏休みの大事件

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夏休みの大事件

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   八

 第四班受験者:龍杜 那由他、一雫 悲哀(ひとしずく・ひあい)隠代 銀澄(おぬしろ・ぎすみ)


 第四班は、二班同様、セレンフィリティ・シャーレットの作戦にはまった。
 最も時間のかかるルートを取る羽目になったが、幸いにして銀澄は状態異常に強かった。しっかりとした足取りとはっきりしている頭で、他の二人を指揮して進む。
「こちらです。周囲に気を付けて!」
 パートナーの樹龍院 白姫(きりゅうりん・しろひめ)からも、しっかりやるよう言われている。
「敵です」
 悲哀が二人に囁いた。
「あたしがやろうか」
 那由多がぐっと拳を握る。
「いえ、ここは拙者にお任せ下さい」
 銀澄は反物に【●式神の術】をかけた。まるで妖怪一反木綿のようにふわふわ廊下を飛んでいく。
 驚いたのはセレンとセレアナ・ミアキスだ。一瞬、それが何であるか二人には分からなかった。武器か、魔法か? トラップか? しかし、当初の予定通り、二人は那由多たちを挟み撃ちにした。
 セレアナが【光術】を使うのと、銀澄が【疾風突き】を仕掛けるのが同時だった。
「くっ!!」
 目を晦まされ、銀澄の刀は狙いを外した。セレアナの脇腹に強い衝撃が走る。
「セレアナ!」
と、セレンは【サイコキネシス】で刀を奪い取る。その隙に、那由多と悲哀は銀澄を連れて逃げ出した。
「やるわね……こちらが動揺させられたわ」
「セレアナ、怪我は?」
「大丈夫よ。ちょっと痛むけど……刺されてはいないわ」
 セレンは奪った刀を見た。刃のない、「不殺刀」だった。


 那由多はかれこれ小半刻も部屋の中を探し回っていた。戦闘に関しては耀助に引けを取らぬ彼女も、物探しとなれば打つべき手がない。勘を頼りにして、手当たり次第にあちこちを引っ繰り返していた。トラップが仕掛けられていなかったのは、幸いと言う他ない。
「困ったな……」
 那由多は呟いた。制限はないが、時間がかかりすぎれば成績に影響が出るのは目に見えていた。何より、ここで巻物を見つけられなければそもそも失格だ。
「困ったな」
 また呟いて、那由多は腕を組んだ。と、部屋の灯りが消えた。那由多自身も、たちまち闇に溶け込んでいく。
【エンドレス・ナイトメア】……急に吐き気を覚え、那由多は唇を噛んだ。【浄化の札】で体調を整えると、背後の気配を感じ、【光術】を放った。瞬間、鴉のような何かが見えた。
「そこ!!」
 那由多は左ジャブを繰り出す。掠った。更に右ストレートを放つ。避けられたらしい。
「ちょこまかと……!」
【光術】の光はもう消えていた。那由多は記憶の中の間取りを頼りに、敵を探す。部屋の中、壁や天井を走り回っているのは音や気配で分かった。
「そこだあ! 八氣脚!!
 那由多の蹴りが鴉を捉えた。更に二発、三発と繰り出していく。
 鴉が吹っ飛び、再び部屋に灯りがついた。
 鴉――レイカ・スオウは、床の間に体ごと突っ込んでいた。その脇に掛け軸が落ちており、巻物が広がっていた。
「やった!」
 那由多はいそいそとそれを拾おうとして、ハッとした。左足が重い――レイカの【ペトリファイ】で石になっていた。


 悲哀は、耀助ともう少し仲良くなりたいと思っていた。ナンパされ、握手もした。次はお友達だ。だが些か残念なことに、耀助は違う班に分けられてしまった。
 しかし、パートナーである那由多と話が出来た。いい機会なので、二人の普段の生活や、好きな食べ物の話をしてみた。パートナーの話に至っては、那由多からは愚痴しか出てこなかったが、
「でもまあ、いい奴だけどね。あのナンパ癖さえなければ」
と締めくくられて、悲哀はやけに嬉しかった。那由多と友達になれたのも、この補習での一番の収穫だったろう。
 その那由多から巻物を受け取ると、悲哀は天井裏に上った。とはいっても、それほど身が軽いわけではないため、進むごとにみしりみしりとあちこちが軋む。
 そのため、下にいたクリスティー・モーガンにすぐ気づかれた。クリスティーは怪力の籠手で柱を揺らしながら、
「降りてこい! ボクは天下一刀流一番弟子、クリスティー・モーガンだ!」
と怒鳴った。
「ち、ちょっと揺らしすぎです!」
 クリスティーはニッと笑った。
 悲哀が天井から飛び降りる――同時に、ミルキーウェイリボンがクリスティーの首に巻き付いた。
「しまった……!」
「……手刀の原理は知ってますか?」
 クリスティーの背後で、悲哀は小さく囁いた。
「あれは、一時的に首にある血管を圧迫することで酸素を脳へ送れない状態にすることで気絶してしまうそうです。場所さえ正確におさえてしまえば少し叩いた程度で人は昏睡します。……まぁ、リボンでやりますので多少痣が残ってしまうかもしれませんが……ちょっと申し訳ありませんね」
 悲哀がリボンを引っ張ると、梁の反対側のクリスティーの体が少し浮いた。
「く、そ……」
 腕の力が抜けていく。クリスティーは目の前が霞む中、辛うじて「栄光の刀」を抜き、頭上で振り回した。
 小さな切れ目ができ、そこからリボンが裂けていく。更にクリスティーは刀を振るった。クリスティーの体重と相俟って、切れ目がどんどん広がり、遂に二つに裂けた。
「げほっ、げほっ……」
 床に落ちたクリスティーは喉を擦り、咳き込みながらも相手を探した。しかし、悲哀は既にその場にいなかった。


 銀澄はベルフラマントで気配を消し、堂々と表から外へ出た。【トラッパー】で罠を見破り、タライや落とし穴は全て避けた。
 六連 すばるの仕掛けた水たまりは、【見鬼】でその下にフラワシがいるのを見抜いた。更にすばる自身と、親不孝通 夜鷹が隠れているのも分かった。
「どうしたものでしょうか……」
 知らぬふりをして通り過ぎてもいいが、もし既に気配を感じ取っているなら、背後から襲われる危険性がある。ならば、と、銀澄は鯉口を切るや、夜鷹に踊りかかった。
「引っ掛かったぎゃ!」
 夜鷹は【鬼眼】で迎え撃つ。
「後ろもご注意なさい!」
 更にすばるが【ブラインドナイブス】で背後から襲い掛かる。
 バサッ――と大きな羽音がしたが、二人は気にも留めなかった。すばるは【ヒプノシス】で銀澄を眠らせたのだった――。

 第四班 龍杜 那由他、一雫 悲哀合格