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モンスターの森の街道作り

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モンスターの森の街道作り

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薬草の植え替え

「これでよし。あとはダッシュするだけね」
 薬草の植え替え作業。プランターに薬草を土ごといれたレオーナ・ニムラヴス(れおーな・にむらゔす)はそう自分の行動を確認する。レオーナと同じような行動をしている村人が複数おり、モンスターたちがせめて来ないうちにと急いでプランターへの詰替え作業をしている。この後の手はずはプランターに詰めた薬草をひとまずモンスターたちが襲ってこない動物たちの領域まで運ぶことだ。そこから植え替え先まで運び実際に植え替えるのはまた後、モンスターたちが襲ってくるここでの作業を終わらせてからになる。
「レオーナ様、やはり走るのですか? わたくし、走るのとか苦手ですのに……」
 憂鬱そうな顔でそう言ってくるのはレオーナのパートナーであるクレア・ラントレット(くれあ・らんとれっと)だ。
「何を言ってるのよクレア。なんのためにこんな格好してると思ってるの?」
「それは……そうですけど」
 二人は体操服にブルマ、赤ハチマキと何時の時代の運動会だよと言う格好だ。ちなみにレオーナのこだわりでニーソも着用している。そのこだわりへの情熱をもっとまともなことに向けて欲しいとクレアは常々思うがその願いが叶う様子は今のところ欠片もない。
「とにかくダッシュよクレア」
 そう言ってプランターを持ち我先にと走りだすレオーナ。クレアも遅れながらも追いかけるようにプランターを持ち走りだす。
「……って、いたっ!?」
 バタンと前を走っていたレオーナが倒れる。プランターを持ちバランスが取りにくい状態で全力疾走をすればそうなるのも当然かもしれない。
「いたた……よかった、薬草は無事…………ね?」
 まず先に薬草の無事を確認したレオーナはそこに自分以外の影が映っているのに気づく。顔を上げてみるとすぐ近くにゴブリンたちの姿があった。
「レオーナ様! 今こそ魔獣使いとしての力を見せる時です!」
 はぁはぁと息を切らせながらクレアはレオーナにそう助言する。
「えー、私、可愛い猫耳の女の子とかをなつけるために魔獣使いになったのに……」
「レオーナ様…………」
 こんな状況でも女の子にこだわるレオーナにクレアは涙せずにいられない。
「アブソリュート・ゼロ!」
 そうスキルを叫ぶ声と同時に、駄々をこねるレオーナと心なしか怒った様子のゴブリンたちの間に硬い氷壁ができる。
「キミ、大丈夫かな?」
 そう近づいてくるのはアブソリュート・ゼロを使った源 鉄心(みなもと・てっしん)だ。今回の植え替え作業の護衛を担当している。
「モンスターたちはこっちで抑えるから君たちは早く動物たちの領域へ」
「了解です。全速力ですよ」
 鉄心の頼もしい言葉にこれで女の人だったら運命の出会いだったのになーと密かに思いながらレオーナはそう返す。
「うさうさ……鉄心走るのが速いうさ」
「あんまり走ったらかぼちゃの煮物がこぼれてしまいますわ」
 レオーナがまた走りだそうとした所で後ろから鉄心のパートナーの二人ティー・ティー(てぃー・てぃー)イコナ・ユア・クックブック(いこな・ゆあくっくぶっく)がやってきて鉄心に声をかける。女の子の声を耳ざとく聞きつけ振り向いたレオーナはティーとイコナの姿を見て深い衝撃を受ける。
「うさみみ……! ねこみみ……!」
 うさみみをつけたティーとねこみみをつけたイコナ。二人を見たレオーナは衝撃に固まってしまう。
「レ、レオーナ様?」
 固まったレオーナに恐る恐るクレアは話しかける。すると封印が溶けたようにレオーナはしゃべりだした。
「クレア……私は今日この日のためにビーストマスターになったんだね」
「……は、はい?」
 嫌な予感がびんびんするクレアをよそに真面目な表情でレオーナは鉄心に向き直る。
「あの!……この子達をテイムしてもいいでしょうか!?」
「レオーナ様……」
 ついにクレアは泣き崩れる。もう何が悲しいのかもわからない状態だ。
「い、いや……それは流石に困るというか……けもみみだけならいくらでも持っていってもらって構わないんだが……いや、それよりキミのパートナーは大丈夫なのか?」
「え? クレアがどうかし……ってクレア?」
 鉄心の言葉にクレアの方をレオーナが見るとクレアが精気のない様子でプランターを持って歩き出していた。見るからに痛々しい。どれくらい痛々しいかというと近くを通った村人が思わずクレアから目を背けてしまうくらい痛々しい。
「ちょ、ちょっとクレア? ごめん謝るから待って!…………うさぎちゃんと子猫ちゃんまた後でね!」
 流石のレオーナもパートナーの様子を放っておけずプランターを持ち追いかける。その様子を鉄心達はなんとも言えない表情で見送る。
「……ああいう悲劇を起こさないようにもう君らのけもみみ止めないか?」
 レオーナ達が見えなくなったところで鉄心は二人にそういう。
「鉄心がこのおおかみみみをつけたら考えるうさ」
「これは作戦の一環なのですわ。決してお気に入りとかただの趣味とかではないので止めるとかそういうのでは……」
 ある意味想像通りな返事に鉄心はため息をつく。本人たちが飽きるまでは止めることはないだろうという達観のため息だった。
「……まぁ、けもみみの事は置いておくにしてもキミらが持っているのはなんなんだ? 何か準備していたのは知っていたけど」
「かぼちゃ、うさ」
「かぼちゃの煮物と栗ご飯のおにぎりですわ」
「……それで何をするか聞いていいかい?」
「ゴブリンさん達にあげるうさ」
「ゴブリンさん達に食べてもらいますわ」
 またも想像通りの返事に鉄心はため息をつく。持ってきたものをどうするかなどそれしかないのだが、それを実際に口に出すとどうも間抜けな感は否めない。
「まぁそれが共存の一歩になるのを祈るよ…………と、これは彼女たちの音楽か」
 森の中にに瑛菜達が奏でるギターやドラム、サックスなどの音が響く。
「上手く行けばこの音楽でゴブリンやコボルト達がお引き取り願えると言う話だが……」
 氷壁の向こう側のゴブリンたちを見るが帰る様子はない。
「失敗か。そううまく話は進まないものだな」
 こちらが引けないのと同様にゴブリンやコボルトたちにも引けない事情というのがあるのだろうと鉄心は思う。どこかで分かり合えたらと思うが今の自分は戦う力を持たない村人たちを守らないといけない。そう自らの役目を確認しまた同時に割り切る。
「それじゃ、かぼちゃを渡してくるうさ」
「美味しく食べていただけたらいいですけど……」
 そう言ってティーとイコナは氷壁の向こう側へ回りこんで向かう。
(……とりあえず今はあの二人に共存への努力を頑張ってもらおう)
 そう思いながら鉄心は護衛の任務に従事した。