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誰が為の宝

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誰が為の宝

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「で、前方の戦況はどうなの?」
「順調……といいたい所ですけど、少し手間取ってます」
 心配そうなルカルカに、飛都が悔しそうに顔を歪めてみせる。
 HCにリアルタイムで入ってくる情報を確認していたケヴィンも、むつかしい顔頷いた。
「雑魚は強くないが、とにかく数が多い。倒しても破片から分裂するし、雑魚組は際限なく戦い続けてる状態だから、いつまで保たせられるか」
 彼らの戦闘力を軽んじて言っているのではない。
 むしろ彼らが強いからこそ、この絶望的な消耗戦を続けていられるのだ。
「それに加えて、あの「女王」がまた……」
「強いの?」
 飛都は、深いため息をついて頷いた。
「なにしろ、やたら硬くてね」
 正直、事情が事情でなければ、コアとしてその機晶石を破壊することを優先させたかった。
「だが、今回に限っては、その選択肢はないですからね」
 程度の差はあれ、ここにいるメンバーはみな、ウィニカの為に機晶石を手に入れてやりたいと思っているのだ。
「とはいえ、何か打開策を見つけんことには、対雑魚組が力尽きるぞ」
 ケヴィンがぼやく。石の上に陣取って動かない「女王」は、周囲の岩と雑魚モンスターを手足のように使い、無尽蔵の物量作戦を仕掛けて来る。
 長期戦になれば、こちらは時を待たずに壊滅だろう。
「うーん……」
 頬に手をあてて考え込むルカルカの視界の端を、アイシァが横切った。
「そうねぇ……何か、起死回生の……」
 また、横切った。
 おろおろ……としか言い様のない様子で、人の間を右往左往している。
「ちょっと、ごめん」
「ああ」
 軽く詫びて話を中断し、アイシァに駆け寄る。アイシァはルカルカに気づくと、青ざめた顔に僅かにホッとした表情を浮かべて駆け寄って来た。
「アイシァ、どうしたの?」
「それが、それが……どうしよう」
 ルカルカは辛抱強くアイシァの言葉を待った。
 アイシァはようやく一度深呼吸をして、改めてルカルカを見る。
 途端に、泣き出しそうに表情が歪んだ。

「ウィニカがいないの……どこにも、いないの」

「まずかったな」
 ケヴィンが苦りきったように呟いて、頭を掻きむしった。
 彼らの会話が、ウィニカに与える影響を考えておくべきだった。
 ただでさえ不安と焦りで疑心暗鬼に陥っている彼女の前で、不安要素ばかり並べ立ててしまった。
「弱ったね」
 駆け出しとはいえアーティフィサーなら、状況の冷静な把握くらいはできそうなものなのだが……彼女が尋常な精神状態でないことは、織り込み済みの作戦だ。
 その配慮を怠ったのは、やはり自分たちのミスだと飛都は思った。
「とにかく、本部と前線に報告するよ。ウィニカが目指すとしたら「女王の巣」以外考えられないから」

 予想は当たっていた。
 そして、予想以上の執念と運の力か、戦闘の混乱をすり抜けて「巣」に辿り着いたウィニカの目にしたものは、赤い水晶状の結晶に覆われた異形のモンスターと、その足元にある岩だった。
 周囲のそれと変わらない鼠色の岩石の表面に、浮き上がるように輝く赤い結晶。
 それこそが、自分がここまで求めて来たものに違いない、とウィニカは思った。