薔薇の学舎へ

波羅蜜多実業高等学校

校長室

葦原明倫館へ

2022年度 葦原明倫館大運動会ノ巻

リアクション公開中!

2022年度 葦原明倫館大運動会ノ巻

リアクション


第2競技  玉入れ

 高く掲げられた籠の周りを、生徒達が取り囲む。
 両手に玉を持てば、スタンバイ完了。

「悲哀ちゃん!」
「いきましょう……アイラン。
 白組を……勝利に導きましょう……」

 ホイッスルと同じタイミングでアイラン・レイセン(あいらん・れいせん)は、パートナーの背を押した。
 いつものテンションだが、一雫 悲哀(ひとしずく・ひあい)の気合いは充分だ。

「秋だよ!
 運動会だよ!
 張り切らなきゃ駄目だよー♪」
「そうですね……アイランも張り切っていますし……私も負けないように頑張らないといけませんね」

 悲哀は【光術】で光を呼び出すと、赤組の籠付近へと飛ばす。
 ざわめきも余所に輝くそれは、絶好のめくらまし。

「よーっし、いまのうちだね!」
「えっと、じゃあ落ちてる玉を拾ってくるから、悲哀ちゃん投げてね!」

 いまが好機とみて、那由他を始めチームは白球を投げだした。
 アイランのように身長や投力に自信のない者も、できることから役割を果たしている。

「玉入れは背が……高ければ……有利に……」
「ん?」
「……女性なのに何故、私はこんなに育ってしまったのでしょうか……」
「あたしは悲哀ちゃんのが羨ましいよ?」
「そうよ!
 身長が高ければ、お部屋の上の方にも手が届くじゃない!?」

 元気よく、しかし小声で言い放つ那由他。
 なにかきっと、そう実感する出来事があったのだろう。

「あ……ありがとう……ございます。
 落ち込んでも仕方ありません……よね」
「うんうん!」
「あたし、体動かすの得意だし!
 悲哀ちゃんも体動かすの嫌いじゃないもんね!
 それでいいじゃないっ!」

 那由他とアイランに励まされ、悲哀は再びやる気を取り戻した。
 なんだかんだのあいだに、制限時間は残り2分。

「くっそー!
 まだまだ終わらないわよっ!」

 眼が馴れてくれば、なんてことはない。
 セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)の声で、赤組も息を吹き返す。

「こんなのっ!
 サイコキネシスで片っ端からかごの中へ入れてやるんだからっ!」

 言ってセレアナは、【秘めたる可能性】を発動した。
 持てる力を、なにかのための余力は残しながら、出し切りどんどん玉を放り込む。

「入れーっ!」
「負けません……」

 それぞれスキルを駆使しての猛攻は、どちらに軍配が上がるのか。
 甲高い笛の音が、勝負に終わりを告げた。

「不意打ち、申し訳ありませんでした……目を覆うだけでも……違うはずですから……」
「じゃあ、タオルみんなに配ってくるねー行ってきまーす♪」
「あの……耀助さんにも……申し訳ありませんでした……」
「おぉ、ありがとう!」

 試合後。
 悲哀とアイランは、温かいタオルを配るために赤組ベンチを訪れた。
 淡い恋心の相手にも勿論、タオルを手渡し。

「あ、ねぇねぇ。
 若しよかったらさ、一緒にお昼でもどう?」
「えっ……よっ……よろしいのでしょうか……」
「いいっていいって、タオルのお礼ってことでさ!」
「ありがとう……ございます……嬉しいです……」
「ほぅ」
(耀助くんのナンパ、上手くいくこともあるのね)

 悲哀に肯定の返事をもらい、ガッツポーズの耀助。
 斜め後方の席からセレアナは、思わず感心にも似た情を抱くのだった。

「佐保先輩♪
 お弁当作ってきました、一緒に食べましょ!」

 そうしてお昼休みへと突入した校庭では、色とりどりの緒返答が開かれる。
 ミーナ・リンドバーグ(みーな・りんどばーぐ)も、この瞬間のために午前中を過ごしてきたと言っても過言ではない。

「きゅー、きゅい??」
「おぉ、かたじけないでござる」

 腰を下ろす佐保へ、立木 胡桃(たつき・くるみ)がお茶を差し出してきた。
 喜んで受け取り、一口。

「うん、がんばったあとの一杯は素晴らしいでござるな!」
「えへへ〜そうですよね〜♪」
「きゅい!」

 佐保の意見には、ミーナも胡桃も大賛成だ。
 手を拭いてお箸を割れば、待ちに待ったお食事タイム。

「今日のメニューは運動会のお弁当の定番!
 から揚げと卵焼きにおにぎりです!
 たこさんウインナーもありますよ」
「ではまず、おにぎりをいただくでござる」
「はいどうぞ、召し上がれ!
 それにしても佐保先輩、速かったですね。
 1位でゴールしちゃうなんて、すごいですよ!
 それに引き替え、ミーナなんて……転んじゃって最下位とかかっこわるいですぅ……」
「そんなことないでござるよ。
 自分なりに一所懸命がんばったのなら、立派な結果でござる」
「そう、言っていただけると嬉しいです」
「しかしミーナ殿。
 超感覚を使えば、もっと早くなるのでは?」
「う〜ん……でもミーナ、超感覚使ったことないからどんな動物になるかわかんなくて。
 先輩の苦手な動物だったら困るし」
「拙者、動物はなんでも好きでござるよ?」
「え、じゃあ今度は獣化してみようかな〜あ。
 佐保先輩、あーん!」
「あーん」
「もきゅもきゅもきゅ、きゅきゅもきゅー」
(敵同士だっていうのに、ミーナったら……)

 胡桃の言葉は、当然ながらどちらにも届かない。
 まぁいまだけでも、幸せな時間を過ごさせてあげようではないか。