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第6章 ジャウ家の盗人?

 深夜のジャウ家邸内。
 音もなく蠢く怪しい人影、ふたつ。
(本当に、来てるの? セレン)
(間違いないわ。この時間に不自然な人の動き。しかも宝物庫。間違いない!)
 ジャウ家のメイド、セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)だ。
 二人はジャウ家の盗難事件の犯人を追っていた。
 そこに更に合流する影ふたつ。
(使用人の話では、最近は盗難事件は起きてないそうだ。たしかに、動くとしたらそろそろだね)
(そうだね……)
 こちらは羽純と歌菜。
 彼らもまた、盗難事件を調査していた。
 音もなく宝物庫の前に立つ4人。
(うふふ……泳いでる泳いでる)
 宝物庫の中の気配を確実に察知したセレンフィリティは、ほくそ笑みながらボタンを押した。
 それは、罠の起動ボタン。
 ガタッ、ガタガタガタッ!
 押すと同時に宝物庫から異音。
 中で、罠にかかった犯人が暴れているのだ。
「よーし、突入ーっ!」
 宝物庫に入る4人。
「さあ観念しなさい盗難犯! ……って、あらら?」
「……っ、これは一体なんなんだ……」
 扉を蹴って飛び込んだセレンフィリティ。
 彼女の目の前で、幾多の縄でがんじがらめにされ転がっていたのは、彼らの雇い主ムティルその人だった。
「あれー? こんな時間に宝物庫を漁るなんて、てっきり盗難事件の犯人がいるかと……」
「じ、自分の家の宝物庫に何時入ろうが勝手だろう? それより早く解いてくれ」
 転がされたまま促すムティル。
 すいませんと慌ててそれを解くセレンフィリティに、ムティルは何故か無言。
 そんな二人を、解放を手伝いながらセレアナは黙って見ていた。
「もう時間も遅い。お前達も早く休め」
「その前に、よろしいでしょうか?」
 そう告げて自室に戻ろうとするムティルをセレアナは呼び止めた。
「何だ」
「盗難事件に関与してないとは、おっしゃっていませんよね」
「……俺が犯人だとでも?」
「例えば、盗難に遭った事にすれば保険金が下りるとか……」
「そんな姑息な真似はしない」
「ですよね。すぐにバレる。それより、私にはあなたがジャウ家を潰すためあえて“事件”を起こしているようにも見えるわ」
「くだらん推測だ」
「でも、否定はしてないわよね。犯人のことも、事件のことも」
「……お止めください!」
 二人の緊迫した会話に割って入った者がいた。
 騒ぎを聞きつけてやってきた、ジャウ家の使用人たち。
 その中でも古株の使用人の一人だ。
「でも……」
「よろしいのです。全て、当主様のお心のままで」
「どういう事だ?」
 止めようとする使用人の一人に、羽純が聞きただす。
「私やあなた方の使用人としての賃金。それが、どこから出ているのか。ムティル様がどうやって工面しているのか、どうぞお察しください」
「それって……!」
 息をのむ羽純。
 使用人は知っていたのだ。
 盗難事件の裏側も、ムティルが何をやっているのかも。
 セレアナ達が使用人と揉めている間に、ムティルは自室に戻ってしまった。
 彼がいた空間に、歌奈は小さく呟いた。
「このままで良い訳、ないじゃない……!」