校長室
冬のSSシナリオ
リアクション公開中!
4 少し前、佐野 ルーシェリア(さの・るーしぇりあ)は、リンス・レイス(りんす・れいす)の人形工房を訪れた。 あの時確かに、また来ようと思ったはずだった、のだけど。 「もう随分と、遊びに行ってないですねぇ〜……」 ぽつりと呟いてしまう程度の期間、時間を作れず会えず終い。 「どこに?」 ルーシェリアの声に、佐野 悠里(さの・ゆうり)が目をきょとんとさせて問いかける。 遊びに行っていない間に、娘までできてしまった。彼女を会わせたら、驚くだろうか。いや、ないか。 「行ってみますかぁ?」 「だから、どこに?」 「面白いところですぅ〜」 「??」 幸い今日は時間があるし。 思い立ったが吉日というし。 せっかくだから、娘を連れて行ってみよう。女の子の多くが人形を好くように、悠里もまた人形を好いている。きっとあの場所を気に入るだろう。 それにもしかしたら、クロエとも仲良くなれるかもしれない。 工房のドアを叩くと、中性的な容姿の人が悠里を招き入れてくれた。この人が、ルーシェリアの言っていた人形師なのだろう。 「リンスさん、お久しぶりですぅ」 「うん。久しぶり。元気だった?」 「おかげさまで〜。こんなに大きな娘ができましたぁ」 世間話のついでといった形で紹介され、ほんの少し面食らう。「佐野、悠里です」戸惑いながらも、悠里は名前を名乗った。 「ゆうりおねぇちゃんっていうのね」 不意に、知らない声がした。辺りを見回す。キッチンの戸のところに、十歳くらいの女の子が立っていた。 (あの子が) ルーシェリアが言っていた、悠里より少し幼いくらいの女の子、だろうか。 ここへ来るまでに、ルーシェリアは工房のことを話して聞かせてくれた。不思議な人形師の話と、彼のところに住まう女の子の話。 仲良くなれると良いですね、とも。 「こんにちは」 声をかけて、歩み寄る。 「こんにちは!」 彼女は、にっこりと笑った。仲良くなれる。直感的に、悠里は少女に対して思った。 「わたし、クロエ。よろしくね、ゆうりおねぇちゃん」 「クロエ殿」 相手の名前を反芻し、目線を合わせる。 「もしよければ、悠里とお友達になってくれませんか?」 告白に、クロエが目を瞬かせた。一拍の間を置いて、にこりと笑う。 「もちろん!」 キッチンのテーブルに、並んで座って話をした。 クロエには、年下らしい部分と年下らしからぬ部分があって面白く、自然と笑う回数が増えた。また、悠里が笑うとクロエも笑ったので、よく笑うようになった。 話している最中で気付いたのは、クロエの指に――いや、指だけじゃなく、関節部分に、何か跡があるということだ。 (あれは、なんだろう?) 球体関節人形、という言葉を、ふと思い浮かべてしまった。ここが人形工房だからだろうか。こんなに喋って笑う子が、人形のはずがないのに。 「どうかしたの?」 無言のまま見つめてしまったためか、クロエが不思議そうな顔をしている。 「いいえ。何でもありません」 首を振り、短く言ってクロエを見た。 どう見たって、人間じゃないか。