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森の再調査

「やっぱり、この森は興味深いね。例の薬草以外でも見るべき所がある」
 森の調査、特に植生を調べていたエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)はパートナーであるリリア・オーランソート(りりあ・おーらんそーと)にそう言う。
「そうなの? 以前調査したときとあまり変わっていないような気がするけど」
 リリアとしてはいい森だとは思うが、薬草以外で珍しいものは感じられなかった。今日もエースを護衛しながら調査していたが、特に新たな発見はない。
「以前というのはいつのことだい?」
「それは街道を作る前の……って、そういうことね」
 エースの言わんとする事が分かったのかリリアは得心した様子になる。
「街道が出来てから月単位の日は過ぎたが季節が変わるほどの時間は経ってない。でも既に街道作りの爪痕が見当たらないんだ」
 エースの言葉通り、街道完成直後には見られた木々や植物たちの傷ついている様子が今は見当たらない。そういった点に考慮していたにしても全く見当たらないのは普通じゃないだろう。
「世界樹の影響かしら?」
「それもあるだろうけど……それだけじゃないと俺は思うよ」
「それじゃ例の薬草?」
「ないとは言わないが……単体でそれほど万能な植物というのには違和感があるね」
 エースとリリアの言う薬草とはこの森に生息するとある薬草のことだ。傷薬としてや滋養強壮の薬としても使え、時には染物にも使える。特に滋養強壮の効果は侮れないものがある。
「薬草と言えば、あの薬草には名前とかあるんだろうか?」
「ないと他の薬草と紛らわしいわね」
「調査の報告の時にでも聞いてみよう」
今はとりあえず調査だ、とリリアに言い、前回の調査書片手に二人は再調査を再開した。


「これで57匹目……あらかじめ聞いていたことではありますが、こうして直に観察調査すると不思議なものでありますな」
 ゴブリンとコボルトの規模を調査していた大洞 剛太郎(おおほら・ごうたろう)はそう呟く。
 今回の調査にあたり、前回の調査データやこの森に出没した野盗のことは調べたり聞いたりしていた。その中でゴブリンやコボルトが薬草の生えている所以外では襲って来ないことなど聞いていたが、実際に目にするのとではやはり違う。
「おかげで盆栽に使えそうな木をゆっくり採集できるのじゃ。良い森じゃな」
そう言うのは剛太郎のパートナーである大洞 藤右衛門(おおほら・とうえもん)
「それは超じいちゃんだけであります」
 ため息混じりに剛太郎はそう返すが。自身も多少の観光気分はあった。前回の調査結果やアテナに重点調査箇所を聞いていたため、モンスターの襲撃がないとちょっとしたピクニック気分になるのも仕方ないだろう。
「わしとしては村の観光がしたかったのじゃ。これくらいの役得はあってもいいんじゃないかの」
 そう言ってまた盆栽に使えそうな木を見つけ採集する。
「……しかし、この森のゴブリンやコボルトたちは薬草だけでなく森を守るという習性を持っているという話でありますが、こうして木を採集するのは問題ないのありましょうか」
 ごうたろうは近くにいるコボルトの姿を確認しながらそう言う。コボルトは超じいちゃんの行動を見ながらも止める様子はない。
「よく分からぬが街道が作れたのじゃ。これくらいは大丈夫じゃないかの」
 なるほどと、ごうたろうは思わず頷く。
「理由はどうあれ、今はモンスターの数の調査でありますな」
 浮かんだ疑問をごうたろうは横に置き、盆栽用の木を持った超じいちゃんと調査を再開した。


「ボクの力でどこまでいけるかな」
 薬草の生えている場所に入り、自分を狙ってきたゴブリンたちを見据えてジェイドはそう呟く。絶え間無く襲ってくるという話のゴブリンやコボルトをジェンド・レイノート(じぇんど・れいのーと)は剣一本でどこまでやれるか試すつもりだった。
「思ったよりも弱いかな……これなら……」
 襲い来るゴブリンの攻撃を剣でいなし返しの刃でゴブリンを傷つける。
「よし、ここ」
 トドメとジェンドは轟雷閃を一匹のゴブリンに叩きこむ。
「……って、あれ?」
 決めたと思った瞬間、狙っていたゴブリンとの間に別のゴブリンが割り込み、とどめを刺すことに失敗する。
「……少し気合い入れないとダメそうですね」
 ゴブリンくらい轟雷閃が決まれば一撃で倒せるとジェンドは思っていたが、かばったゴブリンはまだ戦闘可能なような。そしてもともと狙っていたゴブリンは既に後ろに下がり、狙うのは難しい。前情報通り、この森のゴブリン(またコボルトも)は薬草の影響でしぶとさだけは段違いらしい。
「ジェンドちゃんってば何やってんだ? ゴブリン相手に」
 ジェンドの戦いを見ながらそう呟くのはゲドー・ジャドウ(げどー・じゃどう)だ。
「あんまり苦戦するようだったら森に火でもつけて……」
 と、そこまでつぶやいたところで今回の目的がジェンドの修行だったことを思い出す。
「戦闘が目的ならダメか。チッ、ざ〜んねん」
 ジェンドの戦いを見てるだけなのも飽きるとゲドーは生えている薬草に手を伸ばす。ゴブリンに思いっき睨まれるが、そっちはジェンドの相手に大変らしく襲われることは無さそうだ。
「ん〜……おっ、俺様閃いた。これとユニコーンの角を合成すれば何かできそうじゃん」
 特技の錬金術からそんな発想をしたゲドーはこの場にいるもう一人のパートナー、シメオン・カタストロフ(しめおん・かたすとろふ)の方を見る。
「お〜い、シメオン、確かユニコーン連れてきてた……って、何してんだ」
 シメオンのやっていることを見てゲドーはつかれた顔をする。
「普通に再調査をするだけではツマリません。折角の機会です、村の資源を増やして差し上げましょう。村は開発途中。なら資源は衣食住に関係するものがよいハズです」
 ゲドーの呼びかけに気づく様子もなくシメオンは自分の行動を続ける。
「まずは衣です。チルーを放ちましょう。チルーは毛皮として使えますからね」
 そう言ってシメオンは数匹のチルーを森に放つ。
「次は食! ちょうど掃いて捨てるほどパラミタシチメンチョウが余ってるのでここに捨てて……もとい、食用として育つよう森にかえしましょう」
 チルーと同じように数えるのが面倒な数のパラミタシチメンチョウをシメオンは森に放つ。
「最後は住です。……住? じゅう…ジュウ……! 獣です! というわけでユニコーンを放っておきましょう」
 そうしてまた一匹のユニコーンが森へと放たれた。
「ふぅ……やはりよいことをするのは気分がいいですね。……ん? ゲドー、どうかしましたか?」
「なんでもね〜よ。救世主サマ」
 皮肉を込めてシメオンをそう呼び、またすることがなくなりゲドーは薬草の調べる作業に移る。そして何故かまじめに調査をしている自分に気づく。
「アレ……もしかしてこのために俺様連れてこられた? ジェンドちゃん狙ってやったわけ?」
 自分につきまとう不幸にゲドーは笑われている気がした。


「へ〜……こんなこともするんだね」
 どこからか紛れ込んだらしいチルーやパラミタシチメンチョウを捕まえたゴブリン達を見て雲入 弥狐(くもいり・みこ)は、そう感嘆の声を上げる。
「生態系を守るためかしらね」
 感心した様子で奥山 沙夢(おくやま・さゆめ)もそう言う。
 二人はゴブリンと一緒に行動を取り、また手伝っていたりした。名目的な理由としては調査や以前の礼。心情的な理由はもっとゴブリン達のことを知り、仲を深めたいといったところだった。そうした経緯で二人はゴブリンと一緒に薬草の警備についたり、そして今いるはずのない動物を捕まえたところだった。
「この子たちどこからきたんだろうね?」
 チルーとパラミタシチメンチョウを見て弥狐は言う。
「分からないけど……この子たちをどうするのかしら?」
 自分の意志でやってきたのなら森の外に出すだけでいいが、このチルーやパラミタシチメンチョウはそのたぐいじゃないだろう。ゴブリン達も困っているようだ。
「ねぇ……弥狐」
「うん。この仕事が終わったらあたしたちでこの子たちが生息しているところに連れて行こう」
 沙夢の呼びかけに弥狐はそう返す。
「ええっと……」
 弥狐の同意を得て、沙夢は身振り手振りでゴブリンにチルーやパラミタシチメンチョウのことは自分たちでどうにかすると伝える。するとどうにか伝わったのかゴブリンはペコリと頭を下げた。
「なんとか伝わったみたいだけど……やっぱり言葉をかわしたいわね」
 ゴブリンの言葉を理解しようと沙夢や弥狐は努力しているが、やはりどうにも難しい。
「うん……前村長さんみたいに…………って、そういえば、前村長さんってどうしてゴブリンの言葉が分かるんだろう?」
「そうね……今度それとなく聞いてみましょうか。もしかしたら私たちも意思疎通できる手段があるかもしれないし」
 そうなる日がくるといい。二人はそう思いまたゴブリン達の手伝いを始めた。

「森の調査は順調……なのかな」
 森の再調査、その様子を考えアテナはそう呟く。
「ここは僕たちだけでも大丈夫だ。君は村に戻って観光してきてもいいんじゃないかな」
 そう言うのはエースだ。
「そうね。大きな問題はないし、森の方は私たちに任せてもらって構わないわ」
 と、沙夢も続く。
「そうでありますな。自分ももう十分ガイドしてもらったし、後は大丈夫であります」
 剛太郎もそう続いた。
 森の調査についている三人(森の調査にはもう一組いるらしいがアテナは何故か会っていない)の言葉にアテナは考えこむ。
「……それじゃ、森はお願いしてもいいかな? アテナは鍾乳洞の方に行ってくるから」
 それだけ言ってアテナは鍾乳洞のある方へ向かっていってしまう。
「……村の方へ戻ることを勧めたつもりだったんだけどね」
「あの子なんだか張り切ってるわね」
「何か理由があるのでありましょうか」
三人はアテナの行動を見てそう言う。
「ところで、ここで一つ問題がでたんだがいいかな?」
 考え込んでも仕方ないとエースはそう切り出す。二人もなんですかと相槌をうった。
「責任者がいなくなったから前村長に報告する人を決めないといけないんだが……」
「報告書の作成は手伝うけど、報告はエースさんに任せるわ」
「で、ありますな。少なくとも、この森に初めてきた自分よりは適任でしょう」
「ふぅ……レディに頼まれたらしかたないな。ちょうど前村長に聞きたいこともあるし引き受けよう」
 そんなやり取りをして三人はまた調査に戻っていく。時間は昼過ぎ、調査が半分終わった所だった。