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君がいないと始まらない!

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君がいないと始まらない!

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「皆さん、お待たせしましたわ……っ!」
 美緒と捜索隊がバタバタと走りながら、稽古場に戻ってきた。
 髪や服が乱れたり汚れたり、荊道でも通ってきたかのようだ。

 美緒が稽古場に姿を見せると、「おおーっ!」と歓声と拍手が沸き起こる。
 皆、無事に戻って来てくれた事が嬉しいのだ。
「あ、あの……っ、わたくし何もしてないのですけど……? 開演もまだですし終わってないですわよね」
 周りのリアクションが派手だったので美緒は目が点になってしまう。
「まだ間に合いますわよ? ほら、時計を見まして」
 ラズィーヤが扇子で指した先の時計は、開演三十分前を切っていた。
「まぁ、こんな時間」
 エンヘドゥは「お帰りなさい」と優しく美緒に微笑んだ。
「首飾りはどうしました?」
「大丈夫ですわ。ずっとわたくしが持っていましたもの」

「美緒さん、大丈夫ですか? 早く着替えて髪もセットしましょう」
 リース・エンデルフィア(りーす・えんでるふぃあ)は直した衣装を持って、美緒を化粧室へと促す。
 何か危険な目にあったのでは、とリースは心配したけれど、美緒はにこりと笑って言う。
「ちょっと埃っぽいところにいて、急いで戻ってきただけですわ。ご心配なく。衣装ありがとう」
「ならよかったです。かぐや姫が帰ってきてくれましたねぇ」
 美緒はなんでかぐや姫なの? と言いたげな顔でリースを見つめる。
 演目はかぐや姫ではないので、変なたとえだ。
「ここは月です。そう考えると月から見たら、大事なお姫様がトラブルに巻き込まれてやっとの事で迎えに行く感じじゃないですか」
「なるほど、そういう例えなんですね。けれど、そうならばわたくしより……」
「どうしました?」
「なんでもありませんわ、あれ、それは……?」
 美緒はリースのポケットからはみ出たピンクダイヤの首かざりをゆび指した。けれど、
「もし無くされたらと思って、予備を。けれど用済みですよねぇ」
 美緒は自衛が出来ても、途中で壊したりなくしたりすることもあるだろう、とリースは予備の首飾りを用意しておいたのだ。
 あはは、とリースは苦笑いするが、美緒は「思いつきましたわ」とそれを渡してくれるよう頼んだ。
「使わせてもらいますわ。こちらはステージで壊しても構いませんか?」
「はい。けれど台本にありましたっけ?」
「ふふ、サプライズですわ」

「サイズどうですかー?」
 杜守 柚(ともり・ゆず)は別室に顔を出し、直したキロスの衣装のサイズ確認をしに来た。
 切り刻まれた衣装はリースと柚でだいたいは修復、作り直しをした。開演に間に合ってほっとしている。
「おう、結構ぴったりだぜ。動いても問題ねぇ」
 キロスは着た上で腕を伸ばしたり曲げたりしている。よく動く役柄だし、柚はせっかくだからと素材にもこだわった。
「うわぁ、すごい色。派手すぎるんじゃないの?」
「うるせぇっ! これぐらいがちょうどいいんだぜ」
 茶化す香菜に受け答えするキロス。この二人が面白いと柚は少し笑った。
 赤い髪に、光に反射するような素材は確かに派手だけれど、滑稽に見えないのがきちんと着こなしてる証拠だろう。
「次はお二人のコメディ、なんてのもいいですよね」
 見てみたいなと柚が呟くと、あっさりと「無い」と言われてしまった。けれどこういう舞台は好きだろうしなりゆきで誰かが企画してくれれば有りかもしれない。