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リアクション
同時刻 シャンバラ教導団 本校
「自分以外は敵に見える……ということは、『一人乗り』イコンでないといかないわけだが、安全性は?」
話を聴く相手を待つ間、椅子に腰かけたトマス・ファーニナル(とます・ふぁーになる)は仲間に問いかけた。
上層部への聞き込みを決意したトマス隊の面々。
『偽りの大敵事件』を調べてきた彼等は、遂に上層部に話を聴く所までこぎつけたのだ。
「あんな恐ろしい欠陥のあるシステム開発を上層部が推進したとは思えない」
トマスが言うと、まず真っ先に頷いたのは魯粛 子敬(ろしゅく・しけい)だ。
「イコンが標準二人乗りなのは何故か?」
魯粛はそう前置きすると、ゆっくりと語り始める。
「地球人とパラミタの契約者の二人で取り扱う事が機体の性能を最大限に引き出しうるのが第一の理由としては上げられますが、他には、乗務員の一方に異常事態が発生した場合にでも、無難に緊急退避しイコン自体の破損を免れさせ二次被害を引き起こさない、生きた安全装置としての役割が乗務員のそれぞれに課されているものと考えます」
その説明には異論がないのか、三人は静かに頷く。
「イコン自体も重要な資産ですが、優れたパイロットも重要な財産と考えるなら、九校連上層部が「一人乗りのイコン」の開発を推進する必然性は少ない。なぜなら、石橋を叩いて渡る慎重さが、校長たちの特性であり長所だからです。勝負時の思い切りの良さ、はまた別の次元ですからな」
次いでテノーリオ・メイベア(てのーりお・めいべあ)が口を開き、魯粛に同調する。
「魯先生の言も尤もだ。イコンパイロットを一人だけで搭乗させるとする。安全的な意味で脆弱だし、危険性を考えた場合の経済的ロスも大きい。
そんな方向でのイコンシステム開発を上層部がGOサインを出すか?」
問いかけるように言ってから、間髪入れずにテノーリオは続ける。
「件のようなシステム的欠陥を持ったイコン操縦システムが「自分以外を全て敵と認識する」以上、同乗者とはいえ同じ機体のパイロットが最も身近な『仮想敵』として認識される。テストパイロットも学生一名だったというのは、一人用に開発したからだろう」
そこまで語ると、テノーリオは静かに付け加えた。
「一人用機体の導入必要性を九校連の首脳部が持っていたならイコンサークルがその意向に従った可能性は高いが? まぁ、それに関して今日、直接確認を取りにきたわけだが。疚しい事のない者は、正々堂々と語るだろう」
仲間達はその言葉に一斉に頷く。
ややあって、今度はミカエラ・ウォーレンシュタット(みかえら・うぉーれんしゅたっと)が口火を切った。
「テストパイロットは死亡したにせよ、サークルの他の構成員は事件によって死亡した訳ではありませんね?」
仲間達と一緒にしばらく考え込んだ後、ミカエラは続ける。
「証拠隠滅の為に消されたとしても、完全に痕跡を消去する事は不可能です。イコンサークルの軌跡と痕跡、もし一部でも形を変えて活動が続いているのなら、そのメンバーを追いかけましょう」
仲間達に頷きかけ、ミカエラは更に言った。
「イリーナ中尉の言が本当なら、メンバーが生存している事自体ありえません。九校連のトップの方々は、必要があるならば非常にもなれる方々揃いですからね」
そしてミカエラは最後の言葉は胸中でだけ言う。
(……甘ちゃんの、トマスとは違って)
するとトマスも再び口を開いた。
「イリーナ中尉の言葉は、全面的には信頼できないだろう。が、なにか『ある真実』の側面を切り取って主観的に認識せしめたものが『ある』から、彼女は自身の告白を『真実である』と確信している。記録に残されている『真実』と『彼女の真実』の齟齬がどこから、何が原因で生じたかを解き明かさねば。もしも間違った憎しみに囚われているなら、そこからイリーナ中尉を解き放たなくては」
決意のこもった声で言うトマス。
その後、彼は続けて口を開いた。
「それと件のイコンについてだけど、イコンはウォーストライダーのような例外を除いて二人乗りが基準である事についての考察は首脳部でも十分になされていると思うが、どうだろう?」
その疑問にトマス隊の仲間が口を開こうとした時だった。
ドアが開き、上層部の人間である高官一人で入って来る。
トマス隊の面々は全員が立ち上がると、直立不動の姿勢で敬礼する。
そして、トマス隊を代表し、隊長であるトマスが高官の前に歩み出る。
「僕もまた軍人です。上官の命には、従います。その上で尚、小官の取りまとめた報告結果に基づく小官の意見を事前に述べる事をお許し下さい」
その言葉に静かに頷く高官。
こうして上層部への聞き込みは始まった。
だが、得られた返答はやはり、「『偽りの大敵事件』など事実無根」というものだった。
そして、件のイコンに関しても、上層部がそんなリスクの高いものをおいそれと採択するとは考えにくいと答えた高官。
しかしながら、高官はこうも付け加えた。
――それはあくまで『組織として』の考えであって、私以外の個人が『個人として』興味を示す可能性はあるかもしれない、と。