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雲海の華

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雲海の華

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続4

「扶桑の爆発、凄かったぜ」
「お帰りー、シリウス」
「へへっ、ただいまサビク」
「ボクも見てくればよかったなー」
「次はオレと、一緒に観てこようぜ」
「うんっ」
 伊勢のイコン格納庫へ戻ってきたシリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)は、既に起動シーケンスを終えて待機状態の(読み:シュヴェルト・ドライツェン)シュヴェルト13へと乗り込んだ。
「出発するか。まずは渦の中心を調べようぜ」
「はーい。トリニティ・システム、スイッチ、オーン」
 メイン・パイロットであるサビク・オルタナティヴ(さびく・おるたなてぃぶ)によって、シュヴェルト13が息を吹き返した。
「プライマリー・リアクター、セカンダリー・リアクター、ターシャリー・リアクター、すべて良好でーす。機晶フィールド展開っ、効率78.24パーセント」
 ここでいう効率とは、生粋の次世代型イコンの評価性能比を表したものである。
「0.57パーセント改善か。まだまだイケそうなんだが……ベースになってるイーグリットへあまり鞭を入れてやるのも、気が引けるか」
「残りの21.76パーセントは、ボクが頑張るもんっ」
「おう。評価性能の3割増しになるよう、オレも気合い入れてサポートするからな。よしっ、準備完了だっ」
「ブリッジに連絡するよ。シュヴェルト13、発進しまーす」
「こちらブリッジ、了解したであります」
「シュヴェルト13、電磁カタパルトの使用を許可します。どうかご武運を」

▼△▼△▼△▼




 風を味方につけるように螺旋を描いて渦の中心へと降下したシュヴェルト13は、異界から噴き出す沼気に圧倒されていた。
 異界から巨大デーモンが沸き立つのを発見次第、破岩突による体当たりで魔獣の身体を引きちぎってく。
 やがて荷電粒子砲によってアメ細工のようにねじ曲がった扶桑の船体フレームの上に、サビクはイコンを着地させた。
「扶桑の残骸を伝えば、異界まで降りられそうだよっ。だけど、危ないからやめた方がいいねっ」
「ああ。それに、このあたりに長居すると、機晶エネルギーをどんどん消耗しそうだ。外はかなりの風が吹き荒れてるぞ。姿勢を維持するために、かなりの負荷が掛かってる」
 上空から舞い戻ってきた巨大デーモンに対して、シリウスは頭部に装備されているバルカン砲を掃射した。
 翼膜を引き裂かれた魔獣は飛行能力を失い、扶桑の瓦礫へ吹き飛ばされて串刺しとなる。
「サビク、上昇だ。扶桑の突端まで飛ぼう」
 渦の中心から浮上したデーモンが黒煙ブレスを噴きださんと口を開いたところへ、サビクがウィッチ・クラフト・ライフルの片手打ちで魔獣の頭部を撃ち抜いた。
「分かったー。上昇するねっ」
「――いや待ったっ! これは……レーダーの故障か? 渦の中から生体反応アリだ」
「ホントなのっ? 雲海の近くを調査している、別の人とかじゃないのかな?」
 人間らしい生体反応は、明らかに異世界からのものだった。
「いや、間違いないみたいだぞ。イコンの装甲もなしでザナドゥへ降りられるなんて、一体どんなヤツなのか。惜しいな……降りて調べてみたかった。異界での運用に耐えられる構造に、いつかコイツを改修してやりたい……」
「うーん、残念」
「んまあ……仕方ないさ。ともかく上がろう」
 船体フレームから伸びた鋼材を足場に、シュヴェルト13で跳躍を繰り返したサビクは、扶桑の最上端へと上り詰めた。
「それじゃあさ、別の場所を探そうよっ」
「そうするか。状況がどうなっているのか、把握する必要があるな」
 ブラックバードと交信を試みたシリウスは、これまでの調査を報告した。
「作戦区域内に現存するデーモンは、レーダーに捕捉されているものだけで688。そのうちの137が、シャンバラ地方を目指して北上中」
「ヴァイシャリーにもデーモンが迫ってるってコトか……」
「えっ!? 早く助けに行かなきゃっ。百合園女学院も危ないってことだよね?」
「アイランド・イーリの空戦部隊が目下のところ応戦中。また、近傍に機動要塞アリ。間もなく会敵の後、合流。貴イコンはその場で状況を継続し、作戦宙域に多数点在する攻撃目標のせん滅に尽力せよ」
「うーん、わかった。シリウスと一緒にボクらが頑張ってデーモンを倒していけば、百合園女学院は安全ってコトだよね」
「確かにサビクの言うとおりなんだけどさあ……いつまで続くんだこの戦い。そこが気になってなあ」
「大渦に関する調査は継続中の模様」
「模様ってなんだよ、ハッキリしないなあ」
「大渦からのノイズと空間歪曲の影響により、調査隊との交信は不能」
「……そこんトコロは、お約束か」
「シリウス、やるだけやってみようよっ。百合園女学院のみんなを守りたくて、ココまで来たんだもんっ」
「おし、その心意気を買ってやるよ。ひと暴れして、機動要塞へ帰るかっ。トリニティ・システムのリミッターを引き上げるぞ」
「了解っ。よーし……ボク頑張るよ」
「リアクターのオーバーヒートには気をつけてくれ。まあ、オレが管理してるからまず平気だけどな」
「落っこちたら底なしって、ちょっと怖いよねっ。えへへっ……」
 シリウスへはにかんでみせたサビクは、手のひらで頬をペシャペシャと叩いて、気分を切り替えた。