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血塗られた屋敷の幽霊少女

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血塗られた屋敷の幽霊少女

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一章 血に染まった御屋敷



「おかしいな…人が来た形跡はあるんだが……」
 大洞 剛太郎(おおほら・ごうたろう)は行方不明者が向かったという屋敷を訪れていた。
 一通り部屋を見て回ったのだが、人間どころか獣一匹見つけることができなかった。
「あら、これは……」
 鮎川 望美(あゆかわ・のぞみ)が屈んで何かを拾い上げる。
 それは小さなヘアピンだった。
「子供用のようだが、何故こんな所に」
 ヘアピンが落ちていたのは大きな鏡の前である。それ以外に周囲に目立つものは無い。
 望美はヘアピンを剛太郎に渡すと、鏡を調べ始める。片腕にはコーディリア・ブラウン(こーでぃりあ・ぶらうん)がしっかりとしがみついていた。
「どうですか、望美様」
「んー、特に何も読み取れないけど……」 
 そう言って鏡から手を離そうとした瞬間。
「きゃっ!」
「ひゃぁっ!」
 突然望美の腕が鏡の中に吸い込まれた。腕にしがみついていたコーディリアも巻き込まれる。
「望美!?」
 急ぎ手を伸ばす剛太郎。辛うじてコーディリアの手を掴んだものの引き止めることは出来ず、逆に彼も鏡の中に引きずり込まれた。
「あいたた…」
 勢いよく地面に倒れこんでしまった望美がコーディリアに支えられ立ち上がる。
「ここは…鏡の中なのか?」
 剛太郎は辺りを見回す。先程までいた場所とまったく同じ作りの部屋なのだが、床や壁の至る所に血痕が飛び散っていた。
「ち、血がいっぱい……」
 望美にしがみついたコーディリアが消え入りそうな声で言った。袖を握る手は震えている。
「油断しちゃったわね…ごめんなさい。戻れないみたいだし、これからどうする?」
 鏡に触れても再び吸い込まれることは無く、どうやら元の場所には戻れないようだ。剛太郎は光条刀を顕現させると、部屋の入り口から注意深く外を窺う。
「とりあえず、屋敷を見て回るであります。鏡の中に捕らわれているのだとしたら人の姿が無かったことにも説明が付く。二人は自分の後ろについてくるように。後方の警戒を頼むであります」
 三人は部屋を出て、屋敷内部の探索を始める。


「お宝お宝〜っと♪」
 その頃、鏡の外の屋敷にてあちこちの棚を漁る一人の人間がいた。
 湯浅 忍(ゆあさ・しのぶ)はタンスの棚を全て引っくり返し、溜息をつく。
「ここにも無いか…やっぱ盗賊にでも全部持っていかれちまったかねえ」
 金持ちの屋敷だったのなら宝石の一つや二つ残ってるかも知れない。そう思いこの廃屋敷を訪れたのだが、一つとして見つけられずにいた。
「お、この鏡の装飾外れそうだな」
 鏡のふちに小さな宝石で装飾がしてあることに気付いた忍は、それを外そうと試みる。
「くそっ、外れねぇ…うおあっ!?」
 いきなり背後から突き飛ばされ、忍の目前に鏡面が迫る。目を閉じて衝突を覚悟するが、鏡にぶつかることはなく、代わりに地面へ不恰好に倒れこんだ。
「痛つつ…っ。誰だいきなり人を突き飛ばしたのは!?」
 憤り振り向く忍。しかし、目前にあるのは一枚の鏡だけ。
 その鏡に映った自分の顔が、ニタァ、と邪悪な笑みを浮かべた。
「ぃ……!?」
 さっきまでの剣幕は何処へやら、顔が青ざめて言葉も出ない忍。
 鏡に映った自分がゆっくりと首元に手を伸ばしてくる。
「ぎゃああああああっ!!!!」
 振り向きざま全速力で駆け出す忍。

 どれくらい走っただろうか。
 前方に人影を見つけ、助けてくれ、と言おうとした所に……。
「ひぃっ!?」
 振り向いた人影は銃口を忍へと向ける。撃たれる、と思った刹那、銃を持つ人影に背後から何者かが襲いかかった。
「偽物が…やはり悪さをしていたか」
 光条刀の一振りで、剛太郎の偽物は塵と化した。
「迷い込んでいる者が他にも居たでありますね。怪我は無いでありますか?」
「あ、ああ。大丈夫だ、ありがとう」
 ほっと胸を撫で下ろす忍。



 屋敷の中に、発砲音が響き渡る。一瞬遅れて何かが砕け散るような音も聞こえていた。
「ったく、何て数だよ」
 鏡を次々と撃ちぬいていくビリー・ザ・キッド(びりー・ざきっど)
「ここの主はよっぽど容姿に自信があったのかな。それとも何か鏡に深い思い入れでもあったんだろうか」
「さあねえ。ただのナルシストだったんじゃねぇの?」
 堀河 一寿(ほりかわ・かずひさ)と会話しながら、銃弾は撃ち込まれていく。
 その時、銃弾の一つが鏡を割ることなく鏡面へと吸い込まれた。
「っ、何だ?」
 見た目は普通の鏡である。しかし、よく見れば鏡面に自分達の姿が映っていない。代わりに映っているのは血に染まった廊下と、赤い液体で書かれた「ヤメロ」の文字。
 その時、別の鏡から何かが飛び出してきた。
 そちらへと振り向きざま引き金を引くビリー。現れたのはビリーの姿をした何かだった。偽物のビリーは氷術で床一面を凍らせると同時に、額を銃弾につらぬかれ霧散して消えた。
「今のが噂のドッペルゲンガーか…ってうおっ?!」
 足元が消えてなくなる間隔に、驚いた声を上げるビリー。二人の体は床をすり抜け。そしてすぐに着地した。
「な、何が起こったんだ?」
「氷だ」
 一寿は冷静に状況を見ていた。
「床の氷が鏡と同じ役割をしたんじゃないかな。床に吸い込まれる直前、氷に自分達の姿が映ってるのが見えたよ」
「ちくしょう! それじゃここは鏡の中ってことか……」
 周囲は至る所に血痕が飛び散っており、先程までいた古ぼけた屋敷と同じ場所とは思えなかった。
 その時、遠くから甲高い悲鳴が聞こえてくる。
「もしかしたら行方不明になった人かもしれない。行こう!」
 駆け出す一寿。
 廊下の角を曲がろうとしたときである。角から二つの人影が飛び出してきた。
「っと、人間……か?」
 反射的に銃を向けたビリーだったが、引き金を引くことなく銃を下ろした。
「あなたたちは…?」
「悲鳴が聞こえたから走ってきたんだ。君達もかい?」
 一寿の問いにサイアス・カドラティ(さいあす・かどらてぃ)は頷く。
「鏡の中から悲鳴が聞こえたので急いで飛び込んだんですが……」
 その時、屋敷内に再び悲鳴が。
「上よ!」
 ルナ・シャリウス(るな・しゃりうす)が叫び近くの階段へと駆ける。
 四人が階段を上ると、廊下に一人の女性が倒れていた。廊下の奥から、彼女が悲鳴を上げて逃げなければならなかった原因が迫ってきている。
「幽霊か…!」
 宙に浮かぶ幽霊達の顔は苦痛に歪んでいた。
「オオオオオオ…………!」
 怨嗟の声とともに迫る幽霊達。
 ビリーが銃弾を放つが、実体の無い幽霊達には当たらない。
「二人とも下がってください! ルナ!」
「任せて!」
 ルナが両手から眩い閃光を放つ。
 強烈な光を受けた幽霊達は一際大きな唸り声を上げると、その姿が薄れていきやがて消滅した。
「大丈夫ですか?」
 倒れていた女性を助け起こし、サイアスが優しく声を掛ける。
「あ、ありがとうございます、ありがとうございます…! もう、殺されるかと思った……!」
 安心したからか、泣き出してしまう女性。ルナがそっと寄り添い、その背を優しくさする。
 
女性が落ち着いた頃を見計らって、サイアスが問いかける。
「他に誰か見かけませんでしたか? 小さな子供もここに来ているはずなんです」
「分かりません…。突然鏡の中に引き込まれて、その時に友達とも離れ離れになって……そうしてすぐにあの幽霊達に追いかけられて、ずっと隠れて逃げていたんです……」
「そうですか…」
「やっぱり、地道に探すしかないわね……きっとこの屋敷のどこかにいるはずよ。早く見つけないと。それに、外に出る方法も考えないといけないわ」
「そうですね、急ぎましょう。もしかしたら、どこかで隠れて救助を待ってるかもしれない」