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2023春のSSシナリオ

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 某日 AM 6:43 迅竜艦内

「おしっ! 非戦闘時の今こそ、俺達の出番だぜ!」

 戦闘時のようにパイロットスーツではなく、今日はメイド服を纏った朝霧 垂(あさぎり・しづり)
 朝早く、迅竜の格納庫で彼女は威勢の良い声を上げた。
 声をかける相手は、彼女の眼前に立ち並ぶ少女達だ。
 やはり彼女達も、垂と同じくメイド服を纏っている。

「「「承知しました」」」
 それに対し、少女達は丁寧な口調で返事をする。
 
 垂および彼女の率いるメイド部隊。
 彼女達の朝は早い。

 ザンスカールでの戦闘より一日。
 修理と補給を兼ねてヒラニプラに寄港した迅竜。
 非戦闘時ということもあって、今の迅竜は束の間の安息の時を迎えていた。
 
 エッシェンバッハ派が戦力を送り込んでくることもなく、他の驚異も今のところはないようだ。
 だからといって、迅竜クルーすべてが休んでいるというわけではない。
 
 こういう時だからこそ、戦う者もいるのだ。
 それこそが彼女達。
 ――垂とメイド部隊である。

 連戦中の迅竜にとって束の間の非戦闘時。
 その時にしか、やれないこともある。

「戦闘中にはできないからな、やれる時にやっておかないと」
 メイド部隊の面々に言い聞かせる垂。
 
「艦内清掃、洗濯、それに必要物資の補給。今日はそれを全部片づけるぜ!」
 やはり威勢良く指示を出す垂。
 そのまま彼女は分担などの事細かな指示もてきぱきと出していく。
「それじゃ、今言った通りの流れで早速、取りかかってくれ!」
 それにメイド部隊も応える。
「「「承知しました」」」
 丁寧な所作で一礼するとメイド部隊。
 直後、彼女達は手慣れた様子で各々の持ち場へと向かっていく。

「うしっ! 俺もやるかな! まずはブリッジ内の清掃だな――」

 メイド部隊達を見届けた後、垂も動く。
 掃除用具一式を持ち、垂はブリッジへと向かう。
 
 手早くブリッジの床をモップ掛けする垂。
 続いて彼女はてきぱきとはたきをかけていく。
 そして仕上げに入念な拭き掃除によって磨き上げる。
 その動きは手慣れたものだ。
 イコンパイロットとしてだけでなく、メイドとしても一流。
 それが朝霧垂だ。

 オペレータ席や火器管制官席を掃除し終え、垂は艦長席の清掃へと着手した。
 ちりとりをかけおえ、拭き掃除も完了した垂。
 ふと彼女は艦長席のイスに目を留める。

 彼女は何かを思い立った様子でイスへと座る。
 そしておもむろに彼女は凛とした声で叫んだ。

「全砲門、開けッ! 目標敵母艦ッ!! ってー! ……な〜んてな」
 おどけてみせた後に笑う垂。
 そこまでは良かったのだが――。

「……ッ!?」
 視線を感じて振り返る垂。
 その咲にはメイド部隊の一人が立っていた。
「……どうした?」
 驚いた様子をひた隠しにしつつ問いかける垂。
 一方、メイドの少女は、垂の様子から何かを感じ取ったのだろう。
 緊張した面持ちと、固い声音で答える。
「私の担当だった所の清掃が終わりましたので、お手伝いをと思いまして」
 小さく頷く垂。
 そして、垂はやたらゆっくりとした口調で再び問いかけた。
「見たのか?」
 垂の問いかけからただならぬ雰囲気を察した少女。
 彼女は更に緊張を高めながら答える。
「い、いえっ! 見ておりません!」
 
 そこまで問いかけると、垂はやおら表情を崩す。
 心なしか、その表情は照れくさそうだ。
 見れば、ほのかにだが、頬を赤らめている。

「その……なんだ……もし、もしだぞ。もし、何かを見てたとしても、迅竜クルーの面々はもちろん、メイド部隊のみんなには内緒だからな」
 恥ずかしそうに垂は言い終える。
 すると少女は弾かれたように一礼しつつ答えた。
「しょ……しょ、承知しましたっ!」

 選りすぐりの戦力が集まり、各校のエースが乗り込む九校連共有の母艦にして、それ自体も高い戦闘力を有する超弩級高速飛空艦――迅竜。
 エッシェンバッハ派が送り込んでくる強力な機体からなる部隊と連戦し、毎回激戦を繰り広げる、まさに最前線の戦艦。

 だが、その迅竜といえど、非戦闘時の艦内は平和である。
 願わくば、この平和な時が少しでも長く続かんことを。