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Dearフェイ

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Dearフェイ

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 プロローグ
 
 
 気分が滅入るような今にも雨が降り出しそうな雲が覆っているが、イングリット・ネルソン(いんぐりっと・ねるそん)はどこか楽しそうに見慣れた街並みにカツカツと小気味よいブーツの音を響かせた。
 最近は修行という名目上だけの小旅行に出るのもすっかり慣れてしまい、以前よりも出かけるときの荷物が少なくなった気がする。昔は着るか着ないか分からないものまで散々詰め込んでいったのでかなりの荷物になっていたのだが、今ではすっかり軽装備だ。
 そんなイングリットがお土産を渡そうとツェツィーリア・オーウェンの屋敷を訪ねた時のことだった。
 せっかくのティータイムだというのに、友人は浮かない顔をしている。
 もともとツェツィは病弱であまりはしゃぐような方ではないが、その顔はヴァイシャリーを包む空模様のようにひどく悲しげだ。

「……フェイが、いなくなってしまったの」

 理由を聞けば、大好きなフェイが姿を消してしまったらしい。
 真っ白でツヤツヤな毛並みのペルシャ猫は、ツェツィが幼い頃からともに育ってきた大事な家族だ。イングリットは遊びに来るたびにそのふわふわな毛並みを触っていたし、首もとについた鈴は涼しげで深みのある音を響かせるので、その音を聞くのが好きだった。
 そんな愛らしい姿が忽然と消え、再びツェツィの前にその姿を現した時には、巷で噂になっている幽霊に出会ったらしい。しかも驚くことに、幽霊が彼女に何か言葉を投げかけた後から彼女の周りで怪現象が起こっているというではないか。
 以前から幽霊を見たという話はちらほらと耳にしたことがあるのだが、最近はヴァイシャリーの街のあちこちで物がなくなったり、物の場所が移動していたりと幽霊騒ぎが起きている。しかも『雨の日は必ずどこかの家で猫がいなくなる』という噂も流れ、実際に街中の飼い猫たちが姿を眩ましているらしいとのことだった。
 実際にフェイがいなくなってしまったのも雨の日で、街中には『尋ね猫』のポスターもかなり増え、噂の信憑性は増すばかりだ。
 すっかり落ち込んでしまった大事な友人のために何とかしてあげたいという気持ちも大きいが、それと同じくらいの好奇心がイングリットの頭の中で所狭しとひしめき合っていた。

「わたくしがフェイを見つけて差し上げますわ」

 そう高らかに宣言してイングリットはさっそく行動に移ることにした。

「まずは……人員調達と参りましょうか」

 ニヤリと不敵な笑みを浮かべて、イングリットの脳細胞が推理モードへと少しずつ切り替わっていくのであった。