薔薇の学舎へ

波羅蜜多実業高等学校

校長室

葦原明倫館へ

ジューンプライド

リアクション公開中!

ジューンプライド

リアクション

――試合開始から五分が経過。開始早々ゆかりとマリエッタタッグによる奇襲の様な攻撃から、他のチームも徐々に乱されそうになったペースを自分の物へと持ってきていた。
 美羽、コハクタッグの場合は美羽がナックルパートでペースを掴み、乱れそうになるとコハクが打点の高いドロップキックで取り戻すというコンビネーションを見せていた。コハクの経験の少なさは運動神経によってカバーしているようである。
 涼介、ミリィタッグの場合、ミリィが子供故ピンチに陥る事も多々あったが、親子である分チームワークは他のチームに劣らない。またミリィも大人顔負けのスパインバスターといった技でペースを取り戻し、涼介もDDTなどに加え、所々椅子を使った攻撃でダメージを蓄積させていっていた。
 陽一、理子タッグの場合、陽一が的確に手足にダメージを与える事により相手の機動力を下げ、理子が所々で木刀を使った攻撃でダメージを与えていく。メインの行動は理子が取り、陽一が援護を行うというスタイルである。隙があればケースを狙っているようだが、中々そのチャンスに恵まれていない。
 そしてゆかりとマリエッタの場合、開始から一貫してブレない他の参加者=リア充を潰す、というスタイルであった。
 とにかく相手を潰す、という事だけを狙い、技はダメージを与える大技を積極的に狙っていった。更にマリエッタは足技メイン、と見せかけ要所要所で手技や投げ技へとスイッチを繰り返し、相手のペースを乱すことに成功していた。
 相手を倒してからケースを獲得することを狙う美羽タッグと涼介タッグ、隙を狙い一気に獲得したい陽一タッグ、とにかくリア充を潰したいゆかりタッグ。それぞれのタッグの思惑が入り乱れ、リング上も荒れに荒れていた。

『開始から早五分が経過しました! しかしまだどのチームもケースを狙いに行っていない!』
『リング上は相当な荒れ模様。どのチームが勝つかは全く予想がつかない』
『攻守目まぐるしいリング上、果たしてどのチームがケース内の権利書を手にするのか!』

「……ああもう! さっきからやられっぱなしじゃないの!」
 観客席、酒杜 美由子(さかもり・みゆこ)が歯痒い様子を隠さずに大声を出す。
 先程から陽一、理子のタッグが劣勢に陥っていたのである。プロレス経験のある者がいるチームに、完全に潰しに来ているチームが相手となると流石にこの二人も中々ペースを掴めない。
「このままじゃ負けちゃうじゃないの……もぉ!」
 美由子が思わず、席から立ち上がる。
「人に内緒で将来誓い合っておきながら負けるだなんて許さないわよ! その程度なの!? もっと根性みせなさいよぉぉぉぉッ!」
 そして、陽一と理子に脇目も振らず叫んだのであった。

「はぁッ!」
 コハクがドロップキックで陽一を倒すと、すかさずうつ伏せに返し、足をクロスさせてからのキャメルクラッチ、レッドインクで搾り上げる。
「っく……ッ!」
 陽一が堪える様にコハクの手を掴む。レッドインクは完全には極まっていない為、ダメージは余りない。
 技を極めたいコハクと、技を極めさせたくない陽一。その拮抗状態を打ち破ったのは、マリエッタであった。
 背後からストンピングで技を解くと、コハクの身体に腕を回しジャーマンの形でクラッチする。
「うわっ……っと!」
 だがコハクも投げられまいと腰を落とし耐える。その後ろでは、
「沈めぇッ!」
テーブルに寝かされた理子に叩きつけるように、ゆかりがミリィにパワーボムを仕掛けていた。テーブルは耐え切れず二つに折れ、理子とミリィが重なる様にダウンする。
 その光景を見届けると、ゆかりがマリエッタの背後に近づき、彼女を同じようにジャーマンの形にクラッチする。
「いきますよ、マリー!」
 ゆかりはそう叫ぶと、コハクを抱えたままのマリエッタを持ち上げ、身体を反らす。パートナーごと相手を投げるジャーマン、眉山であった。

『何処にそんな力があるというのか! ゆかり選手、マリエッタ選手ごとコハク選手に眉山を決めたぁーッ!』
『しかしこの技は諸刃の剣。マリエッタ選手もダメージを受けた』
『リング上だけではなく、リング下でも試合は繰り広げられています!』

 リング下では、涼介と美羽が対峙していた。状況としては、涼介が優位に立っていた。
 涼介の【凶器用パイプ椅子】で鳩尾を突かれた美羽が蹲る。
「せぇやぁッ!」
 その背中に、叩きつけるように椅子を振り下ろす。
「く……はぁ……ッ!」
 美羽の顔が苦痛に歪み、膝を着く。更に追い打ちをかけようと、美羽の頭を涼介は掴む。が、
「いぃやぁッ!」
美羽は立ち上がると、涼介の首元に袈裟斬りチョップを叩きこんだ。思わぬ攻撃によろけた涼介に、更に美羽は両手を合わせてハンマーのように振り上げた。狙いは顔面であったが、少しずれ胸元に拳は叩き込まれる。
「くっ……!」
 今度は涼介が膝を着く。その隙に、美羽は足元に転がっていたチェーンを腕に巻きつける。そして涼介に向かって駆けだした。
「くらえぇッ!」
 チェーンを巻いた腕を、涼介に振う。咄嗟に椅子を構える涼介だが、美羽はお構いなしに体を浴びせる様にしてラリアットを叩きつけた。
「ぐぁッ!」
 椅子ごと吹き飛ばされる涼介。美羽は涼介がダウンしたのを見ると、すぐにリングへと駆け上がる。
「よぉくもコハクをぉッ!」
 そして勢いそのままにゆかりにチェーンラリアットを叩きこんだ。咄嗟に対応できず、吹き飛ばされるゆかり。
 美羽の勢いは止まらない。ダウンしたままのマリエッタを起き上がらせると、コーナーへと叩きつけリングに背を向ける様に持ち上げる。
 そして自分もコーナーに上がると、ロープへ足をフックさせた後、マリエッタの胴体に腕を巻きつける。
「てぇぇいッ!」
 そしてマリエッタを後方へと放り投げる。美羽の身体はロープにぶら下がるように宙吊りに残り、マリエッタの身体だけがリングへと叩きつけられる。
 そのまま腹筋を使い起き上がった美羽は、フックを外してリング内へと向き直ると、今度は着地を考えない両足でのニードロップ、キングコングニーで飛び降りた。
「がはッ!」
 美羽の膝をまともに食らったマリエッタから苦悶の声が漏れると大の字になる。そのまま立ち上がる美羽だったが、
「せぇりゃあッ!」
いつの間にか設置した梯子の上から、両手を広げてゆかりが降ってきた。今度はゆかりのダイビングボディアタックを美羽がまともに食らう番であった。
 まともに食らった美羽は堪え切れず背中からリングに叩きつけられる。だがゆかりのダメージも少なくないのか、美羽に被さったまま中々起きようとはしない。

『目まぐるしく変わる攻守! その結末は美羽選手とゆかり選手のダブルノックアウト! どちらもすぐには立ち上がれない!』
『ゆかり選手もチェーンラリアットのダメージが思いの外深かったみたい。すぐには立ち上がれない』
『おっと、そんな中陽一選手が立ち上がり理子選手に手を貸して起き上がらせる!』

 陽一が理子に「大丈夫?」と手を貸すと、少し顔を顰めつつも立ち上がった。
「ったた……ホント容赦ないよあの二人……」
「それより、他がダウンしている今がチャンスだ。やれる?」
 陽一が梯子に目をやると、理子は頷いた。それを確認すると陽一はこっそりと【大天使の翼】をかける。
「うん、これで少しは動きやすくなったわ」
「よし、作戦通りいこう」
 そう言うと陽一が少し屈む。このような場面になった場合、理子と陽一はお互いに作戦を決めていた。それは陽一が土台となり、理子を持ち上げてケースまでの距離を稼ぐというものであった。
 陽一の掌に理子が足をかけて上がる。
「逃がしませんよ!」
 だが、そこに復活したゆかりが邪魔をしようと寄ってきた。
「……まさかここまで予想通りとは」
 それを見て理子が呆れたように溜息を吐いた。
「まあまあ……それじゃ理子さん、予定通りやろうか」
 陽一の言葉に理子は頷く。そしてその場から飛び上がり、身体を捻りながらゆかりの背後へと着地した。
「な……ッ!?」
「「食らえぇッ!」」
 驚くゆかりに、理子と陽一がほぼ同時にハイキックを放つ。咄嗟にガードしたものの、威力を抑えきれずゆかりがその場に崩れ落ちる。
 その姿を確認すると、再度理子は陽一の手に足をかけて上った。そのまま梯子に手をかけ、よじ登ろうとする。
「「させるかぁッ!」」
 そんな二人に、猛スピードで復活した美羽とコハクが駆けてくる。【バーストダッシュ】によるスピードの勢いそのままに、美羽とコハクは二人同時に跳び上がりドロップキックを放つ。
「く……うわッ!」
 スピードにより加わった威力に、梯子ごと理子と陽一が吹き飛ばされる。梯子はそのままロープに引っかかりリングに残ったが、理子と陽一は場外へと転落する。
「コハク! チャンスだよ! 行っちゃえ!」
 美羽の言葉にコハクは頷き、梯子を立てようと近寄ろうとする。
「甘いッ!」
 そんなコハクに涼介のスウィートチンミュージックが襲い掛かる。顔面を蹴り上げられ、コハクが吹っ飛ばされた。
「コハク!?」
「自分を心配なさった方がいいですわよ!?」
 動きが止まった美羽に、ミリィの飛びつき式ダイヤモンドカッター、MKOが決まる。叩きつけられ、美羽が大の字になった。
「よし! さあミリィ!」
 梯子を立てかけると、涼介はミリィに上るよう指示する。
「はいお父様!」
 ミリィは指示に従い、梯子を設置し上りだす。
 涼介は大の字になった美羽とコハクを引っ張り、並べた。そしてその横に【凶器用パイプ椅子】を開き、上ると二人に向かってムーンサルトプレスを放った。高さは無いが追い打ちとしては十分な威力である。
 その隙にミリィは梯子を駆け上り、最上段に立つと真上にぶら下がるアタッシュケースに飛びついた。その体重に、ケースの固定が外れる。
 ケースを抱えたまま落下するミリィ。そして背中からリングへ着地する。一瞬息が止まったが、ケースはしっかりと抱きかかえていた。
 この瞬間、試合の勝者が決まった。

『試合終了のゴングが鳴り響く! 激闘を制したのは涼介、ミリィタッグ! 最後にミリィ選手がケースを手に入れた!』
『他の選手も惜しかった。誰が勝っていてもおかしくない』
『ミリィ選手、誇らしげにケースを掲げています! タッグマッチ、権利書を手に入れたのは涼介、ミリィタッグでした! さて、この後は試合の形式はシングルマッチへと変わります。リング変更のお時間を頂くので、少々お待ちください!』