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温泉と鍋と妖怪でほっこりしよう

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温泉と鍋と妖怪でほっこりしよう

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 廊下。

「せっかく、混浴があるからそっちに行こうよ」
 温泉に向かう道々鮎川 望美(あゆかわ・のぞみ)は隣の大洞 剛太郎(おおほら・ごうたろう)を混浴に誘う。なぜなら剛太郎と風呂に入りたいという理由の他にもう一つあるからだ。
「……混浴、か」
 誘われた剛太郎は迷う。最高の流れではあるが、いとこ同士で年齢的にも恥ずかしかったり嬉しかったりと内心複雑な気持ちな上に男湯で疲労回復をしたかったというのもあったり。
「駄目?」
 なかなか返事をしない剛太郎に望美は可愛く目で訴えた。
「そうだな……最近痛めた腰を治す必要もあるし、行くか」
 剛太郎はちらりと望美を見て決めた。疲労の他にも回復する必要があるという事で。
「それじゃ、行こう!」
 望美は元気に剛太郎の腕を引っ張って混浴に向かった。

 混浴。

「……来ないなぁ」
 湯に浸かる望美はきょろきょろと周囲を何かを捜しているかのように見回してた。
「何が来ないんだ?」
 望美のつぶやきを耳にした剛太郎は訊ねた。
「えと、何でも無い。それより、腰はどう?」
 つぶやきを聞かれていたとは思わなかった望美は慌てて別の話題を振った。
 剛太郎が答えようとした時、
「……染みるな。交流会に参加しなきゃいけないからもうそろそろ出た方がいいか」
 岩陰から先客が現れた。
「!!」
 望美は先客のその姿に少し驚いた。
「どうしたんだ。その火傷は?」
 同じく予想外の先客の姿に驚いた剛太郎が訊ねた。
 何せ、目を覆いたくなるほど全身酷い火傷を負った姿だったからだ。
「あぁ、自作した魔法薬を試したらこうなったんだ。いつもの事だから心配しなくていいよ。自分はシュオンという調薬を愛する者さ」
 先客、見た目20台半ばの吸血鬼のシュオンはあっけらかんとした調子で質問に答えた。
「……いつもの事にしちゃ酷いな」
「まぁね。そのせいで何にもしていないのに体中が痛くなる持病があってね。ここの温泉が怪我や病に効果があると聞いて来たんだ。この火傷を何とかしたくてさ」
 剛太郎の当たり前なツッコミにシュオンは笑いを含んだ調子で自分の散々な状態を喋った。
「何とかなりそうなのか?」
 剛太郎は思わず訊ねた。口調とは裏腹にどう見ても簡単には何とかなりそうには思えなかったから。
「ここにいる間は何度も入ろうと思ってる。本当に効き目があるみたいだからね。何とかなりそうになければ、魔法薬でも作ればいいし」
 そう答えた後、シュオンは温泉を出て脱衣所に消えた。

「……お兄ちゃん、さっきの人、すご……タオル? 誰かの忘れものかな?」
 望美が先ほどの出会いについて感想を口にしようとした時、目の前を白いタオルのような物が流れてきて想わずひょいと拾い上げる望美。
 途端、
「!!」
 普通のタオルには無いはずの目と目が合う望美。
 つまり、
「……これは眼福である……我は、誇り高き一反木綿である……名は……」
 妖怪という事だ。しかも望美の豊かな胸をがん見する破廉恥というオプション付き。
 しかし、一反木綿の至福は長くは続かない。
「破廉恥な妖怪がいたものだな」
 剛太郎が望美から一反木綿を奪い取り、仕切りの外に広がる生い茂る森に向かって投げた。
「うぎょぉぉぉぉ」
 悲痛な叫びと共に危機は去った。
「大丈夫か、望美」
 破廉恥な妖怪退治を終えた剛太郎はすぐに望美を気遣った。
「う、うん、ただのタオルと思ったのにまさか妖怪だとは思わなかった。ありがとう、お兄ちゃん!」
 望美は甘えるのは今だとばりに剛太郎の腕に抱き付いた。実は計画通りに行った嬉しさもあったり。そう破廉恥な妖怪をおびき出したかったのだ。
 しばらくして二人は温泉を出て鍋を楽しむために部屋に戻った。

 部屋。

「これが名物の鍋」
「見た目は普通だな」
 望美と剛太郎の目の前には見た目普通の鍋があった。
 まずは一口と口に運んだ。
 途端、
「美味しい」
「む、なかなか」
 美味しさと一緒に疲労が癒される感覚と血の巡りが良くなるのを感じた。特に剛太郎は、腰周辺が楽になっていくのを感じた。
 そして、剛太郎は珍しい具材の名称や産地、効果などを女将に訊ね、望美は女将との記念撮影を求め、どれも叶えられた。
 その後、食事を終えて窓の外を眺めつつ酒を楽しみながら仕事や生活の事、互いの趣味の事など色々と語らう。
 一通り話をした後、
「外がすごく綺麗」
 望美はふと窓の外の美しさに気付き隣の剛太郎にもたれかかった。
「あぁ、山だから空気が澄んでるんだろう」
 剛太郎はちらりと望美に視線をさまよわせた後、酒を飲んだ。
「お酒も美味しいね。さっぱりしていていくらでも飲めるよ」
 望美は次々とネネコ河童自作の酒を注いでは飲んでいた。すっかり酔っている。
「確かにな。しかしもう少しゆっくり飲んだ方がいいぞ」
 剛太郎は女将手作りのつまみを食べながら飲むペースが速い望美を心配した。潰れるまで飲み明かすつもりではいるが、心配はする。
「大丈夫、大丈夫。潰れたらお兄ちゃんがいるから」
 望美は酒器片手に剛太郎の腕に抱き付き、すっかり甘えっ子さん。
「まぁな。自分が潰れたら望美がいるしな」
 剛太郎も望美に寄り添ったまま酒を飲み続ける。
 挙げ句、二人は酔い潰れ、記憶がうっすらのまま最後は布団に入った。ただし、望美は自分の布団ではなく剛太郎の布団に潜り込んで眠りに就いた。