校長室
巨大虚獣撃退作戦!
リアクション公開中!
ナラカダイバーの救助は終わったとはいえ、まだ『穴』周辺には複数体の小型の虚獣、そして何より二体の巨大虚獣が残っている。 複数体のプロトタイプ虚狩人とイコンが包囲網を敷いているので、虚獣の進撃は食い止められている。しかし、決して油断は出来ない。 「動きは封じているというのに、とんだ力だ」 闇黒死球で虚獣の足止めをしたグラキエス・エンドロアは、片足を石化させながらも尚足掻くことをやめない巨大虚獣の攻撃をいなしながら苦い顔で呟く。 どどめ色とでも呼べば良いのだろうか、奇妙な色の表皮は硬く、しかも粘液で覆われていて滑る。朽ちかけたようにも見えるシルエットの翼はしかし薄い割に頑丈で、振るわれたそれはこちらの装甲を容易く切り裂く。おまけに尻尾は長く、腕と思しき部分の先には鋭いかぎ爪まで付いていて、足を無力化していても尚凶暴だ。 巨大虚獣の周囲には他にも、プロトタイプ虚狩人が一体とイコンが一機居て、合計三機で取り囲んでいる。さらには後方からもう一機のイコンが援護射撃を行っているが、攻めあぐねているという印象が拭えない。 「このケーブルが、結構切れるんだよな……」 イコンの方に搭乗しているシリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)が、対虚獣用ライフルを取り回しながらぼやく。過去の戦闘経験から、このケーブルが脆弱であることは良く解って居る。 シリウスの搭乗しているイコン・オルタナティヴ13/G、通称13(ドライツェン)のメインパイロット、サビク・オルタナティヴ(さびく・おるたなてぃぶ)は高機動戦を得意としている。そのため、ケーブルに縛られないようにと敢えて虚狩人ではなく13を使用しているのだが、しかしそれでも武装はケーブル付き。どうしてもケーブルを意識してしまい、思うように動けない。 もう一体のプロトタイプには柊真司とヴェルリア・アルカトル(う゛ぇるりあ・あるかとる)が乗っているが、こちらも同じ。ヴェルリアがディメンションサイトを利用してケーブルの位置や周囲の障害物の位置などを感知しながら戦っているとはいえ、ケーブルが絡む危険性を考えると、複数体で入れ替わり立ち替わりの攻撃をするという訳にもなかなか行かない。 もちろんグラキエス達にしてもそれは同じ事だ。 「エンドロア、ケーブルの保守が完了した」 と、グラキエスのパートナーであるウルディカ・ウォークライ(うるでぃか・うぉーくらい)からの通信が入った。ウルディカは量産型虚狩人に搭乗して別行動を取っている。 ケーブルに要塞化とカモフラージュを施し、ちょっとやそっとの無茶では破損しないように強化していたのだ。 「後は射撃で援護する。好きに動け」 「了解した」 ウルディカからの吉報を受けたグラキエスは、渾爆魔波の一撃を虚獣の翼めがけて叩き込む。一発でトドメを刺すには及ばないが、攻撃手段を削ることくらいは可能だ。 もくろみ通り、グラキエスの放った魔力塊は巨大虚獣の片翼をもぎ取る。 あおおお、と虚獣の口から悲鳴が漏れ、闇雲に振り回された巨大な尾が虚狩人を襲う。 しかし、グラキエスの呼吸を読み切っているアウレウスの機転で、間一髪でその尾を避ける。 「喰らえっ!」 虚獣の意識がグラキエスたちに向いたその隙に、13の持つ対虚獣ライフルが火を噴く。 「っ、やっぱり連射は厳しいね」 反動を受けたサビクが顔をしかめるが、それだけの威力をもつ一撃で、巨大虚獣は大きくバランスを崩した。 その隙を逃さないよう、サビクは躊躇なくライフルをその場に放棄した。身軽になったイコンは一気に虚獣との距離を詰める。そしてそのまま、バランスを失わせる方向に蹴飛ばした。イコンの機体による直接攻撃は、致命傷こそ与えられないものの、相手のバランスを崩すことは出来る。 片足を石化させているため倒れることは無いが、しかし、巨大虚獣の身体はより一層大きく傾ぐ。 「今だっ!」 畳みかけるように、真司がグラビティコントロールをお見舞いする。それ単体では巨大な虚獣の動きを止めるには至らないが、しかしグラキエスの放った闇黒死球によって石化し、さらに13の体当たりを受けてバランスを崩していた虚獣には充分効果がある。崩れた体勢のままで重力波に押しつぶされ、容易には体勢を回復できなくなる。 「よし、必殺、サンダーチェーンブレード!」 真司は叫びながら、チャージブレイクと疾風突きの要領で、まっすぐ虚獣めがけて攻撃を放つ。さらにサンダークラップによる電撃を発生させ、一気に畳みかける。 ウルディカによるケーブルの保守が功を奏し、激しい攻撃をしてもケーブルが外れることはない。ついでに、同乗しているヴェルリアとは精神感応を使ってよりシンクロできるようにしているため、機体は非常に良く動いてくれる。 だがそれでも、完全にトドメを刺すには至らない。 腕の一本を切り落とすことには成功し、相手の攻撃力はかなり削いだとはいえ、巨体が倒れる気配はない。 着地の一瞬、真司達の背中に隙が出来る。そこへ、片手を奪われた虚獣の、残っている方の翼が襲いかかる。 だが。 「おりゃっ!」 対虚獣ライフルの一撃が後方から飛んできて、正確にその翼を打ち抜いた。 イコン、フラフナグズに乗って後方支援を担当している斎賀 昌毅(さいが・まさき)とマイア・コロチナ(まいあ・ころちな)の二人による一撃だ。 「よし、命中!」 「当然です、連射が出来ないんですから、無駄撃ちされちゃ困ります」 攻撃が命中したことを確認した昌毅が小さくガッツポーズを決めるが、マイアは冷静に呟いて次の一撃に備える。 連射は出来ないとはいえ、次の一撃が可能になるまでの時間、ただ黙って見て居るだけでは能が無い。キッチリ巨大虚獣の動きを監察している。 残っていた翼も打ち抜かれた虚獣は、大きくのけぞった。藻掻いている。 「トドメと行こうぜ」 昌毅はひたと虚獣の頭蓋の中心にサイトを合わせると、一気に引き亜金を引く。 激しい反動と共にライフルが火を噴き、砲撃はまっすぐ虚獣の頭を打ち抜いた。 ばしゅん、と嫌な音と共に液体が飛び散る。 「やったか?!」 昌毅は身を乗り出して虚獣の動向をうかがう。頭を失った虚獣は、しかしまだ動いていた。 だが、すぐにシリウス達の乗る13が、至近距離から対虚獣ライフルを撃ち込んだ。 流石に二連発には絶えられなかったか、巨大な虚獣は今度こそ完全に沈黙した。 残るもう一体の虚獣には、ルカルカ・ルーとダリル・ガイザック、そして朝霧 垂(あさぎり・しづり)とライゼ・エンブ(らいぜ・えんぶ)、それぞれの乗るプロトタイプ虚狩人二体が取りついて戦闘を繰り広げていた。 桁違いの息の合いっぷりを見せているルカルカとダリルの二人は、まるでケーブルなどついていないかのように虚狩人を操っている。もちろん、垂たちも負けてはいない。 二体は入れ替わり立ち替わり、近接戦で虚獣へ攻撃を仕掛けている。 巨大な翼の羽ばたきを、ルカルカ機は間一髪の所をギリギリの動きで避ける。 「出来たら生け捕りにしたかったんだが、ちょっと無理そうだなこりゃ」 虚獣に一撃をお見舞いして戻って来た垂が、渋い顔をした。 追い込まれているという訳では決して無いが、しかし手加減をして倒せるような相手ではないことくらい悟っている。だいたい、生け捕ろうとしたところで、これだけ巨大なものを一体どこにどうやって捕獲しておくというのか。 「でも、仮に生け捕りはムリでも、サンプルの採取には意義が有ると思う!」 ライゼの言葉に垂、そしてルカルカも頷く。 「爆発四散してサンプル採取不可、っていうような倒し方はやめときましょ」 「解ったぜ」 確認しあうと、二体の虚狩人は再度虚獣との距離を詰める。 垂機がゼロ距離まで接近して、拳で殴り飛ばす。一度大きく傾いだ虚獣の身体は、しかし返す勢いで翼を振り回す。 垂はすかさず飛び退る。そこにルカルカが、無量光を叩き込んだ。 邪悪な者を浄化する力のある光だが――虚獣には通用しないようだ。 「あれっ……ナラカの者なら効くとおもったんだけどなー」 「やはり、弱点は頭か」 拍子抜け、という顔をしているルカルカをよそに、周囲からの情報を分析したダリルが告げる。 「なるほどな」 それを聞いた垂は、何かを思いついたという顔をして三度虚獣との距離を詰めた。 左腕を思い切り突き出し、虚獣の顔めがけて突撃する。 しかし、虚獣の、龍のようなシルエットを持つ顎ががばりと開いてその左腕に食らいつく。と。 「元々無ェ腕だ、いくらでも喰わせてやるぜ!」 垂は虚狩人の左腕を虚獣の口に突っ込んだまま、右腕を虚獣の頭に向ける。 ほぼゼロ距離から放たれた百獣兼は見事に、虚獣の頭を吹き飛ばした。 二体の巨大な虚獣が大地に倒れるのとほぼ同時―― 契約者達の活躍により、小型の虚獣の全てが、大地に倒れていた。 地上に残された虚獣の身体からは、ルカルカとライゼを中心にサンプルの採取が行われた。 また、戦闘が終わったあと、イーリャを中心として、救助されたナラカダイバー達への聞き込みも行われた。 その結果、虚獣達の正体が判明した。 「フマナ崩落時、一緒に落下してしまった生物が、ナラカとの狭間で瘴気の影響を受け、変異したもの――だそうだ」 研究結果のレポートを受け、再び開かれた対策会議の場で、教導団団長・金 鋭峰(じん・るいふぉん)が参加者に告げた。 フマナ崩落現場に出来た穴では無く、もう片方の穴から出現した理由は厳密には解らないが、あちらからこちらに流されるうちに虚獣へと変じたという可能性が高いようだ。 どうやら今回の大量発生は、元々一つの群れを成していた生物たちが一斉に飛び出してきた、ということらしい。 つまり、崩落時に『穴』へと落ちてしまった生物たちの数だけ、虚獣が居るということになる。 「だが逆に言えば、崩落時に落ちてしまった生物の数だけしか、居ないということでもある。それらを全て狩り尽くしてしまえば、それ以上は発生しないということだ。まだ暫く『穴』周辺での戦闘は生じるだろうが、決して終わりなき戦いではない」 と言う訳で、シボラの『穴』に設置された前線基地と虚狩人たちはまだ暫く、その役目を終える訳には行かないようだ。 だが、二つの『穴』周辺にはこれ以上生物が落下しないように対策が取られることにもなった。永遠に続く戦いではない。 今回採取されたサンプルや、戦闘データによって、虚獣に関する研究もさらに進むことだろう。 突然の大発生も、大きな被害を出す事無く鎮圧することができた。 今のところはそれで大団円としておこう。 ――幕――
▼担当マスター
常葉ゆら
▼マスターコメント
お待たせいたしました、巨大虚獣撃退作戦!のリアクションをお届けいたします。 今回は巨大虚獣さんが大人気で、小型虚獣さんたちとの戦闘が若干数で押されているかな、という印象でした。 ナラカダイブについては、戦闘力より機動力と、助けた人をどうやって回収するかが重要となりました。 皆さんのおかげで、虚獣大量発生を鎮圧し、さらに虚獣の発生原因を突き止めることが出来ました。 虚獣の発生は今後も続くようですが、本シナリオの目的は完全に達成されました!おめでとうございます。 ご参加頂きました皆様、本当にありがとうございました。 また次回作でお目もじ出来れば幸いです。