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5.堕ちる

「ほらムティル、早く早くー」
「何だというんだ……やり返す好機だったのに」
 ヘル・ラージャ(へる・らーじゃ)に惹かれ、大切な人との一時を中断されたムティルはやや不機嫌な様子で会場へと連れてこられた。
 そして、目を見開く。
「ムシミス」
「ほら、沐浴用の浴衣だよ」
「……ありがとうございます」
 そこには、早川 呼雪(はやかわ・こゆき)の用意した浴衣を纏ったムシミスがいた。
「何をやってるんだ」
「ムシミスが、罪流しに興味があるようだったから『吐き出して気が楽になるなら、流れてみるのも良いかもしれないぞ』と背中を押しただけだ」
 唇を引き結んだムシミスに変わって、呼雪が答える。
「流れるって、お前」
「ええ、流れますよ」
 驚いているムティルに、ムシミスはどこか乱暴に答える。
「僕がそう、決めたんですから」
 そう言い捨てると、ムシミスは滝の上流に立つ。
「行ってきな」
「がんばっといでー」
 呼雪とヘルはムシミスを見送る。
 そして、ムシミスは滝の中へ踏み込んだ。
 ざざざざざー。
「ぼ……僕は、実は、お……わぁっ」
 流される最中にバランスを崩し、全て言い終わらぬまま滝壺へと落ちるムシミス。
「あー、ざんねーん」
「ムシミス!」
「最後まで見てやりなよ」
 それを心配そうに見ているムティルを、呼雪が嗜める。
 が、すぐに呼雪の表情も不安なものになる。
 ムシミスが、出てこない。
「う、わ……なんだ、これっ!」
「ムシミス、大丈夫か!」
「今行く!」
 ムシミスの慌てたような声に、ムシミスに巻き付く白い物に、ムティルと呼雪が慌てて滝の中に飛び込む。
 そして、絡まれる。
 呼雪の足に、ムティルの腕に、パラミタソーメンコウソクヘビが絡みつく。
「く……っ」
「またこいつか……」
 ため息をつくムティル。
 呼雪は眉をしかめ、それでも歯を食いしばってムシミスの方へ進む。
 進むたびに、呼雪に絡みつくヘビの量は増えていく。
「や……っ。これ、絡んで……っ!」
「今、今行くから……っ」
(……いくの?)
「え?」
 呼雪の足元から声がした。
 下を見ると、赤い物体……ラフィルドが大量のヘビを抱え、にゅるりと蠢いている。
(いくの?)
「うわ、違……! ヘル! 見てないでお前も手伝え!」
「えー。せっかく水も滴る美少年たちを観察してたのにー」
「いいから早く」
「ちぇー」
 呼雪の言葉に、不承不承ヘルが滝に入る。
 まずは呼雪を救助して、ムシミスへと手を伸ばし。
「あ、まずい」
「う……やぁっ、んっ」
 水に濡れ体に密着した浴衣を着ていたムシミスだったが、その浴衣はヘビに絡み取られ、今にも脱げようとしていた。
「あ……んんっ!」
 はらり。
「ムシミス!」
 伸ばしたムティルの手も間に合わず、浴衣が肌蹴る。
 浅黒いムシミスの肌が露わになる。
 その体はやや曲線を帯びており……胸にはささやかな、女性特有の膨らみを有していた。
「や……っ!」
「あれ……?」
「え、ムシミス君、女の子……!?」
 罪流しを見守っていたサニーが思わず声を漏らす。
「……」
 ムティルは黙って上着をムシミスにかける。
「気づいてたのか?」
「ああ、一応な。……知ったのジャウ家に戻って暫く経ってからだが」
「……それは少し遅いな」
 問いかける呼雪に、ムティルはため息とともに答え、ムシミスに声をかける。
「……こうなると分かってて、何故あんなことを」
「どの道、告白しようと思っていたので構いません」
 ムシミスはムティルから目を逸らし、拗ねたように答える。
「お疲れ様ー。ムシミス、偉かったねー。呼雪もがんばったねー」
「いえ、上手くできませんでした。きちんと、ジャウ家の跡取り候補として男装していた事や、兄さんが継ぐと決まってからも、男性を好む兄さんの為にそれを続けたことも告白したかったです」
 あえて空気を読まず明るく声をかけたヘルに、首を振りながらムシミスは答える。
「だったら、何故今になって」
「……弟でいる事にも限界がきたみたいですしね」
 ムシミスは、燃えるような瞳でムティルを見る。
「これを機に、素の自分を出してもっと兄さんの目を僕に向けたいと思います」
「……」
 ムシミスの言葉に、ムティルは目を伏せる。
「あれー?」
 そんな二人を見て、ヘルがふと気づいたように声をあげる。
「でも、ムシミス君て攻だよね……?」
「そこは言ってやるな。それより……」
 ヘルの肩に、呼雪が手を置く。
「ラフィルドは捕まらなかったから……ヘル。お前には、お仕置きが必要なようだな」
「えー! 折角助けたのにー!」
 騒然としている罪流し会場の中、ヘルの声が大きく響いた。