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リアクション
第13章 黒のテスカトリポカ Story4
涼介によって解呪され、正気に戻ったフレンディスはベルクの懐に飛び込み必死に謝る。
「こんな大怪我をさせてしまい、申し訳ありませんマスター!」
「気にすんなって、フレイが悪いじゃないんだからな」
首筋には青痣、顔は引っ掻き傷だらけだったが、懐に飛び込まれて思いがけないご褒美をもらえた気分だ。
「それよりも樹を取り押さえなきゃな。あのままじゃ、章がやばい」
「は…、はい!」
恐ろしい形相で章を殴り続ける樹を、ベルクと二人がかりで取り押さえる。
「おいエルデネスト、手伝ってくれ!」
「えぇ、暴れる相手ですと1人では厳しいようですから」
「ミリィもお手伝いしにいってもらえるかな?」
「お任せください、お父様」
ペンダントに触れてミリィはベルクとエルデネストの3人で樹の解呪を始める。
「癒しの光よ、傷付きしものに活力を与えよ」
樹へ手をかざし優しい光をイメージして祓魔の気を注ぎ込む。
「…その手を離せ、バカ者ども。ぶん殴られたいのか!!」
「もう少しの辛抱ですわ、樹さん」
仲間にまで乱暴な態度を取ってしまうのは、呪いの影響のせいだった。
解けた後、きっと彼女は心を痛めてしまうはず。
少しでもそれを和らげるためにも、身の中に救う邪気を迅速に祓う。
解呪された樹は抵抗していた手足を止め、ぐったりと倒れている章を見て唖然とする。
「これは…私がやってしまったのか?」
「き、気にしないで、樹ちゃん……」
まったく非はないのだから気に病むことなんてないと、ボコボコに殴られた顔を向けて微笑む。
「いやしかし、アキラ…」
「あ…もし、どうしてもって言うなら、元気の源の接…ごふっ!」
「調子に乗るな、バカ者」
言葉を言い切る前に鉄拳で黙らせた。
セシリアのほうは涼介が解呪を済ませたのだが、もはや太壱は砂に埋まりきっていた。
「大丈夫かい、太壱さん」
彼の腕を掴み引っ張り上げて救出する。
「なんかもうさ、厄日すぎるぜ」
「それはお気の毒様…」
「あれ、タイチ。なんで砂まみれなの?」
「ツェツェ、お袋たちは覚えてんのに忘れたってことないよな」
「んー…分かんない。でもなんだか、すっきりした気分だわ」
「あ〜そうかよ、はぁ…」
1人で清々しい気分に満足するセシリアに対して嘆息した。
「皆、無事に助かったようです、主。黒魔術に対抗する手段として、ウィオラに歌わせますか?」
「それでは、俺たちの精神力がもたなくなってくる。怒りの感情に支配されないように、ハンドベルを鳴らしてもらえるか?」
「承知いたしました!」
主の願いのためならばとアウレウスはハンドベルを鳴らし、黒魔術・ラージェに対抗する。
「キミ、その音うざいよ、やめてくんない?」
「嫌なら耳でも塞いでればよいだろ」
「むっか〜。力ずくでオレっちが止めてやるよ」
黒い月の輝きをさらに増し、怒りを呼び起こさせようとする。
「わ、何!?こいつ、また撃ってきた。やめてよ、我慢できなくもないけど、ちょっとだけ痛いんだからさ」
「やめません、綾瀬様のご命令しか聞きませんから!」
「へんな花びら飛んでくるし、いらいらする〜」
「さっさと諦めて退散したらどうですの?」
「やなこった!」
「諦めの悪い相手ですね。いかがいたしますか、綾瀬様」
「撃ちなら離れていきましょう」
「はい!」
祓魔弾を撃ちながらリトルフロイラインは徐々にさがっていく。
「フレイ、哀切の章を使え」
「で、ですが、マスター」
「それを合図として撤退するんだ」
「あ…はい、なるほど」
小声でベルクからの策を聞き小さく頷く。
「アウレウス、エルデネスト。羽を閉じろ、ベルクが時の宝石の力をくれる」
「承知いたしました、グラキエス様」
「了解です、主」
グラキエスの言う通りに羽を畳み砂地へ降りる。
「なっ!?」
光の波から霧状へと形態変化させた祓魔術と、神籬の結界の輝きで一瞬目を閉じてしまう。
「今だ、死ぬ気で走れーーーー!」
ベルクはエターナルソウルの力を仲間に分け与えて逃走する。
「―…む、いない!」
ほんの一瞬、目を閉じてしまったことでベルクたちを逃してしまう。
行き先の検討はつくが、追っていくほど仕えている相手に義理は無い。
「ちぇー、まぁいいや。あいつ、めっちゃ怒るだろうけどさ」
気まぐれな虚構の魔性は冷蔵庫のプリンのことのほうが気になり、いったん引き上げることにしてしまった。
「もう追ってこないか…」
ベルクは加速を解除し、ふぅと息をついた。
アークソウルの範囲からも外れてから数分経ち、一安心かと足を止めた。
黒のテスカトリポカの回収を、エリザベートへ報告メールを送る。
「マスター。先程、和輝さんからテレパシーが届きました」
「なんだって?」
「あちらも片付いたようで、捕縛したボコールを連れて来るようです。町も無事らしいですよ」
「そうか。俺たちもエリドゥへ戻るか」
本来の目的である赤い髪の子供の保護、町の人の救助及びディアボロスの撤退が達成されたということでエリドゥの町へ帰還する。
「そういえば、パパーイからメールが来てたのよね。任務中だから、ほっといてたけど何かしら」
記憶の片隅に放置していたアルテッツァ・ゾディアック(あるてっつぁ・ぞでぃあっく)からのメールを思い出す。
-説明書き通りで作れません-
『結局カレーはどのようにして作るか分かりません。
「炒めてカレールー」と書いてあったので、カレールーを炒めてみました。
焦げた変なモノが出来上がって、カレーではないようです。
おまけに、具もありません、水を入れたら更におかしくなりました。
シシィ、ヴェル、降参です、ボクには分かりません、何とかなりませんか?
Alt』
「えっとー、どうしてこんなヒドイ事になってるの、ヴェルレク」
「あたしは普通にカレーを作るためのレシピを書いて送っただけよん、セシル」
「その送ったレシピで作ってこれ?」
ヴェルディーに形容し難い物体の添付画像を見せた。
「パパーイがなにやったのかわかんないっ!」
「あたしもわかんないわよ!どこまで料理音痴なのよあのバカゾディは!」
鍋の中にあるのは墨としか思えない物体だった。
「…ツェツェ、レトルト買って帰れば?」
「無理、溶けたパックごと食べちゃいそうだもの」
「レトルトパックが溶けるってどんだけだ!?」
「ありえないことをやらかすのよ、パパーイは」
病院に運ばれる未来しか見えないわと言う。
「かか様かか様、とと様やあに様がいっていた、かれえ、とは何です?」
「煮込んだ辛い味の汁を、飯にかけて食べる物だ」
「わー、樹ちゃん。説明ざっくりしすぎだよ」
「そうだろうか?血の情報を辿れば理解できるはずだが」
「へーーっ、そこまで読み取れるなんて凄いねぇ」
おおざっぱな説明でも召喚時に得た血を元に分かるらしく、驚いたように目を丸くする。
「ふむふむ、誰でも簡単にできるんですね。けど、あね様とおね兄様の…とう様?その方は、作れないみたいですよ?」
樹の考えを読んでみると手軽に作れる料理なのに、なぜ作れない人がいるのか不思議に感じた。
「…偶にはそんな輩も居る、気にするな、エキノ。小娘たち、一緒に夕飯を食べて帰るか?」
「タイチのお母さん、お父さん、わたしも夕飯一緒したいんですが。パパーイがこれ以上台所をめちゃくちゃにする前に、帰りますね…」
「あたしも帰ろうかしら」
焦げた鍋を洗わなければならないと思うと、疲れが倍になっていく。
「無事なのはフライパンだけみたい」
画像で確認できた唯一、使い物になるのはそれだけだった。
「蒼学の赤髪、忍び娘。お前たち、今日の夕飯はどうする。なにを食べるんだ?」
「カレー味のオムライスがいい」
「かしこまりました、グラキエス様」
「マスター、私はカレーうどんがよいです」
「それだと家まで我慢だな」
「うぅ、それは厳しいです、マスター」
和が混ざったようなものはないだろと言われ、しょんぼりとする。
「ただ…、今は食事どころじゃない」
「と言いますと?」
「黒のテスカトリポカを確保して、それで終わりなわけがない」
対となる存在が互いの心臓を欲しているというのに、のんきに食事なんかしている場合ではなかった。
「この子供の確保は、求められていないことだった。だから、そのままにはしておけないし、他の者も気にはかけているだろう」
「フフ、承知しました。では、参りましょうか。お食事へ行かれる皆様は、ここでひとまずお別れですね。お疲れ様でした」
夕食のため帰宅する者たちへ丁寧に挨拶し、グラキエスとアウレウスらと共にエリドゥの宿へ向った。
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