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【祓魔師】災厄をもたらす魂の開放・後編

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【祓魔師】災厄をもたらす魂の開放・後編

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第2章 ヒトを捨てた災厄の僕の手 Story1

「外が騒がしくなってきたようですね、真宵」
 何かを壊すような激しい音が、ベリート・エロヒム・ザ・テスタメント(べりーとえろひむ・ざてすためんと)の耳にも届いた。
「ややっ、建物が崩れているじゃないですか!」
 窓の外を見ると、鋭利な刃物で斬られたかのように、レンガの破片が石畳の上へ砕け落ちている。
「きっとやつらの仕業ね」
 魔法学校での会議の話からして、想定の範囲内だろうと日堂 真宵(にちどう・まよい)は冷静な態度で言う。
「人だけじゃなく町まで守るのは難しいってことでしょ。まぁ、それはそれとして…」
「真宵、先生方に状況報告するのですか?」
「んー…ちょっと違うわね。―…えー、もしもし。ラスコット先生、今お話いいですか」
「いったい、今度は何を聞くつもりなんでしょうね」
 テスタメントは真宵の傍に寄り、携帯の声を聞く。
「ラスコット先生は今回目立った仕事してませんでしたよね。やはり授業だから?実は一人で余裕で解決できたとか〜?」
「(あぁ…やっぱり……)」
 仕事に関しての連絡でなく、やはり興味のことだったかとテスタメントは、肩で息をついた。
 ラスコットからの返事は…。
 “授業としてよりも実際の任務を担当してもらっている。
 それと、一人で余裕で解決できるとか、相手を軽く見ること一番危険かな”ということだった。
「お勉強の段階は終了しているようですし。難しい依頼をこなしてもらえるようになってほしいってことみたいですね、真宵」
「え…。あー、そういうことだったの?」
「それとですね、真宵!事件解決に関しては、祓魔師は単独行動しないものなのですよ。理由としてはですね…確実に任務をこなすためには、複数での行動が必要ってことなのでしょう」
「1人で片付けられるとしてもってことかしら」
「えぇ、そうなりますね。相手は呪術を使う連中ですし…」
 こちらが唱えている間に、それらをくらうわけにはいかない。
 確実にやるためには、単独で動かないのだと真宵に言う。
「ん〜…まぁ、そりゃそうよね」
「だからテスタメントと真宵も、協力し合わないといけないのです!」
「これって楽かと思ったけど物凄い神経使うんだけど……。楽なのはテスタメントだけじゃないの?」
 常にアークソウルで警戒するということは、それだけ精神力を消耗し続けてしまう。
 章使いのテスタメントにはその必要がなく、のんびりと待機している状態だった。
「何を言うのですか、真宵。いつでも唱えられるように本を開いてるのですよ!」
「へぇ〜、あっそう」
 真宵にとっては、ただ本を開いているだけにしか見えず、そっけなくあしらう。
「ところで真宵。テスタメントたちも先生方に、報告しなくてよいのですか?」
 まさかさっきの質問だけで、満足してしまったのではと思い、ずいっと詰め寄る。
「うっ、そ…そんなはずないでしょ!今から言うのよ、今からね!」
 テスタメントに急かされ携帯を取り出す。
「―…えーっと校長、わたくしたちスイーツショップにいるんですけど。プリンの件が何度もあった様なので、店で万が一に備え待機中。少し暇です。プリンの取り置きは必要ですか?」
 彼女の報告にエリザベートは、“むむっ。とぉ〜っても重要ですぅう!取りおきしてくださぁ〜い!!”などと子供らしい反応で返す。
「あ、はい。了解しました」
 通話を切ると真宵は、校長といってもやっぱりまだ子供かと小さくため息をついた。
「エリザベート校長も、小さい子供だってこと忘れそうになるわよね。こういう言葉を返させると、まだちびっこだわ」
「閃きました、レジに対価を支払えばプリンを食べても問題は無い筈です。食べ尽さなければ問題は無い筈です。プリンが駄目なら他の甘味ならば問題無い筈です」
「はっ?探知に集中しなきゃいけないのに無理だわ」
「真宵の分は責任をもってテスタメントが食べますから安心してください…って、いたた、真宵っ。乱暴はいけないのです!アークソウルの反応が弱くなってしまうのですよ!!」
 羽交い絞めにされたテスタメントは、頭をぐりぐりされお仕置きされる。
「安心しなさい。これしきのことで弱まるほど、積んできた修練は浅くないわよ。この、このぉおっ」
「で、でも、ちょっとだけならきっと!」
「よし、じゃあ…」
 何を思ったのかお仕置きをやめた真宵は、ガラス棚にしまわれたスイーツをテーブルに置いてやる。
「ま、真宵!?なんと慈悲深い…」
「はい、終わり」
「テスタメント、まだ食べてないですよ?」
「えぇ、香りだけだもの」
「ひっ酷…、酷過ぎます真宵!!」
「ふっふっふ…これを食べたければ働いてね。(わたくし1人に働かせて食べるなんて、許すわけないじゃないの)」
 がっくりと沈むテスタメントを放置し、取り出したスイーツをガラス棚に戻した。



「オヤブン。皆、町の外へ逃げ終わったかな」
 仮設の避難所にいた人々が全員逃げたかどうかコレット・パームラズ(これっと・ぱーむらず)は、携帯で天城 一輝(あまぎ・いっき)に確認する。
「こう視界が悪いと、少し難しいな」
 ボコールの連中が町中で暴れているせいで、砂煙が立ちこめ人の姿を見つけるのは厳しい。
 町に残っている者がいないか宝石使いに調べてもらおうかと、銃型HCでセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)に連絡を取る。
「―…建物をひとつずつ調べている最中か」
 要望を出すまでもなく、彼女たちの返信メールには“人が残っていないか調べている”とあった。
「ほぼ外に避難済みってこ?」
「そうらしいな。さて…俺の役割は引き続き、重労働か」
 エリドゥへ攻めてきたとあっては、もはやシェルターにもいられない。
 一旦外へ避難してもらったが、時期にそこも危なくなるだろう。
 止むを得ず外へ避難してもらったものの、連中から守りきるのは不足。
 第二の避難経路を作るべきかと考える。
「とはいっても、エリドゥは砂漠地帯に等しいからな。海底トンネルとか方法だろうか、プッロ」
「突貫でそれは、かなりの無茶作業だな」
 いつもながら特急の依頼を投げるやつだと、ユリウス プッロ(ゆりうす・ぷっろ)は小さく息をついた。
「今からでは、通る内部を作ってから埋める方式がよい。砂のトンネルが崩れ、潰されないようにするには、それくらいしか手はない」
「宿の出入り口は一つだけだったか?」
「いくつかの非常口があるはずだ。いざという時の避難手段がないのでは、構造自体に問題があるぞ」
「言われて見ればそうか」
「オヤブン、迷彩塗装で隠しちゃったら?」
「あぁそうか、コレット。…やることが多すぎるな。今更愚痴を言っても仕方ないか」
 ここでぼやくような無駄話しているよりも手を動かさねばと思い、宿の正面出入り口以外を迷彩塗装で隠し始める。
「なるべく急げ。だが、焦りは禁物だ」
 プッロのほうもコレットがシェルター用に買っておいた金属板を使い、トンネル作りを開始する。



「もう町に残っている人はいないと思うけど。念のために、もう1度確認するわよセレアナ」
 セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)はアークソウルで、誰か残っていないか気配を探し歩く。
 逃げ遅れて慌てているなら動き回っている。
 怯えているなら点在しているはず。
 そういった基準で気配の動きを注意深く探す。
「ぁ〜あ。派手に壊しちゃってくれてるみたいね」
 おそらく清泉 北都(いずみ・ほくと)たちが警戒している位置を迂回して、どこからか回り込んできたのだろうか。
 ボコールたちが魔性の力を利用し、町を破壊しているに違いない。
 それにも今は耐えて残された人がいないか、調べるほうを最優先する。
「さすがにもう、残っている人はいないかしら」
 一軒ずつセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)は窓を覗き、誰かいたりしないか見てみる。
「出る時にちゃんとカギもかけているみたいね」
「不審な動きも感じないわ」
 恋人が外から見られない奥部分は、セレンフィリティがアークソウルの探知能力で調べる。
「じゃあそろそろ、一輝のほうへ行かない?あっちは宝石使いがいないみたいよ」
 北都たちが侵入者を迎え撃つため、町の出入り口の見回りをしてくれているが、第二の避難所を作っている一輝たちは気配を探知する者がいない。
 ならそっちに行くべきだと考えてのことだった。
「あ…確かにね。じゃあセレン、彼らのほうへ…ってどうしたの急に止まったりして」
 突然足を止めた真剣な面持ちの恋人の顔を覗き込む。
「―……誰かみつけたの?」
「えぇ、動かない気配があるの」
 崩されたレンガが積みあがった瓦礫を指差す。
 破片同士の隙間は、小さな虫や小動物なら余裕で逃げ出せるくらいだ。
 しかし、それよりも大きな生物であれば、這い出せないほどのスペースだった。
 その下にいるのが大人か子供か、それとも誰かに飼われている中型以上のサイズのペットなのか。
 どれもセレンフィリティは考えるに値しなかった。
 助ける対象なら、埋もれているものがなんなのか暇なんてない。
「セレアナも手伝って、…早く!!」
「え、…ぇえ」
「魂がそこにあるならまだ助けられるはずよ」
 女の子らしいキレイな手が傷だらけになろうとも構わず、必死に瓦礫を退かせる。
「いた、人だわ!」
 まだ十代くらいだろうか、若い女を発見した。
 瓦礫に下敷きになっていた彼女はうずくまり、動こうとしない。
 その者の口へ手を当てると、僅かにまだ息がある。
「気がづいたみたいね。今、手当てしてあげるから」
「先に…この子を、私の…妹をお願い……します」
 体を無理やり起こした女の腕の中には小さな少女がいた。
 ずっと生き埋めになっていたせいか苦しそうに呼吸が荒い。
「ヒールじゃ時間かかりそうね。セレン、命のうねりで治療してあげて」
「分かったわ。(念のため、町中を調べて正解だったわね…)」
 神聖な生命力が二人を包むように、傷を癒していく。
「これでもう大丈夫なはずよ、私たちと一緒に行きましょう」
「どうしたの?早く急いで……」
 避難するよう促しても動かない女の肩に触れたとたん、セレアナは言葉を失った。
 まるで軽い紙のように、女が倒れてしまったからだった。
「頭から血が…」
「ど、どうして!?さっき治療終わったはずなのに。だったからもう一度!」
 ヒールでは足りないだろうから、命のうねりで傷口を塞ごうとする。
「止まらない……何でかしら。そっか、もっと治療魔法をかけなきゃいけないのね」
「セレン…」
 すやすやと眠る少女を抱え、かぶりを振った。
「―…あれ、どうして…。ねぇ、セレアナ」
「もうやめて、セレン」
「どうして血が止まらないの、もっとかけないといけないの?…きっと、そうよね!」
「お願いだからもうやめて!分かってるでしょ!?」
 目の前の現実を受け入れようとしない彼女の手を掴んで止める。
「だってまだ、こんなに温かいのに。助けられるはずよ」
「遅いのよ、…もう」
 大声で泣きたいのを我慢する恋人を、そっと抱きしめた。