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学生たちの休日12

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ツァンダの年越し



「ふーん、あまり目立たないものですのね」
 エリシア・ボック(えりしあ・ぼっく)が、御神楽 環菜(みかぐら・かんな)を見て言いました。予定では二月と言うことなのですが。
「いずれにしても、めでたいことですわ」
「おめでとうございます。今から、その日がとても楽しみですわ」
 御神楽 舞花(みかぐら・まいか)も、エリシア・ボックにあわせて、祝福を述べました。
「ありがとう、エリシア、舞花。それから、ノーンもね」
 かなり照れながらも、御神楽 陽太(みかぐら・ようた)と御神楽環菜がエリシア・ボックたちにお礼を言いました。
「今年もいろいろありましたけれど、来年もまたいろいろありそうですわね」
 ちょっと感慨深くエリシア・ボックが言いました。
 ついこの間は、ゴチメイを捜して大図書室の深層を探検したばかりです。
「ええ、大司書様に会えたのは、貴重な体験だったと思います」
 そのときのことを思い出しながら、御神楽舞花がうなずきました。
「貴重と言うよりも、結構苦労したような……。夏合宿の宝探しのように、もっと楽勝でいけると思っていましたのに」
 あのときは一人勝ちだったと、エリシア・ボックが胸を張りました。競竜では御神楽舞花に負けてばかりですから、宝探しでの勝利はちょっとした自慢です。
「あのときは、鑑定役をお引き受けいただいて、ありがとうございます」
 悪びれることもなく、御神楽舞花が御神楽陽太に礼を述べました。
「ねえ、新年までまだ時間があるから、麻雀でもしない?」
 のんびりと年越しそばを食べていたノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)が、みんなにむかって言いました。
「たまには、それもいいかな。人数的には、俺たちがペアでいいね」
 御神楽陽太が言いましたが、もちろんエリシア・ボックたちも異存はありません。いつも以上に妻を気遣うのは、今の御神楽陽太の日常です。
「負けませんわよ」
「やる限りは、全力で当たらせていただきます」
「さあ、やろ、やろー」
 全員で何かのゲームをやるのは久しぶりと言うこともあって、みんな気合いが入っています。
 ジャラジャラジャラ……。
「えっと、それロン! 三色同順とドラ三で満貫だよ」
 おっと、いきなり御神楽舞花がノーン・クリスタリアに振り込んでしまいました。いきなりの最下位です。
「うっ、お強いですね」
「うん、えっへん」
 ノーン・クリスタリアが勝ち誇ります。が、これがいけなかったのでしょうか、今度はノーン・クリスタリアがエリシア・ボックに振り込んでしまいました。
「ほーほほほほ、油断大敵ですわよ。おっと、いけない、いけない。勝って兜の緒を締めよですわ」
 勝ち誇ろうとしたエリシア・ボックが、あわてて気を引き締めました。
 御神楽陽太はといえば、堅実に打っていますので、初期の点数前後をキープしています。
「もうじきかな。これで最終にしよう」
 時計を見ながら、御神楽陽太が言いました。こうなると、俄然底力を発揮するのがエリシア・ボックです。
「ツモ!! やりましたわ!」
 最後の最後で、エリシア・ボックが一気に全員から点数を巻きあげました。優勝です。
「ほーほほほほ、これで……」
 エリシア・ボックが何か言おうとしたとき、時計が0時の鐘を打ちました。
「あけましておめでとーございます!」
「あけましておめでとうございます」
「環菜、あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。みんなも、あけましておめでとうございます」
 みんなが、一斉におめでとうを言い合いました。
「私より先に……。今年もよろしくお願いいたしますわ!」
 ちょっと出遅れてしまったエリシア・ボックが、あわててそうみんなに言いました。

    ★    ★    ★

「お餅が食べたい……」
 芦原 郁乃(あはら・いくの)がつぶやきました。
 お正月ですから。
「たっゆんなおっぱいと同じくらい柔らかいお餅が食べたい」
 芦原郁乃がつけ加えました。
 仕方ありません、芦原郁乃ですから。
「お姉ちゃん……」
 勢いが余りすぎと、荀 灌(じゅん・かん)が心の中でつぶやきました。
 とはいえ、お正月ですし、芦原郁乃がお餅を食べたいという気持ちもよく分かります。ここは、お餅つきをするのが王道でしょう。
「さすが荀灌。私が市販のお餅パックじゃなくて、つきたてのお餅が食べたいってよく分かったよね。よおーし、頑張ってついちゃうぞー。うーん、あんころ餅がいいかなあ、ずんだ餅がいいかなあ、あべかわ餅がいいかなあ、からみ餅がいいかなあ、それとも磯辺巻き? じゅる……」
 もうすでに食べるときのことを思って、芦原郁乃があふれ出るよだれをあわてて啜りました。
 さて、餅米を蒸している間に、荀灌が、こんなこともあろうかと思って倉庫に放置しておいた杵と臼を引っ張り出してきます。ところが……。
「どうしよう、お姉ちゃん。杵、壊れちゃってるよ」
 あまりに放置しすぎたせいでしょうか、杵の柄が途中で折れてしまっています。どうしてこうなった。とりあえず、臼の方は、無事に使えるようですが。
「大丈夫、大丈夫。任せておきなさいって」
 ちょっと安請け合いすると、芦原郁乃が、炊きあがった餅米を臼の中へと移しました。
「ひょーお……。あたたたたたたたた、ちちちちちち。あちちちちちちち!!」
 いきなり、芦原郁乃が臼の中の餅米にむかってパンチを繰り出しました。杵がないのであれば、自らの拳で御飯をお餅にしてしまおうというわけです。ところが、炊きたての餅米は、あたりまえのように高温でした。
「なんの。心頭滅却すれば、餅もまた美味し。あたたたたたたたたたたたたた……!!」
 熱さを根性で押さえつけると、芦原郁乃が連続パンチを餅米に叩きつけていきました。
 どうなることかと思いましたが、意外とお餅になっていくようです。
「凄い、お姉ちゃん、ちゃんとお餅になっていくよ」
「ははははは、そうでしょう。さあ、ラストスパート行くよ。あたたたたたたたた……あたっ!! いてー!!」
 調子に乗って正拳突きを繰り出していた芦原郁乃ですが、突然大声をあげて後ろに飛び退きました。
 どうやら、寸止めで調子よく餅米だけを叩いていたのが、調子に乗りすぎてうっかり臼を叩いてしまったようです。
「だ、大丈夫!? お姉ちゃん」
「なんの、これも美味しいお餅のため。頑張っていくよー!」
 めげずに、餅叩きを続ける芦原郁乃でした。
 なんだか、凄いことをしている子がいると、近所の人たちが物珍しそうに集まってきます。ギャラリーが増えていくのに気をよくして、芦原郁乃が張り切りました。
「できたあっ!!」
 ついに餅をつききりました。芦原郁乃の勝利です。
 さあ、後は食べるだけです。さすがに、少しは休まないと、腕が痛いです。
「はい、皆さん、ならんでくださいね。はい、どうぞ」
 ちょっと芦原郁乃が休憩している間に、荀灌が、ギャラリーの人たちにお餅をおすそ分けしていきました。
「ようし、食べるぞー!」
 落ち着いた芦原郁乃が、箸を片手に叫びました。
「ええっと、はい、お姉ちゃん。最後の一個だよ」
 そう言って、荀灌がちっちゃなあんころ餅を芦原郁乃に差し出しました。調子に乗って、御近所さんに配りすぎてしまったようです。
「えっ、これだけ……」
 さすがに、唖然とする芦原郁乃でした。いくらなんでも、また正拳突きをするのはきついです。
「うん、でも、美味しいよ」
 パクンと一口でお餅を食べながら芦原郁乃が言いました。