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パラミタ・イヤー・ゼロ ~DEAD編~ (第1回/全3回)

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パラミタ・イヤー・ゼロ ~DEAD編~ (第1回/全3回)

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 神崎 荒神(かんざき・こうじん)たち一行は、一足先に拷問島の調査をはじめていた。
 彼のパートナー及川 猛(おいかわ・たける)は、先日おきた【ナスティ・ガールズ事件】の後、「調査会社パラミタデータバンク」を設立。表向きは会社の信用調査を行っているが、その裏では、八紘零が率いる多国籍企業【ZERO】をはじめとする、非合法な組織の調査や情報収集をおこなっていた。
 今回のミッションにおいて事前に公開された拷問島のデータは、及川の働きによるところが大きい。

「うーん。どうやっても、ここからじゃ入れないようだな」
 研究施設の入り口付近。中を調査しようとした荒神たちたが、北側のルートからは強固なバリケードが張り巡らされており、侵入は不可能だった。
「しかたない。別のルートをあたってみるか……」
 振り返った荒神の前に、一体の機晶ゾンビがあらわれる。
 すぐに戦いの構えをとる荒神だが、相手に敵意はないようだ。
 機晶ゾンビの隣にはアルベール・ハールマン(あるべーる・はーるまん)がいた。ふたりは旧知の友のように、肩を叩き合っている。
 どこまでも不条理なこの男。なぜかゾンビと打ち解けているではないか。

「アル。どうやってそいつを手なずけたんだ?」
 と訊く荒神に、
「綾様のパンツで手を打ちました」
 平然と、アルが応えた。ちなみに『綾様』とは、荒神の奥さんの名前である。
 嫁の勝負下着で芽生えた友情を生暖かく見守りながらも、荒神はゾンビの生態を調べ始めた。
 どうやらこのゾンビ、意識ある人間だったころは研究施設の所長をしていたようだ。さらに調べを進めると、所業の脳には、研究員を管理するための特殊なセンサーが埋め込まれており、そこから出る超音波で他のゾンビを操れることがわかった。
「いちどに操れるのは一体だけみたいだが……。こいつは便利だな」
 さっそく及川に命じて、所長ゾンビを地面に縫い付けさせた荒神。横たわるゾンビをリモコンのようにして、彼は、施設内にいるゾンビを操りはじめた。
「あまり長いこと触れていると、Cウィルスに感染してしまうかもしれません」
 ロザルバ・フランカルディ(ろざるば・ふらんかるでぃ)が、パートナーたちに防御魔法をかけていく。
「ありがとなローザ」
 荒神は礼をいうと、またゾンビの遠隔操作に傾注していった。


 彼らの調査は順調に進んでいたが。
「あ〜〜。ゾンビにそんなことしちゃ、ダメなんだよ〜〜」
 のんびりした口調の少女が、巨大なハンマーを持って現れた。
 メイド服を着たロリっ子。彼女こそが三種のギフトのひとり、【夜灼瓊禍玉】である。

「えいっ」
 と気合を入れて、夜灼瓊禍玉は巨大ハンマーを振り下ろした。
 グシャッ……! ジュブジュブ……! グチャリ……。
 腐った肉や臓物がすり潰され、所長ゾンビは何が何だかよくわからない状態になってしまった。
「おい! なんてことしやがる。貴重なリモコンが――」
 荒神が夜灼瓊禍玉に向きなおった。
 その時。
「主。ここは私が……」
 アルが、すぅっと荒神の前に立つ。
 仲間たちは気づいていた。口調こそいつものアルだか、彼は激怒している。ゾンビとはいえ、友人を無残な姿にされたことに対する怒り――。
「あのアホの理不尽さは半端やないで。嬢ちゃんも運がないのぉ……」
 及川がなかば同情をこめて言う。
 ロザルバも、
「貴女は最も危険な人物を相手にすることになったわ。無事でいられるといいわね」
 と、肩をすくめた。

 怯えた表情を浮かべる夜灼瓊禍玉に、ゆらゆらと近づいていくアル。
 そこへ――。



「ちょっと待って!」
 駆けつけてきたリネンが、アルと夜灼瓊禍玉、ふたりの間に入った。
「戦う前に確認しておきたいことがあるの。――あなた、お姉さんの事が好きなのよね」
 リネンはあくまでも優しく夜灼瓊禍玉に語りかける。
「けれど。お姉さんの好きな人は、本当にいい人なのかしら?」
 八紘零が行ってきた罪の重さを、目の前の少女はまだ理解できないのではないか。
 リネンは思う。
――彼女は幼すぎるわ。昔の、私のように……。

 リネンの言葉に、夜灼瓊禍玉は「この人は何を言っているのだろう」という顔をしていた。
「お姉ちゃんは、いつも正しいよぉ?」
 くりっとした瞳を見開いて、夜灼瓊禍玉が困惑げに応える。
 彼女はこれまで、姉である天殉血剣のすべてを信じてきた。だから、天殉血剣をちょっとでも否定するなど、彼女にはありえないことだったのである。
「――よく聞いて。もし、零がお姉さんを利用しようとしているなら……どうかしら。すぐ信じろとは言わないわ。けれど、まずは確かめてみない?」
 リネンの説得を受けて、夜灼瓊禍玉の様子がみるみる変わっていった。

「お姉ちゃんだけ……信じていれば……わたしは幸せだよぉ……」
 うわ言のようにつぶやく夜灼瓊禍玉に、痺れを切らしたフェイミィが叫んだ。
「おいっ! 誰かを好きになるのは大切だがな、依存するのとはわけが違うんだ。ちゃんと自分で考えろ! じゃねーと、ここにいるゾンビとなにも変わらねーぞ!」
「……ゾンビ? わたしが…………?」
 夜灼瓊禍玉が口をポカンと開けたまま、首を左右に振りながら、眼球をぐるぐると激しく動かしはじめた。
 彼女は生まれてはじめて、天殉血剣に疑問をいだいた。そのことで、夜灼瓊禍玉の頭はショートしてしまったのだ。
「わたしはゾンビわたしはゾンビわたしはゾンビわたしはゾンビわたしはゾンビわたしはゾンビわたしはゾンビわたしはゾンビわたしはゾンビわたしはゾンビわたしはゾンビわたしはゾンビわたしはゾンビわたしはゾンビわたしはゾンビわたしはゾンビわたしはゾンビわたしはゾンビわたしはゾンビわたしはゾンビわたしはゾンビわたしはゾンビわたしはゾンビわたしはゾンビわたしはゾンビわたしはゾンビわたしはゾンビわたしはゾンビわたしはゾンビわたしはゾンビ………………。いやぁぁぁぁ!」


「ダメだ。埒があかねぇ」
 発狂した夜灼瓊禍玉を見て、フェイミィが言う。
「いくぜ、リネン!」
「……しかたないわね」
 二人は『バーストダッシュ』で一気に距離をつづける。巨大なハンマーの攻撃をかわすと、フェイミィは熾天使の力を開放させた。
 上空からは、ヘイリーが“デファイアント”のブレスで周囲を焼きつくしていく。
「――ピンポイントはさすがに無理! こうなったらゾンビたちをまとめてふっ飛ばすよ!」
 彼女の指示により、親衛天馬騎兵――ヘイリーを慕う精鋭の天馬騎兵が、ゾンビを薙ぎ払っていった。


「その右手……もらったぁぁぁ!!」
 裂帛の気合とともに切りかかったのは、酒杜陽一である。
 彼は『W理子アタック』を切り結び、夜灼瓊禍玉の右腕を切り落とした。
「ひぃ……」
 右腕の断面を抑えながら震える夜灼瓊禍玉に、陽一は言う。
「理子様を襲った罪は、こんなものじゃ償いきれないぜ!」


 ミッションは成功したかにみえたが。
「――気をつけて! 島の中心から、誰か狙ってますわ!」
 周囲を警戒していたユーベルが、仲間たちに報告する。
 契約者が全員、島の中心に意識を向けた瞬間。スナイパーライフルの弾丸が、夜灼瓊禍玉の右腕を目がけて飛んできた。
「させるかよ!」
 いち早く反応したのは、柊恭也だ。彼は足元に転がる右腕をつかむと、身を翻す。
 その直後。右腕が転がっていた地面には、弾丸の穴が正確無比に穿たれていた。
「小癪なまねしやがって……どこのどいつだぁ!」
 恭也は右腕をつかんだまま、島の中心に向けて咆哮した。
「こそこそ隠れてねーで、でてこいやぁ!」
 スナイパーからの反応はない。彼の挑発にこたえたのは、拷問島に吹きすさぶ腥 (なまぐさ)い風だけだった。