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ナイトメア・カレイドスコープ

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ナイトメア・カレイドスコープ

リアクション

 セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)は神速を以て疾駆する。
 獣の影が逸脱者の傀儡として動くのならば、初めから戦闘を想定し観察していたセレンにとって、その間隙を縫うのは容易い。
 飢えた獣の行動を読むのは難しいが、操り人形は繰り手の意思に依存する。
 逸脱者からの死角に紛れ、捉えきれない速度で撹乱する。
 跳躍し、追うように飛びかかる獣を射出したワイヤーによる強引な軌道で回避する。
「偉そうに語った割に無能なのね! 大量にかき集めてこれじゃ、死んだ人たちも呆れてるんじゃない!?」
 挑発の言葉。
 逸脱者の感情によって操られる影は、制御を失いセレンに殺到する。
「……こうなれば本体は隙だらけね」
 影の攻撃を回避するセレンの援護として飛びかかるものを撃ち落としつつ、セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)は逸脱者の姿に狙いを定める。
 取り込んだ機晶石から発生したエネルギーを加え、銃弾を帯電させ破壊力を高めていく。
 逸脱者は動かない、いや、動けないのか。
「どっちにせよ、いい的よ」
 銃爪を引き、打ち出された弾丸は光線の如き速度で黒衣を貫いた。
「ぎ、ぐ、ぅ」
 追撃。セレンが逸脱者へと肉薄し、星振の力を得た剣をその身に――突き立てた。

「……ここで、終わるのか、我は」
「いいえ。とっくに終わってたのよ。死人の記憶を弄んで。生きている人間すら巻き込んで。
 元々どんな人間だったかは知らないけど――今ここにいるのはただの外道よ」

「…………ああ」
 終わる。喪ったはずのものを。この手に再び掴むまでは死ねぬと願った呪いが。
 他者の喪われた願いを貪り、いずれ届くと信じた悪夢が。
 ただ、ひとつだけ。

『――嗚呼。そもそも。私は死によって何を喪ったのだったか――』

 既に何者でもなかった“彼”は、その始まりすら喪っていた。


     /


 カタチを失った逸脱者は黒い獣と同じ影――あるいはそれが獣として形を成す前の汚濁へと変貌する。
 そこにヒトの意志らしきものはなく、ただ自己の維持を目的とする衝動のみがあった。
 『夢を見る匣』の試作機、その結晶に纏わりつき、蒐集された絶望の残滓を貪ろうとする。
「……またなんとも、往生際が悪いわねー」
 ルカルカが呆れたように言う。
「こうなるとアレを破壊するしかなさそうだけど……ダリル?」
「……仕方ないだろう。現実側の『匣』にどれほどの影響があるか分からんが、脱出するには妥当な判断だ」
 貴重なサンプルなら無傷で手に入れたくもあるが、とダリルは独りごちる。
「よーし、壊しちゃうぞー!」
「美羽さん、使ってください」
 ベアトリーチャの体から取り出した光条兵器を美羽が元気に振りかざし、巨大化カプセルのスイッチを入れると、小さな少女の身体が見上げるほどの巨躯となる。
「ダリル、私に力を貸して。貴方のうちに眠る力を!」
「了解だ」
 ダリルの胸元より顕現した覚醒光条兵器。
 それを構えたルカルカは、ダリルの援護によって加速し、高く高く飛び上がる。

 ――二つの光撃が、結晶を打ち砕く。


     /


 砕かれた結晶は、光の粒となって宙を舞う。
 それはまるで雪のように。
 ルカルカの「夢想の宴」によって、周囲は一面の花畑となる。
 奇跡のような光景だった。

『――ありがとう』

 純白に染まる箱庭に、少女の声が聞こえた気がした。


     /


「う……ん……あれ……? 皆さん、どうしたんですか……?」
「リーナさん! 良かった、意識が戻りました」
 奪われた魂が解放され、ベアトリーチェのグレーターヒールによって回復したリーナが目を覚ます。
「えっと、私、遺跡で……なにがどうなったんですか?」
「それはね――とりあえず帰りながら話しましょうか」
「後で『匣』の本体の確認に戻る必要はあるが。……今度から、未知の探索を行うなら仲間を募るといいぞ」
「あ――へへ、申し訳ないです……」

 遺跡の外にでた彼らの瞳には、本物の雪景色が映るのだろうか。
 それはきっと、箱庭で見た光景にも負けないくらいに綺麗な世界だろう。

担当マスターより

▼担当マスター

和式燐寸

▼マスターコメント

 というわけで終了いたしました今回のシナリオ、お付き合いいただき誠にありがとうございます。
 反省点多すぎるんだけどー! とりあえず形になって良かったけどー!
 今回は自分の趣味に走りすぎた感もあります。楽しんでいただけたら幸いですが……

 一番の反省点。シナリオガイドにおける提示情報の曖昧さ。
 遺跡戦闘なのか“箱庭”内での戦闘になるのか微妙に伝わってなさげでしたね。
 あと“魂の逸脱者”に関する説明不足とか。
 PCたちのクラス、ソウルアベレイターにはその技を教える者が存在し、それは「あまりにも力が強く、大陸が滅んでもなおナラカ(冥府)を生者のまま、何万年、何百万年、何億年と生き延びている者」という存在のようです。
 一応公式設定なんですが、そこを説明しないとただの人間と思われたりしますよね……なんていうかスミマセン。
 とりあえず今回登場したのは生者というか死者というか曖昧で、強力と言うにも微妙な奴です。
 設定的にセーフなのかしら……?

 というか今回リーナは完全に囚われのお姫様役でしたね……
 リーナといえば今回からNPCとして登録させていただきました。
 公開される時にはイラストも追加されてるのかな?
 素敵なラフを確認したので、非常に楽しみにしています。
 なんだかんだトラブルメーカーです。また何らかの厄介事に巻き込まれることでしょう。

 それでは今回はここまで。
 またお会いできることを祈りつつ。

▼マスター個別コメント