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学生たちの休日13+

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ヒラニプラのチョコレートキャンディ



「さあ、戦争の時間であります」
 狙撃銃や手榴弾でフル武装した葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)が、頭の上から段ボールを被りました。そのまま、ずずずずーっと、周囲に溶け込みながら移動していきます。
「また何か始めた……。見てないふり、見てないふり……」
 関われば、ろくなことにならないだろうと、コルセア・レキシントン(こるせあ・れきしんとん)が無視をします。
 そういえば、今朝、葛城吹雪が変なことを言っていたような気もします。
「今日は何の日か知ってるでありますか?」
「バレンタインでしょ」
 素っ気なく、コルセア・レキシントンは答えたはずです。
「そう。男女が欲望に溢れる、ぼっちにはつらい日なのであります! 今年のバレンタインは、ヒラニプラを戦場に変えてやるであります!!」
 とかなんとか言っていたような、いないような……。やはり、関わらない方がよさそうです。

    ★    ★    ★

「ああ、長かった……。幾多の試練を乗り越え、やっとここへと辿り着くことができたのだ」
 大仰に手を振るポーズを決めながら、鬼頭 翔(きとう・かける)が言いました。
「もう、邪魔する者たちはいない。やっと、この愛らしい娘と、二人っきりになることができたのだ。朱色の頭巾からのぞく漆黒の御髪も、水に濡れた射干玉の瞳も、全てを欲するこの俺の物となることを望む。さあ、お前の……だあああああっ!!」
 突然、鬼頭翔がもだえ苦しみ始めました。
「これ以上やってられるかあ!」
 手に持っていた台本を地面に叩きつけると、鬼頭翔が全身をかきむしります。
「だいたいにして、なんで、赤頭巾が男の娘で、しかもこいつなんだあ!」
 そう言って、鬼頭翔がオリバー・ナイツ(おりばー・ないつ)を指さしました。
「お嫌ですか?」
 オリバー・ナイツが、プロジェクタに投影された動画と同じポーズをとって、鬼頭翔に迫ろうとしました。すかさず、鬼頭翔が蹴りを入れて排除します。
「あー、ダメダメ。ちゃんとシナリオ通りにしていただけないとダメですわ。そんなんじゃ、実写化できないではありませんか」
 丸めた台本でポンポンと手を叩きながら、カミーユ・ゴールド(かみーゆ・ごーるど)が言いました。
「動画、巻き戻しますか?」
「いったん、止めていただけます?」
 ポントー・カタナブレードツルギ(ぽんとー・かたなぶれーどつるぎ)に問われて、カミーユ・ゴールドが答えました。
 上映されていたのは、カミーユ・ゴールド脚本によるドラマで、とりあえずポントー・カタナブレードツルギによってモデリングソフトによって3D動画化された物です。過剰な演出をされたこの動画を原作として、これを鬼頭翔とオリバー・ナイツ主演で、実写化しようというのが壮大なカミーユ・ゴールドの野望なのでした。
 ストーリーは、狼が赤頭巾に恋をしてしまうというものです。ところが、赤頭巾が実は男の娘であることを狼は知らないというまさに腐の遺産とでも言うべきストーリーなのでした。
「やってられるかよ!」
「何を言っているんですの。これから、もっとも盛りあがるシーンですのに」
「男とのキスなんかCGで充分だろうが!」
 さっさと鬼頭翔が逃げだそうとしますが、即座にカミーユ・ゴールドの配下の黒服たちに押さえ込まれてしまいました。
「仕方ありませんわね。ならば、その気にさせるまでですわ。あれをお持ちなさい」
「はーい」
 カミーユ・ゴールドに言われて、ポントー・カタナブレードツルギが何やらチョコレートの山を持って来ました。
「なんだ、それは……」
「ただのガラナチョコレートの山ですわ。今日はバレンタインですもの。さあ、これを食べて、早くその気になるのですわ!」
「うわああ……」
「ふふふふふふ……」
 強壮剤をこれでもかと練り込んだ特製謎料理チョコレートが、カミーユ・ゴールドが鬼頭翔の口にねじ込まれていきました。
 はたして、鬼頭翔の運命はいかに……。
 続きは、webで。

    ★    ★    ★

「それじゃあ、まっ、よろしく頼む」
 なんだかまだちょっと心配そうな顔で、長曽禰 広明(ながそね・ひろあき)が仕事へとむかいました。
「大丈夫、任せておいて」
 ドンと胸を叩きながら、割烹着姿の九条 ジェライザ・ローズ(くじょう・じぇらいざろーず)が長曽禰広明を送り出しました。
 こうしてアパートの玄関からお見送りをすると、なんだか新婚さんみたいです。てへっ。
 まあ、本当はまだ婚約者同士ですので、新婚さんではないのですが。でも、いずれはそうなる予定ですので、今のうちに予行演習しておかなければなりません。
 日頃お世話になっているお礼に部屋を片づけるという約束ですので、まずはきっちりと掃除をこなします。
「ベッドの下は……。いけない、いけない。よけいな所は触るなって言われてたんだっけ」
 ついお宝探しをしそうになって、九条ジェライザ・ローズが自重しました。
 当番制で家事は一通りこなしたことがありますので、順に片づけていくことにします。
 まずは部屋の掃除をテキパキと……、ああ、今のうちに洗濯機を回しておいた方が効率がいいはずです。
「ええと……えいっ!」
 さすがに男物のパンツとかに恥ずかしがってもいられませんので、一気に洗濯物を洗濯機にぶち込んで回します。その間にお掃除をして、終わるころには、今度は洗濯物を物干しに干します。それが終わったら、今度は買い物です。意外に、やることは山積みですね。長曽禰広明は、いつも一人でこれをこなしているのでしょうか。あまりそうには見えませんが……。やはり、九条ジェライザ・ローズのような者が、ちゃんとしてあげないといけません。
 買い物から帰ってきますと、当然洗濯物が乾いています。それをたたんだら、今度は夕飯の支度です。
 ああ、なんだか、本当に主婦しているような気に九条ジェライザ・ローズはなってきました。
「あっ、そうそう、お風呂も……沸かさないと」
 なぜかちょっと顔を赤らめながら、九条ジェライザ・ローズが風呂掃除をしてお湯を沸かします。
「さて、後は、今日のチョコレートだけれど……」
 さすがに、手の込んだ物は作っている時間がありません。かといって、できあいの物もなんとなく嫌です。
「ここは、ちょっと変化球かな」
 そうつぶやくと、九条ジェライザ・ローズはチョコレートを細かく刻み始めました。本来のスタイルで、チョコレートドリンクというのも、仕事で疲れた身にはちょうどいいのではないでしょうか。
「おーい、帰ったぞー」
 準備が整ったとたん、タイミングよく長曽禰広明が帰ってきました。
「はーい、おかえりなさーい」
 やっぱり新婚さんみたいと思いながら、九条ジェライザ・ローズは玄関へと小走りにむかっていきました。