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リアクション
「も、もしかして……と言うか、もしかしなくても……」
そう、アリス・ウィリス(ありす・うぃりす)迷子だった。
どの道をどう通れば辿り着けるのか、そして守衛が何故スルーしたのかは謎だが、アリスはプラヴダの基地内を歩き回っていたのである。だが此処はお兄ちゃんの領域だ。デパートや遊園地の従業員より早く、戻ってきたばかりのアレクが、早々にこの小さな生き物を見つけた。
「どうやって入ってきたか……なんて聞くのは無意味なんだろうなお前には」
「アレクおにーちゃん!」
駆け寄ってきたアリスが『消えないように』先に手を繋いで捕まえておくと、アレクは空いた片手で端末を打ち始めた。
連絡する先はミリア・アンドレッティ(みりあ・あんどれってぃ)だ。
暴走の気がある及川 翠(おいかわ・みどり)やサリア・アンドレッティ(さりあ・あんどれってぃ)より彼女にするのが一番だろうと、アレクはもう分かっている。何時ものパターンだからやり取りはスムーズに行われ、アリスを車に乗せアレクは空京で翠らと合流を果たした。
スヴェトラーナ達が居ない事に気付いてすぐ、下官に確認させながら自らも基地内を軽く流していたアレクは、駐車スペースで空京大学の地図を発見していた。これだけで何となく察した彼が、大学へ直行するつもりだったルートを変更した為、彼女達は計らずとも時間稼ぎに一役買った事になるだろう。
「アレクさん、お世話様」
「お待ちどう様」
「アリスちゃん、今日もまたなの」
「む〜、どうしていつも迷子になるのかなぁ……」
翠とサリアにそう言われても、アリス自身この方向音痴を越えた何かが多発する理由は分からないらしく笑って誤摩化している。
「このまま送る。家か……休みだから学校は無いか。何処だ?」
アリスならば走行中の座席から消えてしまうかもしれない。冗談のような本当の予感に後部座席の扉をロックをしながら質問してくるアレクに、ミリアが口を開きかけていると、真ん中のシートに座っていた翠たちが最後列で何かを見つけきゃいきゃいと騒ぎ出した。
「アレクおにーちゃん、これ何なの?」
「かわいい!」
「モフモフしてる、触って良い?」
「も、もふもふ!?」
「俺はこれから空大行くつもりだったんだが――」
言っても少女達の興味は完全に後ろのあれに向いている。困った様に笑って、アレクはハンドルを握り振り返った。
「ちゃんと座ってシートベルトしろよ」
同じ頃。
「居ねぇな、ちびアレク」
呟く陣に、同じく研究所内を探しまわっていた神崎 輝(かんざき・ひかる)と神崎 瑠奈(かんざき・るな)は、グラキエスらと顔を見合わせて眉を寄せた。因にウルディカは回復を試みるスヴェトラーナに付き添われて戦線を離脱している。彼はやはり爆発した方が良かったかもしれない。
「手分けして探してみたんですが、駄目みたいです」
一瀬 真鈴(いちのせ・まりん)が肩を落として言うのに、千返 かつみ(ちがえ・かつみ)は小動物に攻撃されまくってボサボサになった髪を撫でつけながら首を横に振った。小動物の行進に何かのイベントかと思ってついてきたところを、ジゼルらと会い事件解決に協力していたのだ。
「こっちも見つからない。
っていうかなんか俺ばっかり集中して攻撃されてないか?」
「どうやらかつみは他の人と勘違いされてるらしいな」
ノーン・ノート(のーん・のーと)が今迄の状況と照らし合わせてそう推測すると、ジゼルがノーンと考え込んでいる様子の千返 ナオ(ちがえ・なお)へ向いた。
「うぅんとね、さっきダジボークがね、『茶髪』の『でかい男』は爆破するって言ってたの。だからじゃないかしら?」
「そういえばかつみさん髪が茶色いし、背も高めですね」
「『キアラちゃんのため』って言ってたからきっとアルケリウスの事よ。
キアラ、トーヴァに彼氏が出来てしょんぼりしてたから」
「つまり俺は誰かの彼氏に間違われた所為で攻撃されてるのか……」
「全く酷い話だな。
こいつは、私が神頼みしないといけないぐらいリア充と縁がないというのに!」
「本当ねぇ。きっと動物さんたちは特徴しか知らないのよ。私アルケリウスじゃかつみとは全然似ていないと思うもの」
「大方そちらの方がイケメンなのだろうな」
ノーンの呟きに、アルケリウス及び彼と同じ顔の弟を見た事の有る全員が気まずい沈黙に囚われた。
「べ、別にかつみが格好良く無いとかじゃないわ!
ただかつみの方が歳の割にちょっと子供っぽい顔っていうか、なんかぼんやりした感じがするっていうか…………眼鏡は素敵よ!!」
「…………ありがとう」
ジゼルが知らずかつみに追い打ちをかけていた折、彼女はある気配を感じ取った。
「ぁ…………。お兄ちゃんがこっちにきてる!」
「マスターどうしましょう。アレックスさんがきたら、アカリさんたちの首が危ういです!」
「いや幾らなんでもそこまでしねーだろ。
でも確かに時間が無ぇな。
爆弾はあと一発……アレク似の生ものは見つからねぇし」
ベルクが言うのに、輝は溜め息を吐き出した。
「ほんとに爆破とかなったら洒落にならないので、何とか探し出して爆弾回収しないとですね……」
「爆発しろ……まぁ気持ちはちょっとわかりますけど、流石にリアルで爆破は……」
彼氏無しの真鈴から思わず本音が漏れかける。
「できるだけ仲良くして止まってもらうか眠ってもらうかして、できるだけ傷つけないようにして確保したいですよね。
でもどうしたら……」
ナオの言葉の後は、また揃って沈黙だ。そんな中、フレンディスは端末の画面をじーっと見つめているジゼルに気がついた。
「ジゼルさん?」
人差し指が、お絵描き機能でアレクの写真の上に何かを描いている。
「思ってないわよ!?
ちっちゃいアレクにふわふわのお耳が生えるとあんなに可愛いんだもの、大きいアレクにふわふのお耳が生えたらどうかしらとか思ってないわよ!」
「妄想ダダッ漏れだろ」
「待って!
……もし兄タロウがお人形さん用の眼鏡をかけたら…………」
「ところでジゼルさん、K.O.H.って一体何の略なのでしょう?」
「ううーん?『きんぐ』『おぶ』『はむすたー』? かしら。
ぱっこないけど」
「『可愛い』『お兄ちゃん』『はむすたー』かもしれませぬ……これぞ……」
キラキラした瞳で何処かの世界へ飛び去って行くフレンディスとジゼルは放置して、作戦会議は続く。もう一度口を開いたのはグラキエスだ。
「キースの探索だけでは足りていないか……」
「やっぱもっと効率的な方法を探さねぇとか。ああくっそ……なんかねぇか?」
ベルクが背中を打ち付けるように乱暴に壁に凭れると、続いて輝が言葉を漏らした。
「こっちから動けないでしょうか」
「お兄ちゃんお兄ちゃん、動物さん探すならボクでもできそうにゃ〜」
輝の服の裾を引っ張って、瑠奈が何かを提案している。輝は意図を理解して感嘆の声をあげた。
「そっか! 獣寄せの口笛だね」
「うん。そのK.O.H.が寄ってくるかは分かんないけど、駄目もとでやってみますにゃ〜」
言って瑠奈は行きを大きく吸い込んだ。
ピーッ
と甲高い音が辺りに響く間、輝はフレンディスとまだキラキラしているジゼルを見ている。
「K.O.H.の説得は、やはりジゼルさんにお願いした方がいいですかねー」
「ああ、期待しよう」
グラキエスが頷くと、廊下の向こうから二人組が長い足で此方へ向かってくる。セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)とセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)だった。
「スヴェトラーナから話は聞いたわ。
私も教導団中尉に昇進してから、研修だのなんだのでめちゃくちゃ忙しくてセレアナとHする暇もなくて欲求不満だから、何となく気持ちはわかるわ!」
「セレン…………」
大胆な発言に空京大学がとんでもない危機だと聞いて頭痛を覚えていたパートナーはいよいよ頭を抱え、何人かは赤面したり目を反らしたりしたが、セレンフィリティはそれを意にも介さずというか気付きもせずに、「でもそれはそれよね」と肩をすくめる。
「問題は『元凶となるK.O.H.をどう捕まえるか?』よ。今の音、獣寄せの口笛よね。それで――」
セレンフィリティの言葉と、皆の動きはそこで止まった。
床、机、棚の上から現れた小動物達。それらの王のように、威風堂々たる仁王立ちで、K.O.H.が彼等を見下ろしていたのだ。
「くちくしてやる……このよから……いっぴき……のこらず!」
K.O.H.は思いきり、漫画に影響されていた。
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