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「お薬」の差し入れ

面会謝絶状態で、療養生活を送る、
吸血鬼の少女 アイシャ(きゅうけつきのしょうじょ・あいしゃ)の元に届いたのは、
騎沙良 詩穂(きさら・しほ)からの2通目の手紙と、小さな箱であった。

「……なんでしょう?」
手紙の他に贈り物が届いたのを見て、アイシャはベッドの上で首をかしげる。

そして、詩穂からの手紙を開封し、読み進めるうちに、
アイシャの顔に浮かんでいた微笑は、驚きに代わり……そして、深い笑みとなった。

「詩穂ったら……。
いつも、私を驚かせてくれるんですね」

箱を開けて、アイシャの喉が上下する。
それは、吸血鬼であれば誰もが渇望する……人間の血液だった。
輸血パックに入ったそれは、
詩穂が、アイシャの身体を案じて、自ら献血したものであった。

かつて、フマナで初めて出会った時も、
アイシャを回復させるため、
詩穂は自ら、吸精幻夜の血を差し出したことがある。

小柄な体格であるため、いくら契約者であるとはいえ、
一番小さな輸血パックを満たせない、ということを、詩穂は、手紙で詫びていた。
しかし、この「薬」が、
アイシャのことを想って差し出されたものであり、
文字通りの意味での献身であることを、アイシャは心から感謝していた。

「ありがとうございます……詩穂」
お礼を言って、輸血パックを開封し、同封されていたストローを刺して、
アイシャはそれを口に運ぶ。

どくり。

心臓の鼓動が、全身に、その「薬」の効果が一気に効き始めたことを告げる。

吸血鬼にとって、何よりも甘美で、何よりも強く渇望するもの。
もちろん、日常生活において、吸血行為をしなくても、生きていくことはできる。
しかし、吸血鬼の本能が……そのように創られた生命体としての本能が……目覚めたのだった。

アイシャの治療はもとより万全のものであり、
生命の危機から、こうして、ベッドに身を起こして、
手紙のやりとりをすることができるまでになっていた。
しかし、この「薬」は……想いの力も相まって、さらに、アイシャの回復を促すことになるだろう。

「ありがとう……」
一口、飲み込むごとに、アイシャの目からは、自然と涙がこぼれていた。
自分を想ってくれた、大切な人への感謝が、
温かい真心が、アイシャの心と身体を温めてくれていた。



「詩穂へ

お手紙と、そして……「飲み薬」の差し入れ、どうもありがとう。
あなたの真心が、伝わってきました。

私のために、詩穂の身体を傷つけて、無理をさせてしまって、ごめんなさい。
それでも、私は、やはり吸血鬼だったんです。
初めて出会った時のこと、思い出しました。
あの時と同じように、詩穂は、私を助けてくれましたね。

だから、申し訳ない思い以上に……私は、とても、うれしかったんです。
改めて、お礼を言います。
どうもありがとう。

……そして、詩穂の言うとおり、一番の薬はお互いの笑顔……たしかに、そうですね。
早く、元気になって、一日も早く、詩穂や、皆さんを安心させたいと思っています。

詩穂は、私に、改めて、生きていく勇気をくれました。

約束の通り、来年以降、また、詩穂のお誕生日を、
一緒にお祝いできるといいなって思っています。

だから、もう少しだけ、待っていてください。
私は、1人ではないと、実感することができたから……これまでより、もっと頑張ることができます。

世界は、いまだ、大変なままだけど……。
きっと、詩穂や、皆さんが、救ってくれると、そう信じています。

私も、世界の平和と、皆さんの……そして、詩穂の無事を祈っています。

再び会えるその日を、心待ちにしています。

アイシャ」