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種もみ学院~荒野に種をまけ

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種もみ学院~荒野に種をまけ

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 一行が出発したのを、舞花は少し離れた高台から見ていた。
 砂埃をあげて進む彼らの姿が見えなくなるまで見送ると、舞花は携帯でエリシア・ボック(えりしあ・ぼっく)に連絡を取った。
「そちらはどうですか?」
『集まってきましたわ』
 空飛ぶ箒シュヴァルベに乗り上空待機しているエリシアの姿は、光学モザイクがかけられているため、パッと見ただけではそこに彼女がいることには気づけないだろう。
 エリシアの足元は、舞花が立てた作戦の実行ポイントだ。
 『チョウコ達が運んでいる物資は偽物で、実はドデカイお宝と物資を運ぶ種もみ学院生の別動隊がいる』
 という噂を、舞花が賊に紛れ込ませた情報工作専門員が流し、作戦ポイントに誘導したのだ。
 エリシアはその地点に飛行機の残骸や、その他伝手を用いて集めた資材で物資輸送機体が待機しているように見せかけ、そこに機晶爆弾を設置したのである。
 続々と集まってくる賊の姿を見下ろしながら、エリシアは思わずと言ったふうに呟いた。
「まるで家庭害虫……」
『エリシア様、何か言いましたか?』
「いえ、何でもありませんわ。そろそろ機ですわね」
『お願いしますね』
 いったん通信を切り、エリシアは地上の様子に集中した。
「こいつにお宝があんのかぁ? どれどれ、どーこーだー?」
 おびき寄せられたとは考えもしない賊達が機体に張り付き、ありもしないお宝の姿を暴こうとする。
 エリシアはニヤリとして起爆スイッチを押した。
 ドォーン、と上がった爆音と爆風。
 賊の数人が「あ〜れ〜」と宙に舞い上げられている。
「ふふっ。タフそうですし、死にはしないでしょう」
 エリシアは砂埃が晴れる前にそこを飛び去り、舞花のもとへ向かった。


 この日、セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)は荒野の巡回を行っていた。
「今日の荒野のお天気は、一日中埃っぽいでしょう、と」
 歌うように言ったセレンフィリティに、セレアナは小さく吹き出す。
「何、それは?」
「退屈なのよ、察して」
「仕事中よ。だらけてはダメよ」
 セレアナにたしなめられるも、セレンフィリティはのん気にあくびをしている。
「歩けど歩けど景色は変わらず、まるでずっとその場で足踏みしているみたいじゃない?」
「景色なら変わっているわ。ほら、あの雲。さっきとはずい分形が違うわよ」
「雲って……。そんなの眺めてるなんて、セレアナも退屈だったのねぇ」
「ち、違うわよ。空に不審なものが飛んでないかも見ていたの」
「はいはい。そういうことにしときましょ」
 軽く受け流されたセレアナは不満そうな顔をしたが、次の瞬間には表情を引き締めて前方を見据えていた。
「セレン……」
「ええ、ただの喧嘩なら放置でいいけど……最近、アーガマーハで力を得たパラ実生が悪さを働いているって言うし」
 二人は音のするほうへ駆け出した。
 岩の多いところで、その戦闘は行われていた。
 大きな荷物を積んだ馬車を守っているパラ実生と、それを狙う逆立った金髪の群。
 少し離れた岩に身を隠し、二人はそれを見ていた。
「あのTシャツ、種もみ生ね」
 セレンフィリティが種もみ生と判断したTシャツには、『芸能人』と大きな字のプリントがある。
 そういえば、と思い出すセレアナ。
「種もみ生がもらった寄付金を物資に変えて、いくつかのオアシスに運ぶという話があったわね」
「よし、助けるわよ。あの金髪ヒャッハー軍団は面倒くさそうだわ」
 言うなりセレンフィリティはゴッドスピード全開で飛び出した。
 一番近くにいたスーパーパラ実生の間近に迫ると、大剣『希望の旋律』で連撃を食らわせ地に沈める。
「盗みはいけないって、お母さんに習わなかったのかしら!」
「げっ、国軍の制服……!」
「一人か? たたんじまえ!」
「ついでにおっぱい揉んじゃうぜぇ〜。うぇっへっへ」
「……私のセレンには触れさせない」
 最後に下卑たことを言ったスーパーパラ実生は、ゆらりと冷気をまとって現れたセレアナが放ったタイムコントロールの光に包まれた。
 彼の体はみるみる小さくなり、七歳か八歳ほどにまで退行してしまった。
「な、何だこれ!」
「その幼さで、どこまで戦えるかしらね」
 暗くクスクス笑うセレアナに、周りはもちろんセレンフィリティも怖いと思った。
 しかし、まだ数で勝っていると気を取り直したスーパーパラ実生達は、国軍の二人から排除することにしたようだ。
 セレンフィリティも気を抜かず、大剣を構え直す。
 鉄パイプを振りかざし殺到する金髪達を、銃舞の足さばきでかわし、大剣を叩き込んでいく。
 スーパーパラ実生達はバタバタと倒れていくが、すぐに立ち上がって再び挑んできた。
「やっぱり面倒くさかったか……」
 セレンフィリティは自身の勘が当たってしまったことに、少し嫌そうな顔をした。
 セレアナはタイムコントロールで数人を子供にすると、離れたところからセレンフィリティを狙おうとするスーパーパラ実生へ、青のリターニングダガーを放った。
 その名の通り青い軌跡を描いて飛んだダガーは、スーパーパラ実生の中距離からの攻撃の邪魔をした。
 奮闘する二人に、種もみ生から声がかかる。
「加勢ありがとな! ──おい、俺らもやるぞ! チェーンソー持って来い!」
 仲間からチェーンソーを受け取ったパラ実生は、それを振りかざしスーパーパラ実生達の中へ特攻した。
「……やっぱり動きにくいわね。ええいっ、こんなもの邪魔よ!」
 突然、セレンフィリティは制服を脱ぎ捨てた。
 今日は仕事だからと制服を着ていたのだが、ついに我慢できなくなり普段の青いビキニ姿になったのだ。
「やっぱり戦士の戦装束はこうでないと」
「うおおおお! なんと加勢は女神様だった!」
 種もみ生が燃(萌)えた。
 そしてセレンフィリティと一緒に来たセレアナにも期待の目が向けられたが、彼女とそっと知らぬふりをした。
 一方セレンフィリティは体を窮屈にさせるものがなくなったため、より生き生きと戦っている。
 今や大剣は地に突き刺して使わず、拳に魔力を集めて強力な一撃でスーパーパラ実生と乱闘している。
「あんた達の稚拙な攻撃なんて一生当たらないわよ!」
「くそっ」
 銃舞に翻弄され、焦れて攻撃が雑になったところに、セレンフィリティの強烈な蹴りが決まる。
 動けるスーパーパラ実生がだいぶ減ったところでセレアナが種もみ生に促した。
「あなた達は行きなさい!」
「すまねぇ、恩に着る!」
 種もみ生達は素直に聞き入れ、馬車を守りながら離脱していった。