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リアクション
■ 1泊目 ■
ツァンダ、こどもの家『こかげ』。
出迎えは、ネージュ・フロゥ(ねーじゅ・ふろう)と高天原 水穂(たかまがはら・みずほ)。
そして、『こかげ』の獣人の子等だった。
今夜は此処で一泊する予定であった。
こかげの部屋数は、児童館部分をあわせて余裕があり、系譜の一行に泊まってもなんら問題は無い。
それを踏まえ、ネージュはオファーを飛ばしたのだ。
荒野にある他の福祉施設と何度か行き来している経験から、遠い地で環境は違えどそれなりに過ごすことはできるだろうと判断した破名は迷惑でなければ是非にとネージュに返事を出していた。
荒野とは違った『森の孤児院』。果たして系譜の子等は交流を経てどんな思い出を作り上げるだろう。
破名は系譜の子に動くなと指示を出して、ネージュと水穂の元に向かう。
「今夜は世話になる」
「こちらこそよろしくだよ!」
「特に注意すべきことはあるだろうか」
「えーと、そうだね」
代表者同士挨拶を交わして、互いの簡単な諸注意や情報を交換して、破名は振り返った。
「シェリー、あとは任せた」
呼ばれて、シェリーは弟妹達にもう一度並ぶように声を掛け、
「今夜は一泊お世話になります」
こかげの皆に向かって声を張り上げた。
「改めて、シェリーよ。何か悪いことをしたら教えて」
「園長先生兼主任保育士の水穂ですわ。わからないことがありましたらなんなりとどうぞ」
「ありがとう。さっそく聞いてもいいかしら? 荷物はどこに置かせてもらえるの?」
「では、案内いたしますわね」
「お願いします」
孤児院同士の交流は経験がないわけじゃなく、系譜の子等は、こかげの皆にそれぞれ自己紹介をするとどこに何があるのとか、入っていけない場所はあるのかと活動範囲の確認をしている。
活発なフェオルですら借りてきた猫のように大人しい。
先頭は瑞穂とシェリー、最後尾で歩く破名は施設内を眺め、ネージュへと視線を移した。
「ネージュ、見たことがあると思ったんだが、あれか、改装の時に持ってきてくれた資料のか」
「うん、そうだよ」
「くろふぉーど、おといれーおといれそっくりー」
駆けてきたフェオルに、ネージュが目線を合わせた。
「あれ、見てきたの?」
「うん、いっしょー?」
「そうだね」
系譜の改装後のトイレはこかげのトイレを見本にしている。方向性が似ていて当たり前だ。
「かわいかった! ほかにもみたい!」
「じゃぁ、瑞穂さんにお願いしようか」
「うん!」
手を握って列に戻っていく二人を見送り、破名は首を巡らす。センス感性共に皆無に近く、基準に合わせて建てられた建物の良さはわからないものの、初めて来た場所にも関わらず子供達がリラックスしていることに、ふむと小さく頷く。
寝起きは一階の食堂を兼ねた多目的室と二階のお昼寝室が充当され、後は自由にどうぞと解放された。他にも事務室や遊戯室、浴室、厨房、二階もあり、そちらは居室やお昼寝室と孤児達の生活圏となっているようだ。
「マザーも連れて来ればよかったな」
戻ってきたネージュに部屋のひとつひとつの説明を受けて、破名はこの場にいない人を思い出した。
…※…※…※…
「ご飯ってどんなの出るのかな? ネージュの料理? って、カレー?」
やったぁーと歓声が上がる。
過去に何度か作ってもらい食べたことがあるので系譜の皆は興奮気味だ。
それが共通の話題になったのだろうか、食堂内はその話題で持ち切りだった。
「水穂、ネージュ、何かお手伝いできることある?」
シェリーとニカが厨房に顔を出した。
「えぇっと、少し待ってていただけますか? ねじゅちゃん、そちらお願いしますわ」
忙しなく指示を出す水穂は「では、食器を」と、シェリー達が気兼ね無いように適切に対応した。
ネージュご自慢の森のこかげカレー。
水穂お手製のお月見ハンバーグを中心に料理のレパートリーは多く、テーブルの上は賑やかで、時間はあっという間に過ぎ去っていった。
寝るのも惜しく、就寝時間ギリギリまで二つの孤児院の交流は続く。
ロウソク一本ではなく、キャンドルライトの明かりを囲む光景は、仄かに暖かく、また、優しい。
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